
プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として東京と横浜に事務所を構えています。)の代表弁護士の荒木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
夫側、妻側、それぞれに立場に応じて弁護活動を行っています。
(弁護士 荒木雄平 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)
離婚を本気で考え始めたとき、まず心配になるのが「お金」のこと。特に、長年一緒に過ごしてきた夫が、どれくらいの財産を持っているのか分からない……そんな不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
「子育ても落ち着いたし、このまま夫と老後を迎えるのは考えられない。でも、離婚した後、経済的に困らないか心配……」——そんな女性の声を、私たちはたくさん聞いてきました。
この記事では、夫が資産を隠しているかもしれないと感じている方に向けて、財産分与で正当な取り分を受け取るための具体的な方法を分かりやすく、そしてお一人お一人の不安な気持ちに寄り添う形で丁寧に解説します。
今回は、離婚を考えている女性向け(妻側)の記事となりますので、その点ご了承ください。
財産分与とは?まずは基本を確認
(清算的)財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を清算的に2分の1ずつに分けるという制度です。
これは専業主婦やパートタイム勤務など、直接的な収入が少なかったとしても、家庭を支えてきた貢献がしっかりと評価されるため、2分の1で分けることとなります。
そして、財産分与の対象となるのは原則として「別居時点の財産」(※なお、夫婦が離婚時でも同居を継続している場合は「離婚時点での財産」「離婚を切り出した時点での財産」です。)です。つまり、
- 夫婦が別居している場合には、別居を開始した時点での財産が分ける対象です。
- 別居後に形成された財産(たとえば別居後に離婚までに新たに購入した自動車や株式、貯金した預貯金など)は原則として対象外です。
- 夫婦の婚姻前に取得した財産や、婚姻後の取得であっても親族からの贈与や相続で得た財産も対象外です。
- ただし、不動産、株式など有価証券、自動車など時価があるものは別居日時点に存在する資産を現在時点(離婚時点)の時価で評価することになります。
「離婚を考えているけど、まだ一緒に住んでいる」という方は、実際に別居した日をしっかりと証明できるよう、住民票の移動日や別居の通知書などを準備しておくことも大切です。
どんな財産が対象になるの?主な財産一覧
財産分与の対象となるのは、夫婦で築いた「共有財産」です。以下が代表的なものです:
- 預貯金:夫婦のすべての口座。名義が夫であっても、別居日時点で存在する預金は原則として共有財産とみなされます。相続や贈与で得た預金や婚姻前の預貯金については対象外となります。
- 生命保険:解約返戻金のある終身型保険など。別居時点の返戻金相当額で評価。保険会社にて解約返戻金の証明書を発行してもらいます。
- 退職金:勤務先からの見込み額。別居時に自己都合退職した場合の金額を基準に計算。退職金証明書や退職金規程で計算いたします。
- 有価証券などの金融資産:個別株、投資信託、債券など。別居時点の銘柄・株数に対し、現在の時価で評価します。
- 不動産:持ち家などは不動産業者の査定で時価評価を行い、別居時点の住宅ローン残高を控除して純資産を算出します。不動産業者の査定は無料のもので差し支えありません。
「名義は全部夫だから自分には関係ない」と思ってしまう方も多いのですが、それは大きな誤解です。
名義が夫でも、別居時に存在する財産であるため、夫婦の協力によって築かれた資産とみなされるため原則として財産分与の対象になるのです。
当サイト運営・プロキオン法律事務所では、相談室(渋谷駅徒歩5分・横浜駅徒歩6分)またはオンラインにて、無料相談を実施しています。
財産の開示は基本「任意」だからこそ注意!
協議・調停・裁判のいずれの段階でも、まずはお互いに任意で財産を開示することが基本です。つまり、相手が誠実に協力してくれればスムーズに話が進みます。
しかし、現実には「夫が通帳を見せてくれない」「証券口座の存在を隠しているようだ」といった声がとても多いのも事実です。これがまさに「財産隠し」です。
特に、収入が高い夫で金融資産や保険に詳しい人の場合、意図的に財産を分かりづらく管理しているケースも見受けられます。こうした場合、離婚後に「そんな資産があったなんて知らなかった」と後悔しないよう、できるだけ早めに動くことが大切です。
他方で、互いに財産を開示しなければ正確な財産金額はわからないため、夫のみ開示して、妻は開示しないという対応は原則として認められません。
夫が財産を開示しない!そんな時の対応法
相手が財産を開示しない場合、調停や裁判では次のような手続きを通じて、財産を明らかにすることができます。
【1】求釈明(きゅうしゃくめい)
民事訴訟法163条に基づき、相手に対して「どこに、どのくらいの財産があるのか」を明らかにするよう、裁判所を通じて求めることができます。
特に調停や裁判の場合には、夫が財産を隠している場合には、具体的に「○○銀行の○○支店の口座が未開示だから提出してほしい。」と求釈明をしてプレッシャーをかけることが重要です。
【2】文書送付嘱託(ぶんしょそうふしょくたく)、調査嘱託(ちょうさしょくたく)
民事訴訟法186条に基づき、裁判所が第三者(銀行、証券会社など)に対して、必要な資料や情報の提出を依頼する制度です。
特に裁判で、夫が金融資産を隠している場合には有効です。裁判所が金融機関に照会をかける形となります。
ただし、夫が開示を拒否している場合には、金融機関が回答拒否の回答をするケースも稀にあるため、注意が必要です。
【3】文書提出命令(ぶんしょていしゅつめいれい)
民事訴訟法220条に基づき、相手や第三者が持っている文書を裁判所が強制的に提出させる手続きです。
裁判で、夫が文書送付嘱託、調査嘱託での開示を拒否している場合に有効で、強制力のある制度です。
ただし一般的に認められるハードルが高く、なおかつ命令が出るまでに時間もかかります。
これらの手続きによって、隠されていた口座や証券資産が明らかになる可能性があります。
注意点:すべての財産が調査できるわけではありません
これらの手続きは非常に有効ですが、万能ではありません。注意点としては:
- 調査嘱託・文書提出命令を利用するには、銀行名・支店名など具体的な情報が必要です。
- 「日本中の銀行を調べてください」「海外に資産があるはず」といった包括的・探索的な照会は不可です。
- 照会できるのは、基本的に別居時点の残高に限られます。例えば、結婚してから別居までの全ての取引履歴など広範すぎるものは認められ難いです。
そのため、「たぶんどこかにお金を隠していると思う」だけでは裁判所も動けません。
そうですから、日頃から、夫がどのような財産を持っているのか、どのような金融機関に資産を持っているのかをある程度当たりをつけておくことが重要です。
【実践編】離婚前にできること、やっておくべきこと
将来的に離婚を視野に入れているなら、同居中から次のような情報収集をしておくことをおすすめします:
- 自宅にある通帳やキャッシュカードの銀行名・支店名・口座番号をメモする
- 郵便物(証券会社・銀行からの通知、株主総会の案内など)をチェック
- スマホやパソコンのブラウザ履歴、ブックマーク、メールなどから金融機関名の手がかりを探す
- 保険証券や年金加入記録も確認しておくと◎
こうした準備があると、調査嘱託などの手続きがスムーズに進み、確実に財産を把握・分与できる可能性が高まります。
【成功例】
Mさん(56歳・東京都在住)は、夫が保有していた証券口座の情報を同居中に把握しており、調停で開示請求。結果、約800万円相当の投資信託が判明し、財産分与の金額が400万円増加しました。
【失敗例】
Nさん(58歳・横浜市在住)は、「夫はきっと何か隠してる。」「夫の収入と比較して資産の金額が安すぎる。」と訴えましたが、証拠がなく、当然ながら調査嘱託も認められず。結果、表面上の預金のみの財産分与にとどまりました。
よくあるご質問(FAQ)
夫が「財産なんてない」と言い張っています。本当に確認できますか?
A. 任意開示に応じない場合でも、証拠や情報があれば、調査嘱託や文書提出命令を使って確認可能です。
別居のタイミングが曖昧でも評価できますか?
A. 実質的な別居(家庭内別居含む)を証明する資料があれば問題ありません。住民票やLINE履歴、生活費の送金記録なども活用できます。
自分の名義の財産もすべて開示しないといけませんか?
A. はい。財産分与はお互いに誠実であることが前提です。自分側の非開示は信頼を損ない、調停や裁判で不利になる可能性もあります。
弁護士のホンネ

裁判では妻の「内助の功」というものを根拠に専業主婦やパートなど、財産の大半が夫名義であってもその2分の1の財産分与が認められます。
夫婦で築いた財産は、あなたが家庭を支え、子育てに尽力してきた努力の結晶です。「名義が違うから…」「夫に逆らうのが怖いから…」と遠慮せず、正当な権利として、きちんと受け取ってください。
「うちは財産がどれだけあるか全然分からない」「何から始めればいいか分からない」と一人で悩まれるお客様は多いです。
特にモラルハラスメントが問題となる事案に、特に夫が財産隠しをしているケースが多いように見受けられます。
離婚は人生の一大決断です。経済的に損をせず、新しい生活を安心してスタートするためには、早い段階で情報収集を始め、準備していくことがとても重要です。
なお、本文に挙げた成功例・失敗例は、実際の事例やありうるケースを融合したものです。
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