プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として東京と横浜に事務所を構えています。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
夫側、妻側、それぞれに立場に応じて弁護活動を行っています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)
今回は、あなたが参加した離婚調停や婚姻費用調停が、「調停官事件」だった場合、どのようなことに注意をすべきか、解説します。裁判官ではなく、調停官が関与する調停事件は、あなたが望まなくとも、ランダムに当たる可能性があります。実際に調停官事件に当たっている方は、どうぞ最後までお読みください。
1 調停官事件とは?
離婚や婚姻費用に関する調停は、通常、調停委員2名と、裁判官1名からなる調停委員会が中心となって話し合いを進めていきます。もっとも、裁判官は数が少なく忙しいため、通常の期日では、調停委員2名いる部屋に、当事者が交互に入って話し合いを進める形をとります。
そして、重要な局面や、調停が成立・不成立になる場合は、裁判官が直接当事者と話すことになります。その他にも、調停委員が調停の進め方に悩んだ場合は、裁判官から具体的なアドバイスを受けて、それに基づいて調停の話し合いを再開することになります。
ところが、そうした裁判官が一切関与せず、家庭裁判所の非常勤職員である「調停官」が裁判官の代わりとなって、上記の裁判官の役割を担うケースがあります。これが、調停官事件と呼ばれるものです。
調停官に関しては、裁判所のホームページにも記載されていますので、引用しておきます。
(裁判所HPからの引用)
※調停官
民事・家事の調停事件について,裁判官と同等の権限で調停手続を取り扱う非常勤職員。調停官は,5年以上の経験を持つ弁護士の中から任命されます。
https://www.courts.go.jp/saiban/zinbutu/tyoteiin/index.html
上記から分かる通り、調停官は、5年以上の経験を持つ弁護士の中から任命される人であり、裁判官ではありません。そのため、調停事件の解決において、種々の問題が生じる場合があるのです。
当サイト運営・プロキオン法律事務所では、相談室(渋谷駅徒歩5分・横浜駅徒歩6分)またはオンラインにて、無料相談を実施しています。
2 調停官(弁護士)の法律知識と中立性が問題となる
弁護士が裁判官の役割を担う調停官事件については、大きく2つの注意点が挙げられます。それは、①調停官(弁護士)の法律・判例知識が十分かという問題と、②中立を保って話し合いを采配できているかという問題です。
(1)調停官(弁護士)の法律・判例知識の問題
まずは、調停官(弁護士)の法律・判例知識です。
調停官は、本業が弁護士ですから、日頃から弁護士業務を担っています。そのため、その調停官の法律・判例知識は、普段弁護士としてどのような業務を行なっているかという、当事者の預かり知らない部分に左右されます。
私たち離婚専門の弁護士は、日頃から離婚や婚姻費用、養育費、親権などに関する法律や判例知識を日々アップデートさせています。特に、婚姻費用や財産分与といった、お金が絡む分野は、裁判所の新しい判断が次から次へと出てきます。そのため、そうした新しい知識を追いかけるのに多大なエネルギーを使っています。家庭裁判所の裁判官もそれは同じです。
しかし、調停官(弁護士)は、必ずしも離婚に特化した弁護士というわけではありません。むしろ、離婚に特化した弁護士というのは、全体からすれば極めて少ないですから、基本的に調停官は、離婚に特化した弁護士ではないと理解して良いでしょう。
そして、調停官に求められる要件は、5年以上の弁護士としての経験のみですから、離婚分野に関する法律、判例知識に関して、保証されているわけではありません。
実際にも、特に婚姻費用が絡む際に多いのですが、私たちが当事者の方と一緒に調停に参加をしている中で、調停官の判例知識や、家庭裁判所の運用に関する知識が不十分ではないかと思う場合が少なくありません。
なぜ調停官の法律・判例知識が重要なのかというと、話を中心になって進める調停委員は、調停官の考えに基づいて、当事者に話し合いの方向性を示すからです。具体的には、そうした調停官の考えに沿っていない側に対して、考えを改める方向へ説得する形で行われます。
当事者に弁護士がついているケースであれば、当事者側から、実際にこうした判例があると述べて、具体的な裁判例を示して反論をしたり、最終的に裁判官が判断する審判手続に移行することを求めるなどして対抗することができます。
しかし、もし、弁護士がついていないケースだと、「裁判所が述べていることだから、きっとそうなのだろう」と思い込み、必ずしも正しいわけではない調停官の意見に従って、自分の主張を変更させる場合もあるでしょう。これは、極めて問題の大きい事態です。
(2)調停官(弁護士)の中立性維持の問題
もう一つ、調停官事件において注意が必要なのは、調停官(ひいては調停委員会)が、中立の立場で話し合いを采配してくれているかどうかです。
調停官は、本業が弁護士ですから、日頃は自ら選び、引き受けた事件を担当しています。弁護士は、一般的に、引き受けている事件の種類や内容、そしてその傾向に応じて、どうしても特定の方向に考えが向きがちです。例えば、離婚事件において、男性側の離婚弁護を中心に対応していれば、男性側の利益を中心に考えがちですし、労働事件において、使用者側のトラブルを中心に対応していれば、会社側の利益に思考が向きやすくなるものです。
そのため、弁護士である調停官自身も、日頃自らが関わっている事件の傾向から、完全に自由になることは難しいと言えるでしょう。
そのため、調停官事件においては、その公正さや中立性が必ずしも保証されているわけではないことを理解しておいた方が良いと言えます。
ただし、そうしたリスクにも備え、調停委員会は、2名の男女の調停委員がいます。そうした方々の存在が、特定の側への肩入れリスクをある程度緩和してくれるでしょう。そういう意味で、(1)に挙げた内容よりは、深刻さは小さいと思います。
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3 調停官の意見に不安を感じた場合は、一旦判断を保留に!
上記の通り、調停官事件においては、とりわけ調停官の法律・判例知識が十分とは限らないという問題があります。
そのため、調停官の見解に沿うような方向で、調停委員から考えを改めるように説得された場合は、すぐに何かを判断することは避けたほうが良いでしょう。
重要な局面であれば、調停の期日をもう一回分設けてもらい、それまでに弁護士に相談をするという対処法があります。
また、婚姻費用や養育費調停など、審判に移行できる手続であれば、審判事件に移行させ、裁判官に判断してもらうことも可能です。
状況に応じて、より良い判断を行なっていただければと思います。
今回の弁護士からのアドバイス
調停官事件は、、、、、
☑️調停官である弁護士の法律知識や判例知識が保証されていないという問題があります。
☑️調停官の公平性・中立性については、その調停官の弁護士としての経験に左右される場合があります。
☑️調停官の見解に基づいて説得されそうになった場合は、すぐに判断するのではなく、弁護士に相談するために一旦保留にすることをお勧めします。
☑️婚姻費用や養育費調停であれば、審判に移行させて裁判官の判断を仰ぐのも一つの対処法です。
弁護士のホンネ
残念なことではありますが、「ちょっと判例や実務運用の知識が不十分では?」と思わざるを得ない調停官に出くわすことがあります。私は当事者の代理人弁護士として参加していますので、大きな問題は生じません。ただ、弁護士をつけていない一般の方が、調停官や調停委員から説得にかかられた場合、とても対抗できないのではないかと思います。
今回の記事が、調停官事件に当たった方にとっての道標となれば幸いです。
当事務所では離婚事件に関する無料相談を承っています。どうぞお気軽にお問い合わせください。