横浜駅の弁護士の青木です。
今回は、この問題について考えていきましょう。
もし、あなたが不倫をしていて、ついにその不倫相手が奥様と離婚をしたとして、その後に元奥様に不倫の事実がバレてしまった場合です。
あなたは元奥様に慰謝料を支払わないといけないのでしょうか。
1 不倫をするとどうして慰謝料を払わないといけないのか
不倫は、不倫相手の配偶者を傷つけてしまうものです。
法律的には、不倫というものが、不倫相手の奥様の「平穏に結婚生活を続ける権利」を侵害し、さらにそれによって奥様に精神的苦痛を生じさせるため、その苦痛を補填するために慰謝料請求権が発生すると説明されています。
既婚男性と不倫をし、それが男性の奥様にバレてしまうと、奥様は旦那さんを信頼できなくなり、結婚生活を続けることが困難になってしまいます。
それにより、奥様には精神的な苦痛が生じます。
それが、慰謝料の発生根拠です。
ところで、もし、不倫が奥様に発覚したのが、不倫相手とその奥様が離婚をした後であった場合はどうなるのでしょうか。
その時点では、既に元奥様には「平穏に結婚生活を続ける権利」はないはずです。
既に離婚しているからですね。
また、不倫と関係なく離婚に至っているのであれば、不倫自体は、奥様の結婚生活を続ける権利を「侵害した」とは言い難いのではないか。
こうした疑問が生じてきます。
それでは、実際のところ、この点について裁判所はどのように判断をしているのでしょうか。
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2 実際の裁判所の判断は?
まず、平成22年4月20日に東京地方裁判所は、妻から離婚調停を申し立てられた後に妻の不貞行為があったことを知ったとしても、夫としての権利ないし法律上保護される利益を害されたものとは認められないと判断しています。
この判決は、妻から離婚調停を申し立てられた時点では既に結婚生活が破綻していたことを前提としています。
つまり、破綻後に不貞行為があったことを「知った」ということは、破綻自体は不貞行為以外の事情によるということです。
ですので、不貞行為は、夫婦の関係に対して現実に影響を与えていないということですね。
そして、この判決は慰謝料請求を認めませんでした。
また、平成24年5月8日の東京地方裁判所の判決は、夫と離婚し、その元夫が死亡した後に、過去の不貞行為を知ったという事案です。
ここでも裁判所は、不貞関係にあったことを知ったこと自体によって精神的苦痛を被ったとしても、いかなる権利が侵害されたといえるのか明らかではないとして、やはり慰謝料請求を認めませんでした。
やはり、不貞行為というものは、それを「知る」ことにより、精神的苦痛を受けるものです。
そういう意味で、不貞行為の事実を「知る」タイミングというのは非常に重要なわけです。
離婚をした後にそれを知ったとして、その時点で精神的苦痛を被ったとしても、そもそもその時点では結婚生活についてなんら権利・利益を有していないわけです。
不貞行為の事実については、それを知ったタイミングが重要である。
このことを、ご理解いただけると良いでしょう。
こうした裁判所の判断をご覧になって、「え、それってどうなの?」と思う方々も多いかもしれませんね。
確かに不貞行為を知ったのは離婚後でも、不貞行為があった時点で既に妻としての権利を侵害されていたのであるから、その時点で慰謝料を請求できるのではないかと、思われるかもしれません。
しかし、慰謝料請求というのは、あくまでも精神的苦痛を補填するための権利です。
ですので、慰謝料請求権が発生するためには、平穏に結婚生活を維持する権利を侵害されたことに加えて、不貞行為を「知ったこと」が必要になるでしょう。
そして、不貞行為を「知った」時点で既に離婚していたとすれば、その時点では、もはや平穏に結婚生活を維持する権利というものがありません。侵害された権利がないのです。
このように考えると、裁判所の判断もある程度は納得できるかもしれませんね。