
令和8年(2026年)4月1日、日本の家族法は歴史的な転換を迎えました。改正民法の施行により、離婚後も父母双方が子の親権を持つことができる「共同親権」の選択が可能になったのです。
今回の制度により、私たちの日常生活や、学校・医療現場にはどのような影響が及ぶのか。法務省の最新Q&Aをもとに、実務家や当事者が押さえておくべき核心部分を整理して解説します。
1 制度の核となる「子の利益」
今回の改正の根底にあるのは、親の権利主張ではなく「子の利益」の最大化です。父母が離婚しても、子どもにとっては双方がかけがえのない親であり、協力して養育に関与し続けることが望ましいという理念が、新民法817条の12に強く反映されました。
この理念を支えるため、父母には新たに以下の義務が課されています。
子の人格尊重義務
単に親の思い通りにするのではなく、子の年齢や発達段階に応じ、その意見を尊重し、意思を汲み取らなければなりません。
相互の人格尊重・協力義務
お互いの人格を尊重し、子の養育のために協力し合う義務です。相手への誹謗中傷や不当な干渉、正当な理由のない養育費の未払いなどは、この義務に違反すると評価される可能性があります。
2 裁判所はどのように「共同か単独か」を判断するのか
父母の協議で親権が決まらない場合、最終的には家庭裁判所が判断を下します。ここで重要なのは、「共同親権が原則」という一律のルールがあるわけではないという点です。
裁判所は、個々のケースにおいて「どちらが子の利益に適うか」を実質的に審査します。特に、以下のケースでは必ず「単独親権」と定めなければならないとされており、紛争や安全への配慮がなされています。
・子の心身に害悪を及ぼすおそれがあるとき(虐待が疑われる場合など)
・DVのおそれがあるとき(身体的暴力だけでなく、精神的・経済的DVも含む)
・父母が共同して親権を行うことが困難なとき(高葛藤により、およそ協議が成立しない場合など)
当初は感情的な対立が激しくても、調停を通じて協力体制が築ける見通しがあれば共同親権の道も開かれますが、強制的に協力を強いることで子が不利益を被るような事態は避けられる仕組みになっています。
3 日常生活における「単独で行える行為」の具体例
共同親権下でも、あらゆる判断に双方のサインが必要になるわけではありません。改正法では「監護及び教育に関する日常の行為(新民法824条の2)」については、一方が単独で決定できると定めています。
実務上の混乱を防ぐため、以下の切り分けが重要になります。
<一方が単独で決定できる「日常の行為」>
・日々の生活
食事の内容、服装、髪型、門限、習い事の選択など。
・学校関連
健康診断の受診、給食費の手続、修学旅行などの行事参加への同意。
・医療・健康
風邪やアレルギー等の通常の治療、定期的なワクチン接種。
・その他
高校生のアルバイトの許可など。
<父母の共同決定が必要な「重要事項」>
・進路の選択
高校・大学への入学、退学、留学の決定。
・居所の指定
子の引越し(たとえ近距離であっても、通常は共同決定が必要)。
・重大な医療
生命に関わる手術や、将来にわたる治療方針の決定。
ただし、重要事項であっても、「子の利益のため急迫の事情があるとき」(DVからの緊急避難、緊急手術、入学手続の期限直前など)には、例外的に一方が単独で親権を行使できるようになっています。
4 学校や医療現場における現実的な対応
社会生活の現場では、親権行使の受け手となる施設側が「誰の意思を確認すべきか」が課題となりますが、法務省は、従来の円滑な実務を維持するスタンスを取っています。
学校や病院は、基本的には従来通り父母の申告に基づいて対応します。もし父母から矛盾する意思表示(一方が行事参加に賛成し、他方が反対するなど)がなされた場合、学校側はまず協議を促しますが、最終的には「日常の行為」の枠組みに基づき、子と同居している親の決定を優先して取り扱うことが想定されています。
また、離れて暮らす親からの運動会や卒業式への参加希望については、学校が保護者に広く参加を呼びかけている行事である限り、基本的には認めることになると考えられます。
5 過去の離婚者への適用と「今後の展望」
この改正法は、施行前に離婚した父母にも適用されます。すでに単独親権となっている場合でも、現在の養育状況や「子の利益」を鑑みて、家庭裁判所に親権者の変更を申し立てることで、共同親権へ移行することが可能です。
しかし、この申立てが「過去の恨みを晴らすための嫌がらせ」や「養育費を逃れるための手段」として行われることは許されません。裁判所は、これまでの養育責任の果たし方や、父母間の協力の可能性を厳格に審査します。
共同親権制度の導入は、単なる法制度の変更ではなく、離婚後の家族が「対立」から「協力」へと関係を再構築するための大きな挑戦です。この制度が正しく機能するかどうかは、法解釈の緻密さ以上に、父母それぞれの「子どものために何ができるか」という真摯な姿勢にかかっていると言えるでしょう。
弁護士のホンネ

法律事務所
ここでは少し法律の条文を離れて、実務に携わる弁護士としての「ぶっちゃけ話」をさせていただきます。
今回の法改正について、現場の弁護士がどう見ているか。正直なところ、「期待半分、戦々恐々半分」というのが本音です。
まず、共同親権制度は「子どものために相手と縁を切りたくない親」にとっては福音です。しかし、裏を返せば、離婚後も「相手に影響力を与え続けるための手段」として悪用されるリスクと隣り合わせでもあります。例えば、嫌がらせのためにわざと進学の同意を遅らせる、といった「微細な嫌がらせ」が共同親権という枠組みの中で巧妙に行われるのではないか…という懸念を、完全には否定するのが難しいでしょう。
また、裁判所としても、運用を模索中です。Q&Aには「高葛藤でも共同親権の可能性がある」と書かれていますが、実際の現場では「これ以上争いを増やしたくない」という心理が働き、結局は無難な単独親権に落ち着くケースも多いのではないかと推測されます。
結論として、共同親権は「信頼関係がある父母には不要なほどスムーズに機能し、信頼関係がない父母には地獄の入り口になりかねない」という、極めて人を選ぶ制度なのかもしれません。この制度を「絆」にするか「足かせ」にするかは、結局のところ、離婚した二人の人間性次第。弁護士としても、今後はこれまで以上に、法律論だけでは解決できない感情や人格の問題と向き合う場面が増えるかもしれません。
とはいえ、この制度は、これまで離婚により子供との絆から排斥されてきた方々が、一生懸命に何十年もかけて声を上げ続けたことで始まったものです。その経緯と苦しんできた方々に敬意を表し、子供の福祉のためという原則を胸に、一生懸命に取り組んでいきたいと思います。
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