不倫慰謝料を請求するに当たって、どんな影響があるんでしょうか?
民法改正という言葉自体はお聞きになっている方も、改正された民法が実際にどのような影響を与えるのかについてはご存知でないと思います。
今回は、その中でも、法定利率について、不倫慰謝料へ与える影響をご説明をさせていただきます。
不倫慰謝料請求をする際、慰謝料の金額として一定の金額を請求できるほか、不倫後、支払いまでの期間に応じて、一定の利息を請求できます。その利息は法定利率によるわけですが、今回の民法改正では、その法定利率が変更になりました。
そこで、以下では、
1 簡単な用語の説明
2 改正前後の条文のご紹介
3 具体的にどのような影響があるかのご説明
4 具体的に注意すべきポイント
の順番にご説明いたしますので、お時間のない方は、気になるポイントのみご覧いただければと思います。
1.法定利率とは?
法定利率とは、民法が定めた利息の割合(パーセンテージ)のことです。
利率については、相手との約束次第である程度自由に割合を決めることが可能ですが、特段の取り決めをしない場合には、民法が定めた割合によることになります。
不倫慰謝料請求との関係では、遅延損害金などと表現しますが、不倫慰謝料を支払い切るまでに発生する利息のようなものの割合と考えていただければ大丈夫です。
2.改正前後の条文の違いとは?
不倫慰謝料との関係では、民法404条と民法419条という2つの条文が関係してきますので、順番に記載いたします。
また、民法419条に関しましては、経過措置に関する規定として、附則17条3項にも規定がありますので、そちらも記載いたします。
民法404条
改正前の民法404条では、
利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。
という条文でした。
一方、改正後の民法404条では、
1 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
2 法定利率は、年三パーセントとする。
3 前項の規定にかかわらず、法定利率は、法務省令で定めるところにより、三年を一期とし、一期ごとに、次項の規定により変動するものとする。
4 各期における法定利率は、この項の規定により法定利率に変動があった期のうち直近のもの(以下この項において「直近変動期」という。)における基準割合と当期における基準割合との差に相当する割合(その割合に一パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)を直近変動期における法定利率に加算し、又は減算した割合とする。
5 前項に規定する「基準割合」とは、法務省令で定めるところにより、各期の初日の属する年の六年前の年の一月から前々年の十二月までの各月における短期貸付けの平均利率(当該各月において銀行が新たに行った貸付け(貸付期間が一年未満のものに限る。)に係る利率の平均をいう。)の合計を六十で除して計算した割合(その割合に〇・一パーセント未満の端数があるときは、これを切り捨てる。)として法務大臣が告示するものをいう。」
という条文になりました。要するに、法律で定められている利率が今後変動する可能性があるということです(2項)。そして、2020年4月1日現在は利率が3パーセントですが、今後、3年毎に変わる可能性があります(3項)。もっとも、それぞれの債権は、一度利息が生じれば利率は固定されます(1項)。
民法419条
改正前の民法419条では、
1 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 省略。
3 省略。
という条文でした。なお、2項と3項については、改正後の民法と同一のため省略しています。
一方、改正後の民法419条では、
1 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
という条文になりました。改正前と同じく、不法行為に基づく債権も、法定利率が適用されることになります(1項)。そして、不法行為時の時点から遅滞になりますので、不倫慰謝料請求においては、不倫があった時点の法定利率が適用されることになります(1項)。
さらに、改正後の民法における附則17条3項では、
施行日前に債務者が遅滞の責任を負った場合における遅延損害金を生ずべき債権に係る法定利率については、新法第四百十九条第一項の規定にかかわらず、なお従前の例による。
と規定されています。2020年4月1日より前に不倫があった場合は、改正前の法定利率(5パーセント)によるということです。
3.具体的な影響とは?
結論から言ってしまえば、令和2年4月1日よりも前に不倫をした人については、あまり影響はありません。
不倫慰謝料において、遅滞の責任を負う時期、つまり、不倫慰謝料について遅延損害金(利息)が発生する時期は、不倫をした日からというのが原則になります。
このため、令和2年4月1日よりも前に不倫をしていた場合には、改正前の民法によって法定利率が年五分(年5%)になります。
一方、令和2年4月1日以降に不倫がある場合は、法定利率が今のところ3%です。
不貞が令和2年4月1日を跨っている場合は少し問題です。4月1日より前に既に不法行為の責任が生じている以上、慰謝料債務が発生していますので、改正前の5パーセントの利率になると考えられます。
4.注意すべきポイントとは?
以上からお分かりいただける通り、今回の改正によって注意すべきポイントは、不倫の時期が令和2年4月1日よりも前か後かです。
不倫の時期によって、法定利率が年5%になるか、年3%(2020年4月1日現在)になるかが異なります。
そして、今後、3年毎に法定利率が変わる可能性があります。実際に訴訟等で、慰謝料請求をする際は、不倫があった時点の法定利率がどうなっているか、チェックをする必要があるでしょう。
5.まとめ
・令和2年4月1日より前に不倫があれば5パーセント、令和2年4月1日以降に不倫があれば3パーセント
・ただし、法定利率が今後変わる場合があるので、不倫の慰謝料請求をする際は、その時々の法定利率をチェックすること!

弁護士のひとこと
今回は、民法改正が不倫慰謝料に与える影響と具体的に注意すべきポイントについてご説明いたしました。
法定利率については、改正後の民法の規定がやや入り組んでおり、理解が難しいかと思います。
少しでも、改正後の民法が不倫慰謝料請求に与える影響を知る手助けができれば幸いです。
また、裁判における取り扱いや、実際に交渉をして合意をする際の注意事項など、今回の記事では説明しきれていない部分もございます。
当事務所にご相談に来ていただければ、今回の記事で説明しきれていない部分を含めてご説明いたしますので、お気軽にご相談にいらしていただければと思います。