子供を連れ去った妻が頑なに面会交流を拒んでいだとしても、適切な対応を積み重ねていけば、ほとんどの場合で最終的に子供との面会交流を実現できます。
その大きな理由は、裁判所が面会交流は原則として実施するべきであるとの考えで運用しているためです。
裁判所は、面会交流を拒否を原則として許さず、相手がどんなに拒んでいても、最終的には裁判所が審判で面会交流を実施する方向で判断してくれるのです。
ただし、裁判所が例外的に面会交流の実施を否定してくる場合があります。
今回は、裁判所が面会交流の実施を否定する場合について、説明します。
1 面会交流制度の概要
まずは面会交流制度を簡単に説明します。
①子供と会う条件を妻と話し合って決める
妻と話し合って子供と会える日時や場所などの面会交流の条件を決めることができれば、それに越したことはないでしょう。
②子供と会う条件を面会交流調停を利用して決める
妻と話し合って決めることが難しければ、面会交流調停という制度を利用して、裁判所において、調停委員・家庭裁判所調査官・裁判官を交えて、面会交流の実施に応じるよう妻を説得します。
しかし、面会交流調停はあくまで妻と話し合って合意を形成するための制度ですので、妻が面会交流の実施に頑なに応じない場合もあります。
③子供と会う条件を裁判官が審判で決める
面会交流調停を実施しても妻が面会交流の実施に応じなければ、面会交流審判という制度を利用して、裁判官に面会交流の日時、場所、方法などの面会交流の条件を決めてもらうことができます。
このようにして、妻が頑なに面会交流の実施に応じない場合には、最終的には裁判官が面会交流の条件を判断することとなります。
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2 裁判所が面会交流の実施を否定する場合
(1)どうして裁判所が面会交流の実施を否定するの?
そもそも裁判所が面会交流の実施を後押ししてくれる(面会交流を実施するべきであるとの判断をしてくれる)理由は、それが子の福祉に資する(子供の健全な成長のために望ましい)からです。
そのため、逆に、面会交流を実施することが子供のためにならない(子の福祉に反する)と考えられる場合には、裁判所はむしろ面会交流の実施を否定します。
(2)裁判所が面会交流の実施を否定する理由
裁判所は、当事者の主張・反論や家庭裁判所調査官による調査報告書などにあらわれた様々な事情を総合的に考慮して、面会交流を実施することが子供のためにならない(子の福祉に反する)との結論に至った場合には、面会交流の実施を否定する判断をします。
以下の①〜④は、裁判所が面会交流の実施を否定する理由となり得る代表的例です。
以下で、順に検討します。
ア ①別居親が面会交流中に子に虐待を働くおそれ
裁判所が、同居中の別居親の素行や面会交流の審理に表れた一切の状況等を考慮して、別居親が面会交流の実施中に子への暴力・暴言などの虐待行動に出るおそれがあると判断した場合には、面会交流の実施を否定する場合があります。
イ ②別居親が面会交流の機会に乗じて子を連れ去るおそれ
面会交流の機会に乗じて子を連れ去ることは犯罪行為にもなり得るものです。
裁判所が、別居親が面会交流の実施に乗じて子を連れ去るおそれがあると判断した場合には、面会交流の実施を否定する場合があります。
ただし、単に同居親がそのような懸念を有しているというだけで面会交流が制限されることはありません。
裁判所が具体的な裏付けのない単なる危惧感のみで面会交流を制限することは通常ありません。
ウ ③子による面会交流の拒否
同居親から、面会交流を拒否する理由として、「子が拒否している」と主張されることは多いです。
しかし、仮に子が同居親に対して「会いたくない」などという発言を本当にしていたとしても、それだけで面会交流が禁止・制限されることは通常ありません。
夫婦が争っている渦中においては、子は、本心では別居親と会いたいと思っていたとしても、同居親が拒否をしたがっているということを感じ取って、同居親の意向に沿った発言をしたり、別居親に対して強い拒絶を示したりすることがあることはよく知られています。
そのため、裁判所は、子の年齢、子の発達の程度、同居中の別居親との関わり合いの状況、別居の理由、子が別居親との面会交流を拒否している理由についてどのような発言をしているかなどの事情を総合的に検討し、面会交流の実施が子の福祉に反するものかどうかを慎重に見極めようとします。
エ ④別居親による同居親に対するDV・同居親の面会交流に対する非協力の合理性
別居親の同居親に対するDVや、同居親が面会交流の実施に協力しないことに合理的な理由があること(例えば、同居中に別居親からDV・モラハラの被害を受けていた。)などの事情も、面会交流の拒否・制限の判断に影響を及ぼします。
特に、DVが子の面前で行われていたものであった場合には、子も精神的なダメージを被っている可能性がありますので、裁判所は面会交流を制限する方向に考える場合があります。
ただし、DVの事実が本当にあったとしてもそれだけで面会交流が否定されるものではなく、それに基づく同居親の拒否の強さ、子の精神的な状況、面会交流中に想定される懸念事項など様々な事項を考慮して、面会交流の可否が判断されることとなります。
また、DVの事実が本当にあったとしても、同居親に対するDVと子に対するDVを同視するべきではありません。
※参考裁判例
・東京高決平成25年7月3日
「相手方が同居中に抗告人に対し暴力をふるった事実を認めていることなどによれば、抗告人が相手方に対し恐怖心や不安を抱くことはやむを得ないところではある。しかし、相手方が同居中に未成年者に対し暴力等を振るった事実は認められず、抗告人の相手方に対する恐怖心や不安をもって、直ちに未成年者と相手方との面会交流を制限すべき特段の事由があるということはできない。」
なお、同居親が面会交流に協力しない(例えば、別居親と顔を合わせたくない)ことに合理的な理由があったとしても(例えば、別居親のDVにより精神を病んで通院中であるなど)、面会交流の実施自体を否定するのではなく、別居親と同居親が顔を合わせることなく面会交流を実施する方法(第三者機関を利用するなど)を工夫することで解決する場合もあります。
弁護士の本音
離婚調停・婚姻費用分担請求調停・面会交流調停など複数の調停事件が同時に実施されている場合には、往々にして様々な思惑や争点が絡み合って、話し合いは複雑に進行することとなります。
相手に対して離婚と面会交流を求めていても、相手から「高額の婚姻費用を支払え!」「面会交流はさせない!」「離婚には応じない!」などと主張されることもあります。
つまり、相手は、権利を主張しつつ、面会交流はさせないと主張しているのです。
調停員からも「婚姻費用は義務だから支払わなければならないし、婚姻費用は生活費の問題なので離婚の話よりも先に婚姻費用の話を進めることとします!」などと言われますが、面会交流については「相手は子と会わせるけれど今はちょっと待って欲しいって言っているので、お父さんも焦らずにもう少し待ってあげたらいかがですか。」などと言われたりします。
しかも、調停の話し合いは1〜2か月に2時間〜3時間程度で終了し、次回期日は1〜2か月先となります。
婚姻費用は結局支払わなければならなくなり、離婚の話はほとんど進まず、面会交流はいつまで経っても実現できる気がしない。
そのような状況に陥ってしまって、強い憤りを感じてご相談に来られるお客様も多いです。
そのような際には、経験豊富な弁護士との法律相談をご利用ください。
現状を打開するために必要なこと、やるべきことを親身になって検討してくれると思います。