プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として東京と横浜に事務所を構えています。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
夫側、妻側、それぞれに立場に応じて弁護活動を行っています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)
今回は、離婚のために、3年〜5年必要だとされている別居期間に関して、事情により、それより短くても離婚が認められたり、長くても離婚が認められないことについて解説します。
もちろん、主に裁判で離婚が争われた場合のことを念頭においていますが、協議や調停でも、裁判で離婚が認められる内容かどうかが、交渉力の基準になります。したがって、以下お話しする内容は、離婚手続きのどの段階においても、重要と言えます。
それでは、具体的に見ていきましょう。
1 別居期間が短くても離婚が認められるケース
まず、別居期間がなくても、法定離婚原因がある場合は、離婚が認容されます。法定離婚原因は、以下のとおりです。
民法第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
上記の1から4に当たる場合は、別居期間がなくても離婚が認められます。逆にいうと、別居期間が必要なのは、1から4の事情がないケースです。5の、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」に当たるかどうかで問題となります。
それでは、どういう場合に別居期間がそれほどなくても離婚が認められるのか(5の「その他婚姻を継続し難い重大な事由がある」とみなされるか)を見ていきましょう。
①同居時から関係が劣悪
同居時からすでに喧嘩三昧であり、関係が劣悪だったケースでは、別居期間がほとんどなくても、別居さえしていれば離婚が認められます。
とはいえ、同居期間中の関係がどうだったかは、相手が認めない限りは証拠で示す必要があります。同居期間中のラインのやり取りや、喧嘩をしていた最中の音声、喧嘩で部屋が散乱している様子の写真や、物が投げられて壁に傷が生じている様子などから、関係の劣悪さを証明していくことになります。
こうした証拠が重なり、誰がみても別居前の関係性が劣悪だったということになれば、別居期間がほとんどなくても、別居さえしていれば、離婚は認められるでしょう。
逆にいうと、同居期間中の関係が劣悪だったとしても、別居は必要だということでもあります。同居をしている限り、共同生活をおこなっていると言えるからです。そこは注意しておきましょう。
②別居後、ほぼ音信不通
別居してから1年から2年、音信不通である場合は、離婚が極めて認められやすいといえます。連絡のやり取りすらなければ、夫婦の共同生活があったとは言えないからです。とはいえ、別居して1年以内だと、関係の修復が不可能とまでは言いづらいため、1年以上の別居は必要と言えるでしょう。
ただ、離婚の打診、調停、裁判をフルコースで行おうとすれば、1年以上はほぼ確実にかかりますから、すでに音信不通の状況であれば、裁判での離婚も視野に、裁判所の手続きに踏み切るべきと言えるでしょう。
③双方ともに離婚を希望
双方ともに離婚を希望している場合は、離婚は認められます。別居して間がなかったり、別居自体していなくても、認められるでしょう。
離婚を双方とも希望しているのであれば、離婚届を提出すれば良いのでは?と思われるかもしれませんが、離婚はそれほど簡単ではありません。お互いに離婚の方向性自体は一致していても、その条件面で一致できない場合は、離婚届の提出にまでこぎつけられないのです。
とは言え、ここでいう、「離婚を希望している」という態度は、ある程度客観的に残っているものに限られます。人の気持ちがうつろうことは裁判所も重々理解していますから、会話の中で、離婚には応じる旨を述べただけでは、「離婚を希望している」とまではみなされません。
例えば、
・離婚したいので離婚協議を開始したい旨を、弁護士を通じて書面で述べた、
・離婚調停を申し立てた、
・離婚裁判を申し立てた、
といった、公の書面で離婚の意思を明確にした場合は、「離婚を希望している」とみなされるでしょう。
公の書面で離婚の希望を表明した場合、後から、やっぱり離婚する気はなかった、離婚する気は無くなったと言っても、裁判ではあまり通用しません。その言葉を信じて、相手も、離婚に向けてスタートを切っており、その時点で夫婦関係を修復できる余地は無くなったとみなされるからです。
④監護者指定の争いを行なっている
子供を連れ去って別居になった場合、監護者指定の審判で争いになるケースは多くあります。この場合、審判手続では、お互いの人格攻撃に近い主張合戦が行われることになります。審判手続における、お互いの人格攻撃に近い主張合戦を経ると、通常、夫婦関係の修復は、もはや不可能とみなされます。
⑤双方ともに有責性がある
一般的に、有責配偶者(不貞などをして、法定離婚原因を作り出した側)からの離婚請求は認められないとされますが、それでも、相手にも同じような有責事由がある場合は、別居期間がなくとも、離婚は認容されます。
別居期間が短くても、裁判で離婚が認められた事例については、以下の記事でも紹介しています。どうぞご参照ください。
1.別居期間が短いと裁判では離婚は認められないの?妻(夫)が絶対に離婚には応じないと言っています。別居期間も短いですし、裁判になったら離婚は認められないんですよね?旦那様または奥様に離婚をしたいと伝えても、相手が応じてくれることがまっ[…]
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2 別居期間が長くても離婚が認められないケース
次は、逆に、5年近くの別居期間があっても、離婚が認められないケースです。どういう場合に離婚は認められづらいのでしょうか。
①相手が女性(妻)で子供を監護している場合
別居期間が5年に及びそうでも、離婚に応じないのが女性(妻)側で、未就学児や低学年の子供を監護している場合、離婚が認められないことがあります。
私自身、事件を処理する中で、とある裁判官から、はっきりと、「経済的な自立のための期間を設けさせるという視点も、離婚に必要な別居期間に影響する」と言われたことがあります。
つまり、離婚を請求されている側が、経済的に強い立場か、そうでないかによって、裁判所の判断が変わることは確かにあるということです。ただし、婚姻関係が破綻しているかどうかを問うのが法律の規定ですから、このような事情で破綻の有無が変わるのでは、法理論的には破綻していると言えるでしょう。しかし、これが実際の裁判運用です。
②話し合いを拒否して一方的に別居した場合
別居前に話し合いをせず、一方的に別居を試み、その後も話し合いに応じなかったというケースでは、5年の別居期間があっても離婚が認められない場合があります。
確かに、その別居に正当性がなく、相手としても、話し合いすらできておらず、夫婦関係をどのように改善・解消していくべきか分からないという状況ですから、夫婦関係の改善が不可能とまでは判断できないことになります。
実際にも、7年間の別居期間がありながら、離婚を認めなかった事例として、東京高裁平成30年12月5日判決があります。もっとも、この裁判例は、相手が女性(妻)で子供を監護している場合なので、上記①と重複することに注意が必要です。以下の記事でも紹介している事案なので、ご参照ください。
今回紹介する判例は、7年間の別居期間があるにも関わらず、離婚を求める配偶者自身が夫婦間の話し合いを拒絶しているケースにおいては、婚姻関係が破綻しているとは言えない(離婚は認められない)とした東京高裁平成30年12月5日判決(判タ1461号1[…]
③相手が病気で仕事につけないケース
相手が病気で稼働できないケースでは、その生活をある程度の期間保障する必要があるという観点から、5年の別居期間では足りない場合があります。ただ、これは特に、婚姻期間が数十年に及ぶような場合です。
ただし、このように、婚姻制度を生活保障制度に準じて考えるのは、日本特有のあり方です。欧米諸国では、こうした考え方を積極的に退けており、婚姻制度を、純粋に各人が幸福を追求する選択肢の一つとみなしているのが普通です。そのため、これらの先進諸国では、1年から2年の別居期間があれば、別居の理由を問わず、離婚を認めています。
④有責配偶者からの離婚請求
日本では、法定離婚原因を作り出した配偶者(有責配偶者)からの離婚請求については、厳しい条件でのみ認められています。
具体的には、10年程度の別居期間は必要となりますし、未成熟子がいないことも必要です。また、離婚によって相手が生活困難に陥るような場合も、離婚は認められません。
なお、有責配偶者からの離婚請求を制限する運用も、日本特有のあり方です。
諸外国との離婚制度の比較を以下の記事で行っておりますので、ご興味があれば、ご参照ください。
今回は、日本が先進諸国に比べて、離婚が認められづらい実情について、解説します。1 世界は離婚の自由化へ向かっている世界では、時代の進みとともに、離婚が自由化の方向へ動いています。人権保護の潮流として、世界は、各個人に人生の選択権を豊富[…]
まとめ
☑️法定離婚原因がなくても、別居期間が3年〜5年あれば、離婚が認められるのが通常です!
☑️別居期間がそれより短くても離婚が認められるのは以下のようなケースです!
①同居時から関係が劣悪
②別居後、ほぼ音信不通
③双方ともに離婚を希望
④監護者指定の争いを行なっている
⑤双方ともに有責性がある
☑️別居期間がそれより長くても離婚が認められないのは以下のようなケースです!
①相手が女性(妻)で子供を監護している場合
②話し合いを拒否して一方的に別居した場合
③相手が病気で仕事につけないケース
④有責配偶者からの離婚請求
弁護士のホンネ
一般的に、別居期間が3年から5年あれば離婚ができる、と言われており、それは概ね間違いありません。ただ、そうした場合でも、やはり例外的な扱いがされているケースも多々あります。今回は、そうした例外的なケースにフォーカスをしてお伝えしました。
ところで、本文でも述べましたが、日本の離婚制度に関しては、先進諸国との差は際立ちます。他の分野の諸制度は概ね先進諸国と軌を一にしていますが、離婚制度に関しては、不思議なことに、他の先進諸国と大きく異なっているのです。
例えば、イギリス、ドイツ、フランス、アメリカなどの先進諸国では、別居期間として平均1年〜2年を必要とするものの、そうした期間の満了により、別居理由を問わず、離婚を認容するという法制度を確立させています。そのため、別居期間の経過を待つような形で人生を無為に過ごすこともありません。
専門家でも、外国の法制までは詳しく調べたことがない方も多いでしょう。
今回の記事が、さまざまな方面で、お役に立てましたら幸いです。
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