離婚時の財産分与|含み益があるマンションの具体的計算方法

プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(離婚に特化した法律事務所として東京と横浜に事務所を構えています。)の代表弁護士の荒木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
夫側、妻側、それぞれに立場に応じて弁護活動を行っています。
(弁護士 荒木雄平 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)

離婚を考える際、財産分与は非常に重要なテーマとなります。特に、ここ10年で購入した都内のタワーマンションなど、大きな含み益が出ている不動産の財産分与は複雑な計算が必要です。

そこで今回は、住宅ローン残高がある不動産の財産分与について、具体的な計算方法を詳しく解説します。最新の不動産市況を踏まえたポイントや、実際の成功例・失敗談も交え、わかりやすくお伝えします。

1.不動産の評価は時価で計算

財産分与における不動産の評価額は、時価を基準に計算します。正確な評価額を得るためには、不動産会社への査定依頼が欠かせません。

不動産査定書の取得方法

– 不動産会社に査定を依頼することで、無料で査定書を作成してもらえます。いわゆる大手不動産会社(三井のリハウス、東急リバブル、住友不動産販売、野村不動産販売など)の地元の支店に作成を依頼することがおすすめです。

– 不動産会社が査定を行う際には、マンションの場合、同じマンション内の似た条件の部屋が最近どのような価格で取引されたかが参考になります。この情報は、不動産流通システム「レインズ」 (不動産流通機構会員専用の情報交換サービス)に挙げられている成約価格を基に確認します。

査定結果をどう活用するか

複数の査定を依頼する際には、単に現実的なものを選ぶのではなく、自分にとって有利な査定を選ぶことが重要です。
不動産を売却する予定があるのか、それともどちらかの名義にして残すのかによって、有利な査定内容が異なります。そのため、査定結果を総合的に判断することが必要です。

最新の査定書を用意する理由*

現在、特に都内の不動産は大幅に値上がりしている傾向があります。
そのため、必ず最新の情報に基づいて査定を受けることが重要です。

家庭裁判所実務での評価方法

家庭裁判所では、夫婦間で異なる査定結果が出た場合、それぞれの査定額の中間値を採用することが多いです。

具体例:成功例と失敗談

– 成功例:Aさん(40代男性、会社員)は、3社に査定を依頼し、今後タワーマンションの自宅を売却する予定があったため、高額査定を出した不動産会社の査定書を利用しました。その結果、妻も自宅を売却することに乗り気になり、高額で売却することができ、その中から妻への財産分与や和解金などを支払うことができ、持ち出しをせずに離婚をすることができました。
– 失敗談:Bさん(50代女性、自営業)は、目的を明確にせずに一括査定サイトで得た最初の査定額を使用しましたが、相場より低額だったため調停で夫から反発を受け、夫が離婚自体に反対することになり、調停が不成立となってしまいました。

計算例:不動産の時価評価

– 夫の提出した査定額:1億5000万円
– 妻の提出した査定額:1億4000万円
– 家庭裁判所が採用した中間値:1億4500万円

この1億4500万円が財産分与の基準となるのが通常です。

不動産の実質価値の算定式

不動産の財産分与では、以下の算定式が用いられます:

不動産の評価額 = 時価額 – 別居時点のローン残高

計算方法の具体例

– 不動産の時価額:1億4500万円(上記の例)
– 別居時点のローン残高:5000万円
不動産の実質価値:1億4500万円 – 5000万円 = **9500万円**

この9500万円が、財産分与の対象となる不動産の純粋な価値となります。

具体例:成功例と失敗談

– 成功例:Cさん(40代女性、パート勤務)は、自宅マンションのローン残高をきちんと確認し、不動産会社の査定書、ローンの残高証明書、返済予定表などを用意して調停に臨みました。相手方もそれらの資料の正確さを認め、スムーズに話し合いが進みました。
– 失敗談:Dさん(50代男性、会社役員)は、ローンに関する資料を持ち出さずに別居してしまい、銀行からの返済予定表も手元になかったため、別居後のローン残高を正確に把握していませんでした。そこで、妻から調停中に追加資料を求められ、対応に時間がかかってしまいました。

財産分与で取得する額の計算方法

財産分与で取得できる金額を計算するためには、不動産の取得や維持におけるそれぞれの貢献度を考慮し、以下のように計算します。
(東京家庭裁判所の計算方式の一例:『離婚判例ガイド』(二宮周平・榊原富士子著)103頁を参考に作成)

財産分与額の算定式

財産分与で取得できる金額 = 不動産の実質価値 × (ローン支払額の1/2 + 特有財産の額) ÷ 不動産取得総額

項目ごとの意味

– ローン支払額の1/2:婚姻期間中(別居まで)に夫婦共有の財産として支払われたローンの半額。
– 特有財産の額:婚姻前の貯金や親族からの贈与で支払われた頭金、別居後に支払ったローンなど。
– 不動産取得総額:婚姻期間中のローン支払額 + 頭金額 + 別居後の支払額。

計算例:具体的なケース

– 不動産の評価額:9500万円(先ほどの例)
– 婚姻期間中(別居まで)のローン支払額:3000万円
– 頭金(夫が婚姻前の貯金から支払った額):2000万円
– 夫が別居後に支払ったローン:500万円
– 不動産取得総額:3000万円 + 2000万円 + 500万円 = 5500万円

計算式:
夫が財産分与で取得できる額 = 9500万円 × (1500万円(ローン支払額の半分) + 2500万円(頭金と別居後のローン)) ÷ 5500万円
= 9500万円 × 4000万円 ÷ 5500万円
= 6909万0909円

妻が財産分与で取得できる額 = 9500万円 × 1500万円(ローン支払額の半分) ÷ 5500万円
= 9500万円 × 4000万円 ÷ 5500万円
= 2590万9090円

具体例:成功例と失敗談

– 成功例:Eさん(40代男性、営業職)は、婚姻中のローン支払額と、婚姻前の預貯金から支払った頭金を詳細に記録し、当時の通帳などを残しており、調停での特有財産の主張が認められ、適切な財産分与額を得ることができました。
– 失敗談:Fさん(50代女性、事務職)は、自宅取得当時の通帳などを全て処分してしまい、10年以上経過していたので銀行で取引履歴を取り寄せることもできず、頭金が婚姻前のから支払われたことを証明できませんでした。そのため特有財産の主張が認められず、2分の1のみの財産分与となってしまいました。

よくある質問(FAQ)

Q1. 不動産を売却せずに分与することはできますか?

A: はい、可能です。不動産をどちらかの名義にする形で分与する場合、適正な評価額を基に財産分与額を計算します。その際には、不動産売却にかかる諸費用(仲介手数料、登録免許税、司法書士費用など)を不動産の実質価値から差し引くかどうかなどは考え方が分かれます。

Q2. 調停で話がまとまらない場合はどうすればいいですか?

A: 離婚調停が不成立となった場合、調停事件自体は不成立となり終了し、裁判を提起する必要があります。離婚裁判では、家庭裁判所での判決で財産分与の金額について判断します。他方で離婚が成立した後の財産分与調停の場合には、調停不成立となったら裁判ではなく審判手続きに移行します。審判では、裁判官が資料や主張を基に最終判断を下します。

Q3. 自分名義の不動産でも、相手に分与する必要がありますか?

A: 名義に関係なく、婚姻期間中に築いた財産であれば、相手に分与する義務があります。妻が専業主婦の場合でも内助の功が認められるからです。名義だけで諦める必要はありません。

弁護士のホンネ

弁護士 荒木
弁護士のホンネ

含み益がある不動産の財産分与に関する問題は、非常に専門性が高く、調停委員や一部の弁護士でも誤解しているケースが少なくありません。そのため、次の点に注意してください。

1.専門家の助言が不可欠

– 含み益がある不動産の計算方法について正確に理解している専門家は限られています。離婚事件に強い弁護士に必ず相談しましょう。
– 特に、都内限定の現象であることから、都内の不動産事情に詳しい弁護士を選ぶことがベターです。

2.名義に関係なく権利を主張

– マンションの名義が夫であっても、婚姻期間中に共有財産として形成された価値については妻側にも財産分与の権利があります。
– 妻側からの請求で得られる可能性は高いので、諦めずにしっかり主張してください。

3.トラブルを防ぐための準備が重要

– 正確な査定やローン残高の確認、計算式の理解が不足すると、調停や裁判で不利になる可能性があります。少しの計算ミスで数百万円の損をすることになりかねません。

不動産の財産分与は人生の大きな決断です。後悔しないためにも、しっかりと準備を整え、信頼できる弁護士に相談してください。

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