別居をして離婚を考えている方の中には、こんな風に悩んでいる方がいらっしゃると思います。
そこで、今回は、払いすぎた婚姻費用は法的にどう扱われるのか、取り戻すことはできるのかということについて、お話していきます。
1.別居後の夫婦の生活費について
夫婦が別居した場合、収入の多い方が少ない方に対して、婚姻費用(生活費)を支払う義務が生じます(民法752条、760条)。
婚姻費用算定表については、裁判所のホームページから確認することができます。
婚姻費用の額について、当事者間で争いになった場合、調停や審判、裁判においては、この算定表に基づいて算定されることが多いです。
自分が婚姻費用を払い過ぎている状況であるか確認する際の1つの指標となりますので、まずはこの婚姻費用算定表を参考にしてみてください。
婚姻費用算定表は、子どもの数や年齢、当事者双方の収入に対応しています。
算定表どおりの婚姻費用を支払っていれば、その中には、子どもにかかる費用(学費や塾代など)についても負担していることになります。
そのため、原則的には、婚姻費用の支払いに加えて、子どもにかかる費用を別途負担する必要はありません。
もっとも、算定表は、お子様が公立学校に通っている場合を前提としているため、私立学校の場合には収入割合に応じて費用負担をすることもあります。
2.払い過ぎた婚姻費用はどういう場合に取り戻せるの?
では、従前支払っていた婚姻費用が、上記の婚姻費用算定表から算出される婚姻費用の適性額を超えていた場合、その金額を取り戻せるのでしょうか。
現在の裁判所の運用では、婚姻費用算定表を上回る部分の金額について、直ちに返金を配偶者に請求できるものではないとされています。
というのは、婚姻費用算定表は、あくまでも婚姻費用を定める際の基準の一つにすぎないため、ある金額を任意で払ったのであれば、その金額が婚姻費用額とみなされるからです。
ただし、大阪高等裁判所の決定(大阪高裁平成21年9月4日決定家月62巻10号54頁)によれば、「当事者双方の収入や生活状況にかんがみて、著しく相当性を欠くような場合」には、既払い婚姻費用のうち標準算定方式に基づいて算定した額を上回る部分について財産分与の前渡しとして評価することができるとしています。
上記の「標準算定方式」というのは、婚姻費用算定表の根拠になっている方式のことです。算定表上の金額と考えて良いでしょう。
もっとも、この要件(「著しく相当性を欠くような場合」)に該当するか否かは、当事者の具体的な状況に鑑みて慎重に判断する必要があります。
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3.結局、払いすぎた婚姻費用って取り返すことはできるの?
前述の裁判例では、払いすぎた婚姻費用について、財産分与の前渡しと評価することで、事実上取り返しうることを判断しました。
しかし、実務上は、返してもらう旨の合意がない限り、払い過ぎてしまった婚姻費用を後から取り返すのは、難しいのが現状です。
相手からは、従前に支払っていた婚姻費用の金額こそが当事者で合意のあった金額と主張され、拒否されることが多いためです。
前述のとおり、婚姻費用算定表は、あくまでも一つの参考にすぎず、法的拘束力が生じるものではありません。
そのため、当事者間に合意があった場合には、算定表の金額よりも合意額が優先されることになるので、注意が必要です。
安易な合意は避けましょう。
また、明示的な合意がなくとも、支払い実績が長期に及んだり、婚姻費用の額について今まで反対していなかったりなどの事情がある場合にも、黙字の合意があると判断されうることになりますので注意してください。
婚姻費用を払いすぎていて困っている!という方は、できるだけ早期の段階で一度弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
婚姻費用の合意がある場合には、婚姻費用算定表よりも優先されうることを説明しましたが、これは婚姻費用算定表の適正額よりも高い場合に限られず、低い場合にも同様のことがいえます。