セックスレス、性交拒否で離婚慰謝料を請求したい!慰謝料請求の方法、相場について

・性交拒否、セックスレスによる離婚慰謝料請求について
・慰謝料請求のためには合理的な理由がないことが必要
・過去の裁判例の検討

性交拒否、セックスレスによる離婚慰謝料請求について

妻が一切夫婦生活に応じてくれず、もう子供が生まれてから10年以上もセックスレスの状態です。性交拒否は慰謝料請求できるのでしょうか?
夫に不倫されて離婚を求められているのですが、セックスレスは離婚原因になるからお前が悪いと責められています。夫は慰謝料も求めているのですが、セックスレスで慰謝料を払わなければいけないのでしょうか。
徐々に夫婦というか家族という関係になってしまい、妻を性的な目で見ることができなくなってしまいました。そのためセックスを求められてもやんわりと拒絶していたのですが、妻から離婚と慰謝料を求められています。慰謝料が認められてしまうのでしょうか。

 このように性交拒否やセックスレスに悩まれるご相談者様は多いです。
ご相談者様の中でも、性交拒否、セックスレスに関しては

配偶者の性交拒否を理由に離婚が認められるか、離婚原因になるか。
配偶者の性交拒否に対して慰謝料請求が認められるか、いくらくらいの相場になるか。

という疑問に大きく分かれます。

 今回は、後者の性交拒否、セックスレスに対する慰謝料に絞って解説したいと思います。

慰謝料請求のためには性交拒否に合理的な理由がないことが必要

(1)合理的な理由がないとは

 配偶者に対して、性交拒否、セックスレスを理由に慰謝料請求する場合、慰謝料が認められるためには、性交拒否、セックスレスに合理的な理由や事情がないことが必要です。
 逆に言えば、性交拒否、セックスレスに合理的な理由がある場合には慰謝料は認められません。
 例えばの例ですが以下のようなものは合理的な理由ありと認定される可能性が高いです。

(2)双方ともに積極的に性交渉の誘いがなく、共に消極的な場合

夫婦双方ともに消極的になって、どちら側からも性交渉の誘いがないようなケースです。
このような場合は一方が性交拒否したとそもそも言い切れないですし、どちらが悪いと即断できないので、慰謝料が認定される可能性は低いです。
妊娠前は性交渉があったけれども、出産に伴い徐々に夫婦間で性交渉の機会がなくなりセックスレスになったというケースが典型例です。

(3)配偶者の一方に明らかな有責行為がある場合(暴力、DV、不倫、モラハラなど)

 配偶者の一方に明らかな有責行為である暴力、DV、不貞行為(不倫)、モラルハラスメント(精神的虐待)がある場合、愛情を喪失し、性交渉に後ろ向きになるのはある程度止むを得ないと言えます。
 そのため、このような行為がある場合にも性交拒否による慰謝料請求は難しくなります。

(4)身体、精神の事情により性交が難しい場合

 身体的、精神的な事情により性交渉をすることが難しい場合、特に医師の診断を受けている場合には、裁判所が性交拒否を理由に慰謝料請求する可能性は低いです。
 ただし、単なる自己申告では不十分で、医師の診断書が必要になるケースが多いです。
 また、包茎などで医学的に特に性交をすることに問題がない場合は、性交拒否を肯定する事情にはなり難いでしょう。

(5)夫婦間で性交拒否、セックスレスについてしっかりとした話し合いのある場合

 過去の裁判例では、性交拒否、セックスレスについて、拒否する側から説明や話し合いなどない場合、拒否された側が心配や不安に思い、婚姻生活を継続できないのも止むを得ないとのことで慰謝料が肯定した例があります。
 そのため、夫婦間で性生活のことについてしっかりとした話し合い、納得のいく説明がある場合には、逆に慰謝料肯定される可能性が低く、仮に慰謝料の支払いが認められたとしても低額になるであろうと思われます。

あくまで離婚慰謝料となるため離婚請求が認められることが前提

 注意していただきたいのが、性交拒否、セックスレスなどを理由として慰謝料請求する場合にも、婚姻中に性交拒否、セックスレスだけを理由に慰謝料請求することは通常難しいです。

 性交拒否、セックスレスを理由に婚姻関係が破綻し離婚せざるを得なくなったという離婚慰謝料として慰謝料請求することになります。
 そのため、離婚が認められることが前提となります。
 そのため、同居中の事案や、別居期間が短い事案(1〜数年など)では、そもそも離婚請求が認められない可能性が高いので、当然、性交拒否、セックスレスを理由とした慰謝料も認められません。

性交拒否を立証する証拠について

 一般的に、夫婦間の性交拒否、セックスレスの実態については、夫婦間では意見や主張が食い違うことが多いです。
 夫婦間の性生活などは当然非常にプライベート性の高い事情ですから、夫婦間で主張が食い違う場合、事実関係を立証することは非常に難しいです。
 家庭内の出来事を常時録音や録画することは難しいでしょうし、夫婦間の性生活に関することであれば尚更です。
 その場合、性交拒否の証拠として考えられるのが

LINE、メール、手紙など夫婦間のやり取り(拒否している事情を認めているやり取りなど)

日記、メモなど(ただし証拠としての価値は低いです。)

知人、親族などの証言拒否している側と親しい人間ならなお良い。

などが考えられます。

 慰謝料請求の場合、相手方がも性交渉がそもそもあっただとか、誘われたことがそもそもないだと反論してくるケースが多いので、何かしら客観的な証拠を提出することが重要と言えます。

いくらくらいの慰謝料がもらえるか?裁判例について

(1)夫がポルノ雑誌に異常な関心を示して自慰行為に耽っていた例:慰謝料500万円

 浦和地方裁判所昭和60年9月10日判タ614号104頁は、以下の通り、夫がポルノ雑誌を見ながら自慰行為に耽り妻との性交渉を拒否するようになった事案について500万円の慰謝料を認めています。

被告はその頃からいわゆるビニ本(ポルノ雑誌)に異常な関心を示し始め、ビニ本を買いあさつては一人で部屋に閉じこもり、ビニ本を見ながら自慰行為に耽り、原告との性交渉を拒否するようになつた。このため長男出生後は夫婦間の性交渉は殆ど行われていない。
 そこで原告は被告に対しビニ本をやめて正常な性生活をするよう何度も哀願したが、被告はこれを改めず、遂には原告と同室で寝ることすら拒否するようになつた。
 また被告は性生活以外の面でも異常な性癖があり、いわゆるキセル乗車をしたり、ごみ箱をあさつて物を拾つてきたり、他人の物を盗んだり、落ちているガムを拾つて子供に与えたりしたため、原告は子供への影響を配慮して被告に何度もやめるよう言つたが、被告は改めようとしなかつた。

次男妊娠のときは原告においてどうしてももう一人子供が欲しかつたため原告から受胎可能時に被告に頼んで性交渉に応じてもらつたことが認められ〈る。〉

被告の異常な行為によつて原被告らの婚姻は破綻したものであり、これによつて原告が被つた精神的苦痛は到底筆舌に尽し難いものであるが、敢えて金銭に換算するならば少くとも500万円を下らない。

 こちらの判決では、妻の主張である①夫がポルノ雑誌に異常な関心を示し自慰行為に耽るようになったこと、②妻との性交渉を拒絶し、妻の哀願にも夫が応じなかったことを認定しています。
 夫側は①②の事実を否認していますが、どのような証拠や尋問でこれらの事実が認定されたのか、判決文からは不明です。
 なお、性生活以外の点では、キセル乗車や落ちているゴミを拾って子供に与えたりしていたという異常な性癖も事実として認定しています。
 そのほか判決の時点で別居して2年6ヶ月ほど経過している事案です。

 ややセックスレスや性交拒否、そのほか異常な性癖(キセル乗車など)を理由に離婚慰謝料500万円という金額は高額な印象がありますが、被告(夫)にとって不利で証拠がなさそうな事実についてもほぼ認定されているので、もしかしたら夫の裁判や尋問での態度がよっぽど悪かったのかもしれません(詳細は不明です。)。

(2)新婚旅行中から性交が皆無で新婚1ヶ月半で妻が実家に帰った事例:慰謝料100万円

 横浜地方裁判所昭和61年10月6日判時1238号116頁は、以下の通り、夫が新婚旅行中から妻の体に一切触れようとせず性交が皆無で、新婚1ヶ月半で妻が実家に帰ったという事案で、慰謝料100万円を認めています。

昭和58年夏ごろ、反訴原告(昭和30年3月9日生)は反訴被告(昭和27年2月21日生)と見合いをし、同年暮、二人は婚約し、その際、反訴被告は反訴原告に対し結納金50万円を贈つた(但しそのうちの半額は結納がえしの慣習で、反訴被告にかえされた)。
 昭和59年6月2日、二人は結婚式をあげ、当夜は羽田東急ホテルのツインベッドの部屋に泊まつたが、反訴被告は反訴原告に背を向けて寝てしまい、性的接触は何もなかつた。
 翌日から二人は4泊5日の日程で北海道に新婚旅行に出掛けたが、旅行中も反訴被告は反訴原告と性交渉を持つたり、これと接吻したり、これを抱擁したりすることはなく、またそのようなことをしない理由などについて説明したりもしなかつた。
 新婚初夜以来、そのような態度をとる反訴被告に対し反訴原告は不安を感じたり、疑問を抱いたりして、新婚旅行の終わりごろには、神経性の胃炎にかかつてしまつた。
 旅行から帰つてから、二人はかねて反訴被告が購入していた新居(反訴被告現住所)で同居生活をはじめ、反訴原告は胃炎のため病院に通院するようになつたが、同居生活後も反訴被告は反訴原告と性交渉をもつことはもちろんのこと、同衾したり抱擁したりすることは全くなく、そのため陰気な生活が続いた。
 このような生活に堪り兼ねた反訴原告は同年7月15日、実家の母に事情を打ち明けた。母と父はすぐ反訴被告に事情をたしかめたが、理由らしい理由は述べられなかつたので、反訴原告は反訴被告との夫婦生活に悲観してこれと別居することを決意し、同年同月20日、実家に帰つた。
 当日、反訴被告は泌尿器科の病院で包茎の手術を受けた。
 人を介してそれを知つた反訴原告は反訴被告が性交渉を持たなかつた理由を漠然とながら知つたので、正式に結婚すればやり直せるかも知れないと思い、反訴被告と打ち合わせて同年8月13日、婚姻届出をなした。
 しかし反訴被告は反訴原告に直接、手術の話をしたり、性交渉をもたなかつた理由を打ち明けたりはせず、また反訴原告の実家に挨拶にも行こうとしないので、反訴原告は婚姻届後も実家にとどまり、同年9月中旬ごろには、二人の間で離婚の話し合いがなされるようになつた。
 反訴被告はクリスチャンで、神経質な性格の持ち主であり、結婚前、性交の経験はなかつたように思われる(反訴被告はその本人尋問において、結婚前、売春婦と性交をしたことがある、と述べるが、これまでに認定の事実及び弁論の全趣旨にてらすと、右尋問の結果部分は信用出来ない)。
 しかし性的機能には、包茎であつたこと以外には、異常はなく、健康程度も普通であつた。
 反訴原告は高校を卒業後、会社勤めをしており、その父及び反訴被告の父も普通のサラリーマンである。
 反訴原告の健康程度も普通であり、結婚前に性的な経験は有しなかつたが、新婚初夜以来、反訴被告との性交渉を拒否する気持ちは全くなく、またそのような態度をとつたこともないが、積極的に夫を性交渉に誘うようなことには女性としてためらいがあつたため、自ら積極的に接触を試みることはなかつた

夫婦は生殖を目的とする結合であるから、夫婦間の性交渉は極めて重要な意味を持つものであり、それは反訴原告と反訴被告のような結婚届前の事実上の夫婦についても異なるところはないから、夫婦間、特に本件のような新婚当初の夫婦間に性交渉が相当期間全くないのは極めて不自然、異常であり、もしそれが本件におけるように、もつぱら夫の意思に基づく場合には、妻に対し理由の説明がなされるべきである(理由いかんによつては妻の協力がえられることがあるであろうし、なんといつても妻の不安、疑問、不満を除くために説明が必要である。なお右認定のように反訴被告は性的不能者ではないのであるから、結婚式後、反訴原告と性交渉を持つことは可能であつたといわざるをえない。それにもかかわらず右認定のように性交渉をもたなかつたのは、恐らく自分が包茎であることを気にしたためと思われる(反訴被告はその本人尋問において反訴原告の健康を気づかつて自制したと述べるが、反訴原告の病気も重いものではなかつたこと、性交渉をもたなかつた期間が長いこと、性交渉だけではなく、接吻などの接触もしていないことにてらすと、右尋問の結果部分は信用できない)。このような場合こそ理由の説明が必要であり、また理由の説明で解決がはかられる場合である)。
 ところが新婚初夜以来、反訴被告が何等理由の説明なしに、性交渉をなさず、そのため反訴原告が不安を募らせ、別居、そして婚姻破綻に至つたことは前記のとおりである。
 そうすると反訴原告と反訴被告間の婚姻破綻の主な原因は反訴被告側にあるといわざるをえず、反訴被告は反訴原告に対して慰謝料支払いの責任を負うが、その額は前記認定の事実すべてを考慮すると、金100万円が相当である。

 こちらの判決では、夫の性交拒否を理由に慰謝料100万円が認定されていますが、

同居期間は入籍前の1ヶ月半(結婚式、新婚旅行中に性的接触なし)のみ
妻が実家に帰った後に婚姻届提出
妻からも性交渉に誘うことはなかった

と少々特殊な事案です。

 ただし、当該事案では、夫が包茎であったことを理由に性交に対して極めて消極的で、一切の性的接触がなかったことが窺われますが、

妻に対して一切の説明がなかった
・説明がなかったことにより妻が不安を募らせ別居、離婚に至った

と性的接触をしない説明を欠いていたことが慰謝料の認定に大きく影響したのではないかと思われます。
 おそらく、夫側が事前ないし事後にでも性的接触のないことについて何らかの説明や告白があれば、結論は変わっていたかもしれません。

 また、判決では、妻が性交渉の誘いをしなかったことについては、「積極的に夫を性交渉に誘うようなことには女性としてためらいがあつたため、自ら積極的に接触を試みることはなかつた」と認定しています。
 この部分については当時の男女の性差(ジェンダー)的なものも影響しているかもしれないので、現代でも同様の判断になるかどうかは注意が必要です。

 なお慰謝料100万円というのは婚姻期間、同居期間の短さを考慮した金額かと思われます。

(3)夫が性交に無関心で婚姻1ヶ月で別居、離婚した事案:慰謝料500万円

 京都地方裁判所平成2年6月14日判決判時1372号123頁は、以下の通り、夫が性交に無関心で性的関係のないまま婚姻1ヶ月で別居、離婚になった事案で、夫から妻に対して慰謝料500万円の支払いを認めています。

被告は、原告との交際中から新婚旅行中、同居を初めてから後記原告が家を出るまでの間、原告に指一本触れようとせず、手を握ることもなく、キスもせず、性交渉を求めてきたことも全くなかった。

被告が原告と性交渉に及ばなかった理由として、被告は、当初原告の生理で出端をくじかれたとか、原告は疲労困憊の状態であったとか、原告の体調が回復しなかったので、性交渉は原告の健康状態が良くなってからしようと思っていたとか、原告の睡眠薬の服用による奇形児出生の危険があって性交渉を避けたり、躊躇したとか、キスは取り立ててする必要がないし、被告としてはもともと性交渉をあまりする気がなかったとか、昭和63年6月に入って隣地の飲食店が営業を止めてからは原告も元気になり、睡眠薬を服用しているという感じはなくなったので、何度か性交渉をしようとして被告方二階に上がりかけたが、何となく気後れしたとか、また、同月10日ころ原告の健康状態が良くなったので性交渉をしようと考えたが、過去原告が睡眠薬を常用していたので後遺症としても奇形児が生まれる可能性があると思ったし、自分の性本能を満たせばよいというものではないと思ったから、などと供述する。
 当初原告の生理で出端をくじかれたというのはそのとおりであろうけれども、右供述自体相互に矛盾するものもあるほか、前記認定と異なる事実関係を前提とするものもある。この点をさしおくとしても、被告が真実原告の健康のことを気づかっていたのであれば、渋らないですぐに原告を健康保険の被扶養者に入れる手続もするであろうし、原告に健康診断や治療を受けるように促すであろう。また、被告において原告が真実睡眠薬を常用していると思っていたのであれば、それが身体に悪いことなどを原告に話すであろう。しかしながら、前記認定のとおり被告は原告が睡眠薬を服用しているかどうか確認することもせず、これを止めるようにも言っていないのであって、被告は昭和63年7月2日丁原方における原告との話し合いにおいて初めて睡眠薬のことを問題にし始めたのであるから、これはその場の思いつきによる言い逃れであり、その場凌ぎであったといわざるを得ない。そうすると、性交渉に及ばなかった理由の説明としては被告の右供述は信用することができないし、ことに、性交渉をしたとしても妊娠を避ける方法はいくらでもあるのであるから、睡眠薬服用による奇形児出生の危惧が性交渉に及ばなかった真の理由であるとは到底思えない。
 また、前記認定事実によると、性交渉についてのみならず、被告には原告を自らの妻と認めて外部へ公表し、原告とともに真に夫婦として生活していこうという真摯な姿勢が認められず、被告自体が原告を避けてその間に垣根を作り、原告との間で子供(妊娠)のことや性交渉自体について自ら積極的に何ら話題としたことがないことが認められ、このようなことからすると、あるいは、被告にとって年齢的に子をもつことが負担になるとしても、妊娠を避ける方法はあるのであり、その点について原告と十分に話し合い、納得を得ることは可能であるのに、何らそのようなことに及ばなかったことからすると、この点も性交渉を避けた理由とはなりえない。
 結局、被告が性交渉に及ばなかった真の理由は判然としないわけであるが、前記認定のとおり被告は性交渉のないことで原告が悩んでいたことを全く知らなかったことに照らせば、被告としては夫婦に置いて性交渉をすることに思いが及ばなかったか、もともと性交渉をする気がなかったか、あるいは被告に性的能力について問題があるのではないかと疑わざるを得ない。
 そうだとすると、原告としては被告の何ら性交渉に及ぼうともしないような行動に大いに疑問や不審を抱くのは当然であるけれども、だからと言って、なぜ一度も性交渉をしないのかと直接被告に確かめることは、このような事態は極めて異常であって、相手が夫だとしても新妻にとっては聞きにくく、極めて困難なことであるというべきである。
 したがって、原告が性交渉のないことや夫婦間の精神的つながりのないことを我慢しておれば、当面原被告間の夫婦関係が破綻を免れ、一応表面的には平穏な生活を送ることができたのかもしれず、また、昭和63年6月20日丁原の面前で感情的になった原告が被告方に二度と戻らないなどと被告との離婚を求めるものと受け取られかねないことを口走ったことが、原被告の離婚の直接の契機となったことは否めないとしても、以上までに認定したような事実経過のもとでは原告の右のような行為はある程度やむを得ないことであるといわなければならない。むしろ、その後の被告の対応のまずさはすでに認定したとおりであって、特に同年7月2日丁原方での原告との話し合いにおける被告の言動は、なんら納得のいく説明でないし、真面目に結婚生活を考えていた者のそれとは到底思えず、殊に、被告は右話し合いの前から最終結論を出し、事態を善処しようと努力することなく、事前に離婚届を用意するなど、原告の一方的な行動によって本件婚姻が破綻したというよりは、かえって被告の右行動によってその時点で直ちに原被告が離婚することとなったのであるといわざるを得ない。
 そうすると、本件離婚により原告が多大の精神的苦痛を被ったことは明らかであり、被告は原告に対し慰謝料の支払をする義務があるところ、以上の説示で明らかなとおり、原被告の婚姻生活が短期間で解消したのはもっぱら被告にのみ原因があるのであって、原告には過失相殺の対象となる過失はないというべきであるから、被告の過失相殺の主張は失当である。
 そして、前記認定の事実や右説示のほか、諸般の事情を総合考慮すると、本件離婚のやむなきに至らせたとして被告が原告に支払うべき慰謝料は500万円をもって相当と認める。

 こちらの判決では、夫は妻に対して指一本触れようとせず、キスもせず、性交渉を求めることもしなかったと認定されています。
 この事案で夫は

・当初妻の生理で出端をくじかれた
・妻は疲労困憊の状態であった
妻の体調が回復しなかったので、性交渉は原告の健康状態が良くなってからしようと思っていた
・妻の睡眠薬の服用による奇形児出生の危険があって性交渉を避けたり、躊躇した
・キスは取り立ててする必要がないし、被告としてはもともと性交渉をあまりする気がなかった
・何度か性交渉をしようとしたが、何となく気後れした
・過去妻が睡眠薬を常用していたので後遺症としても奇形児が生まれる可能性があると思った

などと性交拒否について色々な理由を述べていますが、いずれも裁判所からは性交渉を拒否した真の理由とは言えず、性交拒否の理由は不明と、夫の言い訳を全て排斥しています。
 性交拒否に合理的な理由がある場合があればともかく、合理的な理由がない、性交拒否の理由をしっかりと説明できない場合には、慰謝料請求が認定される方向であることがわかります。

 この判決では500万円という高額の慰謝料が認容されています。
ただし、婚姻によって妻が退職して以前の3分の1の年収しか得られなくなったこと、これまでの貯金も結婚費用として450万円支出していることなども総合考慮して、高額の慰謝料が認定されたものと思われます。

(4)妻が婚姻当初から別居まで、男性に触れられると気持ちが悪いと言い性交を拒否した事案:慰謝料150万円

 妻側が性交拒否した裁判例についても見てみましょう。
 岡山地裁津山支部判決平成3年3月29日判時1410号100頁は、以下の通り、妻が婚姻当初から別居まで男性に触れられると気持ちが悪いといい性交拒否した事案で慰謝料150万円を認めています。

甲11は乙山夏子(秋子)作成の陳述書であるが(甲野太郎証言により成立認。)これによると、夏子は、被告花子と前夫との結婚生活が被告花子が性交渉を拒絶するために喧嘩の絶えないものであったこと、そのため、被告花子の方が金100万円を前夫に支払い離婚したことなどを被告花子から聞いており、また、『異性に身体を触られると気持ちが悪い。』などということを被告花子から聞かされているというのである。更に、夏子は、昭和62年10月下旬ころ、被告花子が電話してきて話すうちに、その夫婦生活の実態を知るに至った。そして、被告花子には性交渉は夫婦生活にはなくてはならないものだから応ずるようにと説得した。その後、何度か被告花子とは電話で話したが、進展が見られないので、昭和63年1月下旬ころ、自分の判断で被告花子を産婦人科へ連れて行き、診察してもらったところ、身体には異常はないが、年齢の割に精神面に幼児的なところがあると医師から言われたというのである。
 しかして、《証拠省略》によれば、夏子は被告花子とは格別に仲の良い父方の親戚であることが認められるのであって、その夏子が殊更虚偽の陳述書を作成することは到底考えられず、右内容は真実であると認めるべきものである。

一方、被告花子は、原告・被告花子の婚姻生活の実態について、《証拠省略》中において、原告・被告花子間の婚姻は前妻のことを何時までも言うなどの原告の異常な言動等により破綻したものであり、原告・被告花子間には性交渉も若干はあったというのである。
 しかしながら、これら証拠はいずれも、夏子との交渉について、前記真実と認めるべき事柄とは全然相違する趣旨のことが述べられているなど、容易く措信できるものではないのである。
 こうしてみると、前記原告の陳述書や供述は、真実と認めるべき夏子の陳述書とも符合して矛盾がみられないものであるし、夏子の陳述書のとおり被告花子が男性との性交渉に耐えられない女性であるとの前提で検討すると、全般的にむしろ自然なあり得べき内容のものとして充分信用に値すると考えられる。
 すなわち、原告・被告花子の婚姻生活の実態は、前記原告の主張のとおりの状況であったものと認めるべきである。
 原告・被告花子間の婚姻は、前記検討の結果からすると、結局被告花子の男性との性交渉に耐えられない性質から来る原告との性交渉拒否により両者の融和を欠いて破綻するに至ったものと認められるが、そもそも婚姻は一般には子孫の育成を重要な目的としてなされるものであること常識であって、夫婦間の性交渉もその意味では通常伴うべき婚姻の営みであり、当事者がこれに期待する感情を抱くのも極当たり前の自然の発露である。
 しかるに、被告花子は原告と婚姻しながら性交渉を全然拒否し続け、剰え前記のような言動・行動に及ぶなどして婚姻を破綻せしめたのであるから、原告に対し、不法行為責任に基づき、よって蒙らせた精神的苦痛を慰謝すべき義務があるというべきである。
 しかして、原告に認められるべき慰謝料額は、本件に顕れた一切の事情を総合勘案し、金150万円が相当である。

 こちらの判決で非常にユニークなのは、証人(夏子)の陳述書、供述によって、下記のように妻の性交拒否が認定されていることです。

妻と前夫との結婚生活が妻が性交渉を拒絶するために喧嘩の絶えないものであったこと、そのため、妻の方が金100万円を前夫に支払い離婚したこと
妻が『異性に身体を触られると気持ちが悪い。』と発言していたこと
・妻を産婦人科へ連れて行き、診察してもらったところ、身体には異常はないが、年齢の割に精神面に幼児的なところがあると医師から言われたこと
・証人の夏子は妻とは格別に仲の良い父方の親戚であること

 こちらの裁判例では、妻は、「原告・被告花子間の婚姻は前妻のことを何時までも言うなどの原告の異常な言動等により破綻したものであり、原告・被告花子間には性交渉も若干はあった」と性交渉があったことを主張しています。
 しかし、こちらの裁判例のように、相手方配偶者に親しい人物の証言などがある場合には、証言の信用性も認められ、性交拒否の立証が成功することもあります。

 まとめ

・性交拒否、セックスレスを理由に慰謝料請求するには性交拒否に合理的な理由のないことが必要。
・あくまで離婚慰謝料なので、そもそも離婚が認められないと慰謝料請求自体認められないことに注意。
夫婦の性生活についてはプライベート性が高いものなので、立証が課題夫婦間のLINEやメールのやり取り、日記、親しい人の証言などできる限りの証拠を集めよう。

弁護士の本音

弁護士荒木
弁護士のホンネ

 本文でも書きましたが、やはり性交拒否については立証が課題になるケースが大多数です。
 裁判例では確かに100〜500万円の慰謝料請求が認定されている事案もあるのですが、立証が大変なので、実務的には調停の中で話し合いで解決したり、そもそも早期解決のために慰謝料請求については差し控えたりというケースも多いです。
 証拠が非常に重要なので、手持ちの証拠で裁判で闘えるかどうか疑問の場合にはできるだけ弁護士に早めに相談に行くようにしてください。

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