離婚しづらい国、日本。先進諸国との差を丁寧に紹介!

今回は、本が先進諸国に比べて、離婚が認められづらい実情について、解説します。

1 世界は離婚の自由化へ向かっている

世界では、時代の進みとともに、離婚が自由化の方向へ動いています。人権保護の潮流として、世界は、各個人に人生の選択権を豊富に与える方向に動き続けています。そして、人生のあり方を選択し続けられるように、一度行った婚姻も、それを解消する権利(つまり、離婚する権利)が認められています。

ただ、この日本においては、戦後に成立した民法の規制がほぼそのまま維持されており、相当に高い要件が具備されていなければ、未だ離婚は認められません(ただし、相手も無条件で離婚に応じてくれる場合は、極めて容易という特徴もあります。)。

また、後に述べる最高裁の判例によって、離婚したい側が、他の異性と肉体関係を結んでしまった場合は、離婚は原則として認められません。離婚するには極めて高いハードルが設定されます。これらのルールは、昨今の世界のスタンダートからは大きくズレていることを否めません。

そこで今回の記事では、相手が離婚に応じない場合に、どのような要件があれば離婚に応じられるのか、日本と世界の先進諸国のルールを比べてみたいと思います。また、他の国では、有責配偶者からの離婚請求を制限しているのでしょうか?それらを紹介した上で、日本におけるルールがこのままで良いのか、皆さんが考えるきっかけを与えられればと思います。

2 日本の場合

相手が離婚に応じない場合、裁判所に離婚を認めてもらう必要があります。そのために必要な条件は、以下のように取り決められています。

民法第七百七十条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。

一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

多くの場合は、上記の「五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」に当たるかどうかが争われます。もっとも、別居が3年から5年程度ある場合は、長期の別居が継続したことで、もはや婚姻を継続するのは困難とみなされ、離婚が認められます。

一方、離婚を請求する側が、例えば不貞行為を行なった有責配偶者の場合は、仮に別居が3年から5年あっても、離婚は認容されません。
最高裁昭和62年9月2日判決は、その場合に離婚を認容する要件を列挙しています。具体的には、以下のように述べています。

(最高裁昭和62年9月2日判決 民集41巻6号1423頁)

①夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及び、②その間に未成熟の子が存在しない場合には、③相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないとすることはできないものと解するのが相当である。

つまり、離婚を希望する側が有責配偶者の場合は、①長期間の別居期間(一般的には10年程度)があること、②未成熟の子がいないこと、③離婚により相手が精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態におかれないこと、が必要とされています。

実は、以上に述べた、3年から5年の別居期間や、離婚により相手が過酷な状態に陥る場合に離婚を認めないとする運用は、先進諸外国の法制が参考にされています。ところが、そうした元ネタである先進諸外国は、その後離婚の自由化を推し進めており、日本のみが出遅れている状況にあります。以下、主要な国の法制を挙げていきましょう。

3 イギリスの場合

イギリスにおいては、かつて、被告が離婚に同意していない場合であっても、5年間の継続的な別居があれば、離婚を認めるとしていました(婚姻事件法、旧1条2項)。5年の別居期間により離婚を認める日本の裁判所の運用を想起しますね。

しかし、2020年の法改正により、離婚条件を列挙した規定は削除されました。その上で、「結婚が破綻した」という声明を申請者が述べることで、離婚が原則として認められることになりました(婚姻事件法、新1条)。事実上、別居期間がほぼなくとも、結婚が破綻した旨の証言を一方当事者が述べるのみで、離婚が認められる運用となったわけです。

(イギリス 婚姻事件法1条)

(1) ・・・夫婦の一方または双方は、婚姻が修復不可能に破綻したことを理由に、婚姻を解消する命令(「離婚命令」)を裁判所に申請することができる。
(2) 第1項に基づく申請には、申請者または申請者全員が婚姻が修復不可能に破綻したことを証明する声明を添付しなければならない。
(3) 第1項に基づく申請を扱う裁判所は、その声明を婚姻が修復不可能に破綻したことの決定的な証拠として受け取り、離婚命令を下さなければならない。

また、日本とは異なり、有責配偶者からの離婚請求に関して、特別の規定やルールはありません。

2020年の法改正前は、5年間の継続的な別居期間がある場合でも、「裁判所は、・・・婚姻の解消が被申立人に重大な財政的またはその他の困難をもたらし、そのような状況において婚姻を解消することが不当であると判断した場合、その請求を棄却しなければならない。」とされていました(婚姻事件法、旧5条)。

しかし、この規定も、ほとんど利用されることはなく、2020年の法改正により、ごっそりと削除されるに至りました。婚姻は、社会秩序というより、各人が好きな人と一緒にいる権利であることを重視したのです。イギリスは、このように明らかに離婚の自由化を推し進めました。

4 ドイツの場合

ドイツにおいては、離婚の合意が無くとも、3年以上の別居があれば、離婚を認めるとしています。

(ドイツ民法典1566条(破綻の推定))
(1) 夫婦が1年間別居しており、両方が離婚を申請するか、または相手方が離婚に同意している場合、婚姻が破綻したと反論の余地なく推定される。
(2) 夫婦が3年間別居している場合、婚姻が破綻したと反論の余地なく推定される。

ドイツにおいても、有責配偶者からの離婚請求であることを理由として、離婚を制限するルールはありません。ただ、離婚によって、相手が過度に過酷な状況に陥る場合に、離婚を制限する取り決めが存在します。もっとも、それは有責配偶者からの離婚請求かどうかという視点ではありません。

(ドイツ民法典第1568条(過酷条項))

(1) 婚姻が破綻していても、次のいずれかの場合には離婚は認められないものとする:
婚姻を維持することが、その婚姻から生まれた未成年の子どもの利益のために特別な理由から例外的に必要とされる場合。
または、離婚に反対する被申立人にとって、離婚が非常に厳しい過酷さをもたらすような特別な事情がある場合。その場合、申立人の利益を考慮しても、婚姻を例外的に維持することが適当であると認められる場合。
(2) (削除)

また、この過酷条項は、離婚そのものによって過酷な状態に陥る場合を想定しており、別居によりすでに生じている不都合は、これに該当しないとされています。また、離婚により通常生じる過酷では足りないとされています。そのため、裁判所もこの条項の適用には極めて慎重なようです。

5 フランスの場合

フランスにおいては、2年間別居していた場合、相手が離婚に応じなくとも、離婚を認めると定めていましたが、2020年のフランス民法典の改正により、別居期間は1年に縮減しました。

(フランス民法典238条)

婚姻関係の完全な破綻は、夫婦が共同生活を解消し、離婚の申請時に1年間別居している場合に認められる。

申立人が申請理由を明示せずに訴訟を提起した場合、婚姻関係の完全な破綻を示す期間は、離婚の判決時に判断される。

ただし、第246条の規定を妨げることなく、この理由に基づく離婚申請と他の離婚申請が同時に行われた場合、1年間の期間が要求されることなく、婚姻関係の完全な破綻を理由に離婚が認められる。

イギリスやドイツと同様、有責配偶者からの離婚請求を制限する取り決めはありません。

また、かつて、フランスにも、ドイツと同様の「過酷条項」がありましたが、すでに2004年の法改正により、削除されました。離婚自由化の趣旨に逆行する規定だからというのが理由となります。

6 アメリカの場合

最後に、アメリカについても簡単に概観しておきましょう。

もっとも、アメリカは、州ごとに法令がありますので、一つ一つ細かく見ていくことはできません。ただ、離婚に関しても、時代による潮流があり、ほとんどの州がそうした潮流に従って法改正をしていくという特徴があります。

1970年、カリフォルニア州の離婚法が改正され、「相手に責任があるから離婚が認められる」のではなく、「婚姻関係が破綻したから離婚が認められる」という考え方が採用されました。これは、有責主義と対比された、破綻主義という考え方です。そうした破綻主義の考え方は、1985年までに全ての州に導入されています。イギリス・フランス・ドイツにおいて、離婚が自由化へ進んだのも、こうした考え方の移行が背景にあります。

結果として、配偶者が離婚を拒否する場合でも、6ヶ月ないし1年などの一定期間(州によって長さは異なります。)の別居があれば、離婚が認められるのが通例となりました。

なお、ルイジアナ州、アリゾナ州、及びアーカンソー州については、婚姻時の選択により、相手に有責事由がなければ離婚できないとする形をとることも可能とされています。しかし、その利用率は一桁割合に過ぎず、追随する州も存在しないとのことです。そして、他の先進諸国と同様、有責配偶者からの離婚請求を制限する制度ないし運用はありません。

7 日本も変わることができるか?

以上のべたとおり、日本がかつて模範としていた先進諸国は、明らかに離婚の自由化へ舵を切っています。日本もまた、これを追いかけることになるのでしょうか?

もっとも、日本は、すでに著しい高齢社会に突入し、稼働できない人の生活保障を、稼働できる人に委ねざるを得ないという実情もあるでしょう。そのため、家族関係を簡単に解消できる制度にするべきではないという意見もあると思います。

とはいえ、結婚は、国家や社会の法的秩序としての役目を失いつつあります。独身率も、年々増大しています。例えば、昭和55年時点では、全世帯の6割以上を「夫婦と子供」と「3世代」が占めていましたが、令和2年時点では、あわせても3割未満に下がり、むしろ38%の「単独」世帯に逆転されました。

男女共同参賀白書:
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/html/honpen/b1_s00_01.html

他の先進諸国と同様、結婚は、社会秩序というより、各個人が幸せになるための選択肢として存在する生き様の一つと位置づけられるのかもしれません。

そうであれば、近い将来、離婚はより認められやすい方向へ法改正がなされる可能性があります。有責配偶者による離婚請求を厳しくルール化した最高裁昭和62年9月2日判決も、いずれは変更される日も来るでしょう。これに関しては、こちらの記事もご参照いただければと思います。

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 プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として2015年に設立。翌年東京にも事務所開設。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間2[…]

先進諸国の離婚制度に関する参考文献

・森山浩江ほか『比較家族法研究』商事法務 2012年
・樋口範雄『アメリカ家族法』弘文堂 2021年
・イギリス婚姻事件法
https://www.legislation.gov.uk/ukpga/1973/18
・ドイツ民法典
https://www.gesetze-im-internet.de/bgb/
・フランス民法典
https://www.legifrance.gouv.fr/codes/texte_lc/LEGITEXT000006070721/

弁護士の本音

弁護士 青木
弁護士のホンネ

婚姻は、幸せになるための選択肢の一つです。しかし、一旦婚姻をすると、簡単には離婚ができません。時にそれは、人を不幸にする檻になってしまいがちです。民事法では、継続的な契約については、当然に解約権が認められますが、婚姻については、なぜかそうではないというのが実情です。

何が正しいのかということをここで明言することは難しいですが、共同親権の法制が整備されたように、日本も、世界のスタンダードを尊重する方向に動き続けています。日本の離婚制度も変わる可能性があります。

今回の記事が、日本の離婚制度に関する、皆様の考えをサポートする一助となれば幸いです。

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