
「夫にお金がない…」「離婚したいけれど、生活は大丈夫なの?」
そう悩む方は少なくありません。実際、離婚問題の中でも「お金のない夫」との離婚は、精神的にも経済的にも負担が大きいテーマです。
しかし、焦って離婚を進めてしまうと、あとで「本当はもらえるはずのお金をもらい損ねた」「生活が成り立たなくなった」という事態に陥ることもあります。
この記事では、弁護士の視点から「お金のない夫」と離婚する際に押さえておくべきポイントを、わかりやすく解説します。
1. 「お金がない」とはどういう状態かを整理する
まず、「お金がない」と一口に言っても、実際の状況はさまざまです。次のようなケースに分けて考えることが大切です。
- 収入が少ない 給与が低い、仕事が不安定、パート・アルバイトで収入が少ないなど。
- 借金がある 消費者金融・カードローン・ギャンブルなどによる債務がある。
- 財産を隠している 実際には貯金や資産があるのに、「お金がない」と装っている。
- 財産の存在に気づいていない 当事者が財産の存在に気づいていない。
- 無職・休職中 失業や病気などで一時的に収入が途絶えている。
このうち、こちらの努力次第で解決できる可能性があるのが、「財産を隠している」か「財産の存在に気づいていない」ケースです。また、「無職・休職中」の場合も、時間を味方にして解決できる場合があります。以下、解説します。
2.財産があるかもしれない!【チェックポイント】
夫にお金がないと言われても、婚姻期間中に形成した財産は「共有財産」として分ける権利があります。また、当事者が財産として存在していることに気づいていない(知らない)場合もあります。
そこで、財産分与を行うに際しては、必ず次のような項目を確認しましょう。
(1)預貯金・株式・投資信託
通帳や証券会社の取引履歴を確認します。近年ではNISAやネット証券を利用しているケースも多いため、ネット銀行やネット証券も確認してください。
(2)退職金
まだ支給されていなくても、「婚姻期間中に積み立てられた部分」は財産分与の対象になります。ここは忘れがちなので注意です。
退職金の分与は、実際に会社を辞める必要はありません。「もし辞めたらいくらもえらえるのか」という観点で算出できる部分が財産分与の対象となります。受け取る場合、お金の出所は問われないのです。
(3)不動産
投資用マンションや、婚姻前から持っていた不動産であっても、その住宅ローンを同居中に返済している場合は、その割合部分が共有財産となります。
(4)保険・年金
生命保険や個人年金も財産に含まれます。保険証券や契約内容を確認しましょう。厚生年金や共済年金については、年金分割の請求も可能です。忘れずに行いましょう!
3.慰謝料を請求できるケースを確認する
「夫にお金がないから慰謝料は取れない」と諦めてはいけません。
慰謝料の請求が認められるかどうかは、収入の多寡ではなく、行為の違法性に基づいて判断されます。
たとえば、次のようなケースでは慰謝料が認められる可能性があります。
- 不倫・浮気
- 暴力(DV)
- モラハラ
- 生活費を全く渡さない
- 家庭を顧みない浪費・ギャンブル
4.今は支払ってもらえなくても、将来の強制執行に備える
財産分与や慰謝料がもらえるとしても、問題は、相手に支払い能力があるかどうかです。
しかし、支払いが一括では難しい場合でも「分割払い」という方法をとることも可能です。
また、公正証書や調停での取り決めを行なっておけば、将来的に相手の財産を強制執行することができます。
もちろん、相手に財産も何もなければ、当面の間はお金がもらえない可能性もあります。しかし、その状態が10年20年続くわけではありません。そして、一度公正証書や調停で取り決められれば、5年後でも、10年後でも、いつでも相手の財産に強制執行することができます。
なお、強制執行をしないまま10年経過すれば、権利は時効で消滅するのが原則ですが、強制執行の申し立てさえすれば時効は中断しますから、ぜひ公正証書や調停で取り決めをしておくと良いでしょう。
5.婚姻費用・養育費の請求を忘れずに!
離婚が成立するまでの間は、「婚姻費用(生活費の分担金)」を請求できます。
たとえ夫の収入が少なくても、当事者には、法律上、夫婦が同程度の生活水準を保つ義務があります。
婚姻費用の目安
家庭裁判所の「婚姻費用算定表」に基づいて金額が決まります。
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html
なお、夫が無職や低収入でも、客観的に就労が可能であれば、国の集計している平均的な給与収入があることを前提に、一定額の支払いが命じられることもあります。
養育費の確保
離婚後、子どもを監護する場合は、養育費を請求しましょう。
金額については、婚姻費用と同じく、家庭裁判所の「養育費算定表」に従うのが一般的です。
https://www.courts.go.jp/toukei_siryou/siryo/H30shihou_houkoku/index.html
「今はお金がない」と言われても、まずは請求できるはずの金額は取り決めておきましょう。就職後や収入増加後に支払いを再開させることができます。
そのため、養育費についても公正証書や調停調書にしておくことをお勧めします。
6.離婚後の生活設計も忘れずに
離婚後の生活を安定させるためには、経済的な見通しを立てておくことが欠かせません。
以下の点に注目していただければと思います。
(1)収入源の確保
就労・転職・資格取得など、収入の柱を作りましょう。
自治体の「ひとり親支援」や「就労支援プログラム」も活用できます。
(2)公的支援制度の利用
- 児童扶養手当
- 住宅手当
- 医療費助成
- 保育料の減免
- 就学援助制度
など、離婚後のひとり親家庭を支える制度があります。
(3)弁護士・専門家への相談
財産分与・養育費・慰謝料の取り決めは、専門家の助言があると大きく結果が変わります。今後のあなたの生活水準にも直結する重要な問題です。
「お金のない夫」との離婚ほど、お互いに感情的になりやすいという側面があります。ぜひ専門家のアドバイスに耳を傾けてください。
7.離婚を急ぎすぎないことの重要性
最後に、離婚を急ぎすぎないことの重要性を述べておきたいと思います。
「もう顔も見たくない」「早く終わらせたい」と思う気持ちは自然です。
しかし、お金のない夫との離婚こそ、一度の判断ミスが生活に直結します。
財産分与、慰謝料、養育費、年金分割——。
どれも「離婚届を出す前」に整理しておくべき項目です。
離婚届を提出してしまうと、法的に夫婦ではなくなるため、生活費について請求できる権利を失うことになります。それは、離婚条件の交渉に際しての交渉力を下げることにも繋がります。
焦らず、じっくりと離婚条件を取り決めていくように心がけていただければと思います。
弁護士のホンネ

法律事務所
「お金のない夫との離婚」の相談を受けていて感じるのは、「早く別れたい」という気持ちが先行し、金銭面を軽視してしまう方が非常に多いということです。
しかし、一度離婚が成立してしまうと、もらえたかもしれないお金がもらえなくなる場合があります。
また、たとえ今は相手に資産がなくても、将来収入が増えたときに備えて、「法的に有効な形」で取り決めをしておくことが重要です。
弁護士としては、
「あなたがこれから安心して暮らしていける形を整えること」
こそが最も大切だと考えています。
離婚は「終わり」ではなく「新しい生活のスタート」です。
お金の不安を最小限にして、新しい一歩を踏み出すためにも、専門家のサポートを受けながら、冷静に進めていきましょう。
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