プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として東京と横浜に事務所を構えています。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上の離婚調停や裁判に出席しています。
夫側、妻側、それぞれに立場に応じて弁護活動を行っています。
(弁護士 青木亮祐 /プロキオン法律事務所 代表弁護士)
今回は、モラハラや暴力を行う妻(女性)側の言動を記録化する必要が極めて高いことと、その方法について解説します。本記事は、主に夫である男性向けの記事になりますので、ご了承ください。
1 なぜ夫(男性)ほど証拠集めが重要になる?
(1)ステレオタイプ
離婚案件では、妻のモラハラや暴力行為に長年悩んでいる夫がたくさんいます。
しかし、そうした夫側の供述は、裁判所において過小評価されがちなのも事実です。むしろ、夫側の真摯な訴えが裁判所に響かず、妻側は何ら責任を問われないという事態も目にしてきました。
その理由の最たるものは、いわゆるステレオタイプです。夫(男性)側が被害者であるというストーリーは、一般社会においてさほど認知されていません。そのため、一般的に、妻側の供述は同情されながら読まれがちですし、夫側の供述は疑われながら読まれがちです。
なぜこうなってしまうのでしょうか。
裁判官は、証拠から浮かび上がる一つ一つの出来事を、線のように繋げてストーリーを構築し、判断します。その時に、こういう事実があれば普通こういうことだろう、という経験則を用いるのですが、その経験則は、ステレオタイプに左右されることが多々あるからです。
(2)ステレオタイプに基づく具体例
具体的に、ステレオタイプの例を挙げてみましょう。
①夫が妻の頬を引っ叩いた。
あなたはここから何を連想しますか?何を連想するかは、社会においてどのような情報が多数派であるか、あるいはあなた自身が普段からどのような情報に接しているかに左右されます。
①を目にすると、おそらく、日本国内でメディアに接している方の多くは、夫による妻へのDVを容易に連想することでしょう。どのような理由があろうと、暴力はいけないとの考えのもと、夫の行動の理由を深堀りしようとする人は少ないのではないでしょうか。
その一方で、次はどうでしょうか。
②妻が夫の頬を引っ叩いた。
ドラマや物語もメディアの一種です。
②を見ると、夫の浮気を連想する方が多いかもしれません。少なくとも、何か、やむを得ない理由があるから、妻は夫の頬を引っ叩いたのではないかと、その背景を深堀する方向に思考が向かいます。
①妻が夫に言う。「死ね。死ね。死ね。」
妻は夫から何をされたんだろう?その背景は何だろう?そのように思考が行く方が多いのではないでしょうか。
一方で、次はどうでしょうか。
②夫が妻に言う。「死ね。死ね。死ね。」
先ほどとはまるで印象が違いませんか?どのような理由であれ、このような暴言を吐くことは許さないという評価が、背景となる事実を知ろうとする意欲よりも先に出てくるのではないでしょうか。
①妻が子供を連れて家を出て別居した。
この文を見て、次のように思考が進む方も多いでしょう。一体何かあったのだろう、子供が夫に危害を加えられたのだろうか、それとも妻が危害を加えられたのだろうか。当然妻側が子供を育てただろうから、子供を連れて行くのは当然の結果だろう。
一方で、次はどうでしょうか。
②夫が子供を連れて家を出て別居した。
母親から子供を引き離すとは、この夫はどういうつもりなんだろう。親権争いを考えているのだとすれば、子供を巻き添えにしたものであって、ひどいことだ。このように思考が進む方が多いかもしれません。
①妻がドアを音を立てながらバタンとしめた。
すでに挙げた例と同じです。妻がこうした行動を取ったのには何か理由があるのではないかと思考が進みやすいです。
②夫がドアを音を立てながらバタンとしめた。
こちらも同様ですね。理由というより、夫がものに当たったという負の事実に目が行き、評価しがちだと思います。
このように、夫(男性)側は、妻(女性側)に対して、暴力性・加害性のステレオタイプがあり、一方で、妻(女性側)は、弱者性・被害者性のステレオタイプがあることがお分かりいただけると思います。
(3)裁判官もステレオタイプに引っ張られる
一つの事実を見た時、その評価を瞬時に持つのは、ステレオタイプの力によります。ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏の言葉を借りれば、「システム1」と呼ばれる、脳機能の一つに含まれるでしょう。
ステレオタイプは、思考のエネルギーを極めて省エネ化するので、意識しないとそれに引っ張られてしまいます。何気なく事実を解釈しようとすると、誤った結論に陥りやすいのです。
そして、事実認定の専門家である裁判官も、ステレオタイプから完全には逃れることはできません。そのため、あるべき事実認定ではなく、ステレオタイプによる事実認定がなされてしまうケースがあります。日ごろ、裁判実務を行なっている私自身も、それを目の当たりにしています。
【あるべき事実認定】
証拠から浮かび上がる、点としての複数の事実
↓
(素直に結びつけて線にする)
↓
正しいストーリーを構築
【ステレオタイプによる事実認定】
証拠から浮かび上がる、点としての複数の事実
↓
(ステレオタイプを経由して線にする)
↓
歪んだ、不公平なストーリーを構築
ステレオタイプは、アンカリング(思考の発着点)としても作用します。ステレオタイプは、思考のエネルギー節約のために、最初に瞬時に発動するのが特徴です。そのため、思考の発着点として機能してしまいますので、専門家であっても、妻に対しては同情しながら聞き、夫に対しては疑いながら聞く、と言う態度に至りやすいわけです。
もちろん、多くの裁判官は、そうした傾向を自戒し、慎重に判断しようと試みています。とはいえ、完全にそこから自由になることは困難でしょう。
(4)夫(男性)側は妻(女性)側以上に証拠集めが重要になる
ステレオタイプの存在により、一般的に、夫(男性)側は、自らの被害を訴えようとする場合、そもそもの立ち位置が不利であることは否めません。
そのため、夫側は、ステレオタイプの壁を破れるほどに、より確固とした証拠をもって対応する必要があります。夫側が妻側以上に証拠集めに注力すべき理由がここにあります。
以下では、具体的な証拠集めの方法をお伝えしましょう。
当サイト運営・プロキオン法律事務所では、相談室(渋谷駅徒歩5分・横浜駅徒歩6分)またはオンラインにて、無料相談を実施しています。
2 妻のモラハラ・暴力に対する証拠収集の方法
(1)音声、映像、写真
一番大事なのは、実際にあなたが被害を受けている様子や結果を直接示す証拠です。
モラハラであれば、音声。暴力であれば、映像(動画)や、怪我の写真です。
現行犯をそのまま録音したり映像に残すことは困難と思われるかもしれません。ただ、日頃からモラハラを受けたり暴力を受けたりする場合、必ず傾向があるはずです。
これまでの被害を記録していれば、何曜日の何時頃に被害を受けているか、あるいはどのようなイベントがある際に被害を受けているか、傾向が見えてきます。そうしたら、次に被害が発生する可能性の高い日時やイベントの際に、録音や映像の記録化をしましょう。
録音はスマホアプリで容易にできます。
映像(動画)については、例えばノートパソコンを開いて、パソコンに内蔵しているカメラを用いて録画する形であれば、相手に判明されづらく、日頃の被害を記録化できると思います。
(2)診断書、通院記録
暴行を受けて怪我を負った場合は、病院に行って診断書を書いてもらいましょう。男性は暴力を受けたことを恥ずかしがって病院へ行かない傾向が強いですが、一時の恥が大きな効果を生むかもしれません。
鬱状態になり、心療内科に行く際も同様です。そして、症状が続くのであれば、定期的にクリニックに通うようにしてください。一回きりの診断より、定期的な受診が続いている方が、裁判所もその被害を重く見てくれます。
(3)警察など公的機関への相談記録
「被害を受けていたなら、どこかに相談したりしなかったの?」
これは裁判官がよく発言する質問です。
第三者機関への相談は、それが記録化されていることが多く、後から証拠として提出ができます。
深刻な暴力被害の場合は警察が良いと思います。そこで被害申告をしたからといって、あなたが妻には連絡してもらわなくて良いというスタンスであれば、妻に対する連絡まではしないでくれるでしょう(ただし、暴力の内容にもよります)。警察に相談をし、今後万一のことがあった場合にスムーズに警察に対処してもらえるよう、準備をしてもらうのが良いでしょう。
なお、110番が必要なレベルのケースは、110番してください。それもまた記録に残ります。
また、暴力の内容が、警察が介入するほどのものではなかったり、モラハラにとどまる場合は、配偶者暴力相談支援センターでの相談が考えられるでしょう。
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/soudankikan/01.html
こうした機関で相談する場合は、まずは事前に電話で相談をしましょう。電話をした記録も、スクリーンショットで残しておくなどして記録化しておきましょう。
(4)日々の日記も侮れない
日々の被害を日記などのメモ帳に残しておくことも、侮れません。
日記は、後から作ったとか、編集されたとか言われがちですが、必ずしもそうとは言い切れません。後から作ったにしては具体的だし量も多すぎる、という場合は、日頃書き留めていたものと認められます。大学ノートでも手帳でも良いです。ただし、書くのであれば日頃から書くようにしてください。一時的な出来事を一回きり記録した、というだけでは、後から作ったり改ざんすることも容易なので、証拠としての価値が低くなります。
最近では、Lineのkeepメモや、非公開にしたX(旧twitter)を日記代わりにすることも良く行われています。これらであれば、後からの編集もできませんので、これから日記で記録化することを考えている方は、選択肢に入れておきましょう。
3 絶対に反撃しないように注意!
最後に、夫(男性)側への注意点です。
どんなに妻から暴行被害を受けても、決して反撃しないようにしてください。
夫(男性)側による暴行や傷害を、裁判所は重く考慮します。日頃から何度も妻から暴行被害を受けていたとしても、一度でも反撃してしまい、妻に怪我の証拠を一回でも作られると、上記2であげた証拠収集のために費やした努力が全て水の泡になる可能性があります。
どれほど証拠を重ねても、たった一枚の、妻の怪我の写真が結果をひっくり返すことがあるのです。ステレオタイプの存在により、自分の立ち位置が不利であることを冷静に意識しておきましょう。
一方、万一、身を守るために抵抗した結果、誤って妻に怪我を負わせてしまった場合は、どうしてそうなったかを、2の(4)であげた方法で、丁寧に記録化しておくことをお勧めします。
弁護士のホンネ
これまで、離婚案件を数多く担当し、妻によるモラハラや暴行被害に苦しむ夫(男性)側をたくさん見てきました。そのため、社会の情報に偏りがあることを日々感じています。結果として、家庭内においての男性の加害者性、女性の被害者性が強く印象付けられてしまっており、ステレオタイプ化しています。それにより、日本の裁判官の事実認定能力が乏しい状況になっているのは、致し方ないことなのかもしれません。
とはいえ、実際に被害を受けている方がいる現状を見過ごして良いわけはありません。実は、本記事を作成するとき、フリー素材の画像を取得する際に、「ドメスティックバイオレンス」で検索をしました。出てくる画像は、夫が妻をいたぶっているものや、父親が子供を叱りつけているものしか見当たらず、偏った印象が社会において根強いことを改めて認識しました。
一方で、昨今は、男性からの暴力相談受理状況が全体の20パーセントを超えている事実を、警察が公表しています。さらに、男性は被害を受けても、周りに相談するのが女性の約3分の1の割合というデータもあります(NPO法人OVAの調査)。こうした事実を契機として、男性側の被害もフォーカスされつつあります。今後、社会全体においても、現在の実態が適切にフォーカスされ、情報の多様化が進むことを期待したいと思います。
今回の記事が、配偶者からのモラハラや暴力に悩んでいるすべての方にとってお役に立てれば幸いです。
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