
プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(離婚に特化した法律事務所として東京と横浜に事務所を構えています。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
夫側、妻側、それぞれに立場に応じて弁護活動を行っています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)
今回は、若い男性がプロポーズをしなくなったことで、婚姻が減り、結果として少子化を促進していることについて、解説します。若い男性がプロポーズをしなくなった理由として考えられる、婚姻・離婚制度の問題点についても紹介します。
1 若い男性がプロポーズをしなくなった?
(1)生涯未婚率の増加
国立社会保障・人口問題研究所による調査によると、50歳時点における未婚率、いわゆる生涯未婚率が、増加傾向にあることが分かります。
(人口統計資料集 2024年版)
https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/Popular2024.asp?chap=6
(50才時未婚割合(いわゆる生涯未婚率)の変遷)
https://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Popular/P_Detail2024.asp?fname=T06-23.htm
2020年時点で、50才時点の男性の28.25パーセント、女性の17.81パーセントが未婚です。これは、配偶者と離婚したり死別した人を除いた割合ですから、いかに婚姻自体をしない男女(特に男性)が増えたかを窺わせるデータです。
このパーセンテージは、年々上昇しており、2000年には男性で12.57パーセント、2010年で20.14パーセントであったことを踏まえると、驚くべきスピードで上昇を続けていることが分かります。男性の3人に1人が生涯未婚を貫く時代も、すぐそばまで来ています。
(2)「一生結婚するつもりはない」との回答
ところで、結婚をしないのは、経済的な事情などで結婚できないからという部分もあると思われますが、自ら、「一生結婚するつもりはない」との選択をしている人が、確実に増えているのです。国立社会保障・人口問題研究所の第16回出生動向基本調査では、2021年の時点で、18歳以上の未婚男性の17.3パーセントが、「一生結婚するつもりはない」と回答しています。
https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/JNFS16_Report03.pdf
(第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査))
(3)男性からプロポーズ84%、女性からプロポーズ1%
そして、通常、結婚の端緒となるのは、プロポーズです。日本では、プロポーズは、ほぼ男性側から行われています。データをみても、婚姻者のうち、男性からプロポーズをしたというのが84パーセント、女性からは、0パーセント台から1パーセント台に止まっています。残りは、プロポーズ自体がなかったというものです。
https://souken.zexy.net/data/trend2024/XY_MT24_report_06shutoken.pdf
「恋愛・結婚調査2024(リクルートブライダル総研調べ)」
したがって、結婚の決定的なきっかけは、男性からのプロポーズであることが分かります。
以上から、若い男性が婚姻を避け、プロポーズをしなくなり、それにより婚姻率が急速に下がりつつある状況を見てとることができます。
(4)なぜ若い男性が婚姻を避けている?
なぜこのような事態になっているのでしょうか?
同じく、「恋愛・結婚調査2024(リクルートブライダル総研調べ)」によれば、婚姻をしない理由のトップ3(複数回答可)として、以下が列挙されています。
・行動や生き方が制限されるから(35.8パーセント)
・メリットを感じないから(24.8パーセント)
金銭的に余裕がなくなる、行動や生き方が制限される。これらは一応事実ではありますが、今に始まったことではありません。婚姻制度の内容自体は、戦後ほとんど変化していないからです。そうすると、近年になって、若い人たちが、これらの婚姻制度の情報に容易に接するようになったことが考えられます。一体、どこからでしょうか?
一つ考えられるのは、X(旧Twitter)などのSNSです。昨今は、結婚や離婚に関する負の側面について、離婚問題の最中にある当事者が、SNSを通して社会に発信するようになりました。
また、ネット検索も考えられるでしょう。グーグルトレンドを見ると、「結婚 デメリット」で検索しているボリュームが、2010年から2020年にかけて3倍になるなど、大幅に増えていることも確認できます。
(https://trends.google.co.jp/trends?geo=JP&hl=ja)
2010年は、スマートフォンが爆発的にヒットし始めた時期です。
そうしたデバイスの変化により、SNSやインターネットを通じて、結婚や離婚制度の不条理な側面を、若い人たちが知るに至り、結婚を敬遠するようになったことが伺えます。
それでは、若い人(特に男性)にとって、結婚や離婚制度の不条理な側面とはなんでしょうか?解説します。
当サイト運営・プロキオン法律事務所では、相談室(渋谷駅徒歩5分・横浜駅徒歩6分)またはオンラインにて、無料相談を実施しています。
2 若い男性が恐れる、結婚・離婚制度の不条理な側面
(1)扶養義務(婚姻費用の支払い義務)
まずは、扶養義務です。家族になるのだから、当たり前では?と思う方も多いでしょう。しかし、この扶養義務は婚姻に伴う他の義務よりも拘束力が強く、別居をしたり、婚姻関係が完全に破綻している場合であっても続きます。
例えば、いわゆる「浮気をしてはならない」という貞操義務は、婚姻関係が破綻すれば、なくなるとするのが判例です。しかし、扶養義務(別居中は、婚姻費用として配偶者に対してお金を支払う義務)については、どれほど婚姻関係が破綻している場合でも、稼ぎが多い方が少ない方に対して負い続けることになります。
要するに、どれほど相手が憎くて嫌いになり、どれほど関係が破綻していても、離婚しない限り負い続けるのが、扶養義務なのです。
稼ぎの少ない妻の浮気により別居になった場合であっても、そうした浮気が証拠で証明できない場合は、やはり別居期間中は生活費を払わなければなりません。稼ぎの多い夫の浮気で別居になった場合は、次に述べるように、簡単に離婚することもできませんから、別居をしたとしても、10年程度、この扶養義務の履行に追われることになります。
以下の記事もご参照ください。
プロキオン法律事務所の弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の調停や裁判に出席しています。(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)妻が勝手に家出をして帰っ[…]
(2)離婚が簡単にできない
どれほど相手のことが嫌いになったとしても、相手が応じてくれない限り、法的手続を取らなければ離婚はできません。また、法的な手続としては、最初に離婚調停を申し立て、そこで話し合いを試みます。そこでも離婚の合意ができなければ、離婚訴訟を提起することになります。調停と訴訟、それぞれ、半年から1年半の期間がかかります。
訴訟まで行ったとしても、離婚が認められるとは限りません。日本の家族法は、他の先進諸外国よりも、厳しい法定離婚事由を定めています。相手に不貞などの違法行為がなければ、3年から5年の別居期間がなければ離婚は認められません。
民法第七百七十条
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
また、離婚をしたい側が不貞をしている場合は、①10年程度の長期の別居期間があり、②未成熟子がおらず、③離婚後に相手の生活水準が過酷なものにならないことが、離婚の条件とされます(最高裁昭和62年9月2日判決)。有責配偶者からの離婚請求は、判例によって、厳しい離婚条件を設けられているのです。これもまた、日本特有の現象です。もちろん、離婚が認められない限り、扶養義務は続きますので、その経済的な負担は甚大なものになります。
諸外国との離婚制度の差については、以下の記事でも解説していますので、参考にしてください。
今回は、日本が先進諸国に比べて、離婚が認められづらい実情について、解説します。1 世界は離婚の自由化へ向かっている世界では、時代の進みとともに、離婚が自由化の方向へ動いています。人権保護の潮流として、世界は、各個人に人生の選択権を豊富[…]
(3)財産分与の2分の1ルール
婚姻してから築き上げた財産は、離婚時に配偶者と清算することになります。原則として、「財産分与の2分の1ルール」が適用されます。
例えば、婚姻後、あなたが5000万円を蓄え、配偶者が2000万円を蓄えた場合、離婚時に配偶者に対して1500万円を渡すことになります。一方で、配偶者が専業主婦の場合は、2500万円を渡さなければなりません。
これが公平・公正な制度なのかは議論があるところですが、現在の家庭裁判所実務では、よほどのことがなければ、上記の2分の1ルールが適用されています。「よほどのこと」というのは、宝くじで大儲けしたとか、プロ野球選手で一時的に超高額所得の期間があるケースであり、極めて稀です。
この事案(平成29年3月2日東京高裁決定/判タ 1446号114頁)では、夫が宝くじを購入したところ、それによって2億円の当選金を獲得したことから、財産分与の割合が問題となりました。原審(平成28年3月2日前橋家裁高崎支部)は、宝く[…]
収入やそれによる蓄財は、それまで(特に婚姻前の若いとき)の人生の努力の結果と言えます。したがって、財産分与は、そうした婚姻前の努力がもたらした果実を配偶者に渡すことでもあります。そのため、財産分与の2分の1ルールが適用されることについて、納得できない人が多くいることは、否定できません。
とある未婚の若い男性弁護士から、「財産を半分あげても良いと思えるほどの人に出会えない」、という言葉を聞いたことがあります。婚姻に踏み切れない男性の心境を表すものと言えるでしょう。
(4)仕事を頑張れば頑張るほど、親権は取れない
最後に、親権についてです。これまで、日本では離婚後単独親権制度が取られていました。つまり、離婚をすると、子供の親権を取れるのは、夫婦どちらか一方ということになります。
そして、裁判所は、子供は父と母どちらと一緒に生活をするのが良いのか、主に健康や心情面を中心に判断します。そのため、通常は、子供と長い時間を共に過ごしてきた母側に親権が認められることになります。したがって、家族を養うために仕事を頑張っていた父親は、親権の取得という側面では、完全に不利です。仕事を頑張れば頑張るほど、親権を取れないというのは、事実と言わざるを得ません。
令和6年5月の離婚後共同親権制度の成立(令和8年4月頃に施行見込み)により、この部分は多少改善することになります。しかし、子供を実際に身近で育てる権利(監護権)まで共同になったわけではありませんので、問題は引き続き残るといえます。
また、別居や離婚後の子供との面会交流については、子供を監護している相手が拒否をすれば、実際には実現できないという現実があります。このことも、婚姻について考える若い人にとっては、不条理な側面として映るでしょう。
面会交流制度の問題点については、以下の記事もご参照ください。
1 屈辱と悲しみに耐える夫たち別居や離婚をした後、子供のことで大きな問題になるのが、面会交流です。日本では、共同監護や共同親権が公式には認められていませんので、子供と離れ離れになった親がその後子供と会えるかどうかは、ひとえに監護親の意思[…]
3 少子化とのつながり。改善策は?
以上、若い男性が結婚を回避する原因と思われる、婚姻・離婚制度の不条理な側面をお話ししました。
こうして若い人たちが婚姻しなくなることで生じる深刻な問題は、ずばり、少子化のさらなる悪化です。
現在、少子化は着々と進み(近年では、年間の出生数が80万人を切っています。)、現状がこのまま続けば、日本社会は持続不可能です。
なぜ若い世代の結婚が行われないことで少子化につながるかというと、婚姻をした夫婦の出生力は、以前からそれほど大きな変化はないからです。
https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/JNFS16_Report04.pdf
(第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査))
つまり、結婚の回避それ自体が、少子化の最も大きいボトルネックになっていることがわかります。そして、結婚に至る経緯をさらに細分化すると、若い男性の結婚・離婚制度への懸念がボトルネックになっているわけです。
現在、国は保育サポートの充実や児童手当の所得限度額撤廃など、さまざまな少子化対策をしています。しかし、「若い男性がプロポーズをしたい(しても良い)と思える結婚制度」という考え方が、政策の中でごっそりと抜け落ちていることは気になります。そこのケアが一切ないとなれば、少子化対策の効果は望めないでしょう。
そのため、抜本的な解決を図るために、
②法定離婚事由を諸外国と同等の水準にするか(別居1年程度で、別居の原因を問わず離婚を認めるのが世界のスタンダードです。)、
③財産分与割合を家族生活や財産形成に対する、具体的な貢献ベースにするか、
などを検討することが必要かもしれません(あくまでも一例です。)。
もちろん、婚姻当事者にはさまざまな属性の方がいらっしゃいますし、多様なケースがあります。したがって、不公正・不公平なものにならないよう、慎重に検討する必要はあります。
なお、親権について、令和6年5月に離婚後の共同親権制度が成立したこと(令和8年4月頃に施行見込み)は、大きな前進といえるでしょう。一方で、面会交流制度の実効性を担保できる制度の確立など、検討が必要な事項はまだ残っています。
今後も国の制度のあり方について、引き続き注視していきたいと思います。
<まとめ>
☑️生涯未婚率が特に男性において大幅に上昇しています。
☑️未婚男性の17%以上が、「一生結婚するつもりはない」と回答しています。
☑️プロポーズのほとんどが男性から行われていることがデータから分かります。
☑️若い男性が婚姻をしなくなった原因として、スマートフォンの普及により、婚姻・離婚制度の負の側面の情報に、容易に接するようになったことが考えられます。
☑️婚姻者による出生力に大きな変化はないため、婚姻が行われなくなったことが少子化の最も大きい原因(ボトルネック)と考えられます。
☑️少子化対策を検討する際、若い男性がプロポーズをしたい(しても良い)と思える婚姻制度にするという観点を、立法政策者は意識する必要がありそうです。
弁護士のホンネ

今回は、若い世代が結婚をしなくなっている現状、それに伴い必然的に生じている少子化という厳しい問題について、離婚問題に携わる弁護士として、提言的な記事を書かせていただきました。
日本は、少子高齢社会の最中にあり、その深刻度合いは年々増していく状況です。これほど大規模な社会においては、人類史上初めての事態と言えるでしょう。そのため、あまり悠長な理想論を言ったり、時間をかけて解決を図ることはできません。ところが、本文でも述べたように、「若い男性がプロポーズをしたい(しても良い)と思える結婚制度」という考え方は、国の政策の中にごっそりと抜け落ちています。
このような危機感のもと、本記事を書かせていただきました。少子化問題等について危機意識を持っている方にとって、本記事が参考になりましたら幸いです。
当サイト運営・プロキオン法律事務所では、相談室(渋谷駅徒歩5分・横浜駅徒歩6分)またはオンラインにて、無料相談を実施しています。