
離婚訴訟の最終局面で、当事者本人が裁判官の前に立ち、自らの言葉で真実を語る機会、それが本人尋問です。多くの方が不安を感じるこの手続きですが、実は事前の準備と心構え次第で、結果を大きく左右する重要な局面となります。
この記事では、離婚訴訟における本人尋問を乗り切るための準備方法と、当日の心構えについて、弁護士の視点から詳しく解説します。
本人尋問は陳述書の「最終チェック」
離婚訴訟は、原則として書面による審理が中心です。書面審理とは、当事者が提出する「準備書面」や「証拠」を裁判官が読み込んで判断を下す手続きです。特に重要なのが、当事者自身の体験や主張をまとめた陳述書です。
陳述書は、訴訟の中心的な証拠となり、ここにはあなたの主張や、離婚に至った経緯、相手の不貞行為や暴力などの事実が詳細に記載されます。そして、この陳述書の内容が真実かどうか、その証拠力(信用性)を裁判官が最終的に見極めるための手続きが本人尋問なのです。
つまり、本人尋問の勝敗は、尋問当日の受け答えだけでなく、陳述書の作成段階からすでに始まっています。陳述書に曖昧な点や矛盾があると、尋問で追及され、あなたの主張全体の信用性を失いかねません。弁護士と綿密に打ち合わせを重ね、事実に基づいた具体的で説得力のある陳述書を作成することが、尋問成功への第一歩と言えるでしょう。
訴訟の終盤、本人尋問はなぜ行われる?
離婚訴訟は、一般的に以下の流れで進行します。
- 訴訟提起:訴状を裁判所に提出し、訴訟が始まります。
- 口頭弁論・弁論準備手続:お互いの主張をまとめた書面を提出し、裁判官を交えて話し合いを行います。この段階で、陳述書も提出されます。
- 証拠調べ:提出された書面や証拠(写真、音声データなど)を裁判官が精査します。
- 本人尋問:和解での解決に至らない場合、当事者本人の尋問が行われます。
このように、本人尋問は訴訟の終盤、裁判官が判決を下す直前に行われる、きわめて重要な手続きです。この尋問を通して、裁判官はあなたの人間性や、あなたが語る事実の信憑性を直接見極めます。
本人尋問の形式と時間
本人尋問は、公開された法廷で行われます。尋問の流れは以下の通りです。
- 宣誓:尋問の前に、「良心に従い真実を述べることを誓います」という宣誓を行います。その後に虚偽の証言をした場合、過料に処されることがあります。
- 主尋問(依頼した弁護士による尋問):あなたの代理人である弁護士が、陳述書の内容を補足・説明するための質問をします。時間は約20分が目安です。
- 反対尋問(相手の弁護士による尋問):相手方の代理人である弁護士が、あなたの陳述書や主尋問での証言の矛盾点や不確かな点を追及します。こちらも約20分が目安です。
- 補充質問(裁判官による質問):裁判官が、主尋問や反対尋問で不明確だった点や、裁判官自身が判断を下すために必要な点を補足的に質問します。
合計で40分から1時間程度を要することが一般的です。尋問は、あなたと相手方が同時に尋問を受けるわけではなく、1人ずつ別々に呼ばれて行われます。
尋問を受ける際の心構え
尋問は、裁判官に対して「あなたの主張は信頼できる」と納得してもらうための重要な場です。質問される相手によって、心構えを切り替えることが大切です。
1.主尋問(自分の弁護士からの質問)
主尋問は、陳述書に記載された事実を、あなたの口から裁判官に再確認してもらうための時間です。あなたの主張が、陳述書だけでなく、あなたの言葉でも一貫していることを示す目的があります。
- 陳述書の内容をしっかりと把握しておく 主尋問の質問は、事前に弁護士と打ち合わせした内容がほとんどです。陳述書を何度も読み返し、記載内容を正確に記憶しておきましょう。
- 「はい」「いいえ」だけでなく、具体的に答える 例えば、「相手は暴力を振るいましたか?」と聞かれたら、「はい」と答えるだけでなく、「はい、平手打ちや蹴りを何回も受けました」というように、具体的な状況や回数を付け加えることで、より説得力が増します。
- 落ち着いて、ゆっくりと話す 緊張から早口になりがちですが、裁判官はあなたの言葉を正確に聞き取ろうとしています。ゆっくり、はっきりと話すことを心がけましょう。
- 質問の意図を理解する なぜ弁護士がこの質問をするのか、その意図を考えながら答えることで、より的確な回答ができます。
2.反対尋問(相手の弁護士からの質問)
反対尋問は、あなたの証言の信用性を崩すことを目的としています。相手の弁護士は、陳述書の矛盾点、記憶の曖昧な部分、主張の不自然な点を突いてきます。
- 質問に直接、簡潔に答える 相手の弁護士は、あなたを動揺させ、無駄な話をさせて矛盾を引き出そうとする場合があります。「はい」「いいえ」で答えられる質問には、まずそのように簡潔に答えます。余計なことを話そうとすると、新たな矛盾を生む原因となります。
- わからないことは「わからない」と正直に答える 曖昧な記憶を無理に話そうとすると、後で嘘だと追及される可能性があります。「記憶が曖昧で、正確にはわかりません」と正直に答える勇気を持ちましょう。
- 誘導尋問に注意する 「あなたは当時、相手の言葉に腹を立てていたのですよね?」のように、相手がすでに結論を決めつけたような尋問をすることがあります。これは誘導尋問であり、鵜呑みにすると相手の思惑通りになってしまいます。「腹を立てていたわけではありません。ただ、不安な気持ちになりました」など、自分の言葉で訂正しましょう。相手の質問が、何かを当然の前提にしていないか、注意することが必要です。
- 感情的にならない 相手の弁護士は、あなたを挑発して感情的な反応を引き出し、信用性を失わせようとする場合もあります。何を言われても冷静に、淡々と答えることが非常に重要です。
本人尋問のルール
尋問を受けるにあたり、知っておくべき基本的なルールがあります。
- 裁判官の指示に従う 尋問は、裁判官の許可なく勝手に話すことはできません。「証言台に立ってください」「お座りください」といった裁判官の指示に必ず従いましょう。
- 証言台に立って答える 原則として、尋問は法廷の中央にある証言台に立って行われます。
- メモを見ながら話すことはできない 自分で準備したメモなどを見ながら話すことはできませんので注意しましょう。
- 宣誓後、嘘の証言はしない 宣誓をして「偽証」をすると、過料の対象となります。たとえ不利な事実であっても、真実を述べる必要があります。ただ、謙遜してへり下る必要はありません。いつもの癖で、「謙遜して自分を悪く述べる」人がいますが、人格的には素晴らしくても、裁判ではマイナスとなります。
まとめ
離婚訴訟における本人尋問は、あなたの主張を裏付けるための、最終かつ最も重要な手続きです。裁判官は、この尋問を通して、あなたが提出した陳述書の内容が信用できるかどうかを判断します。
そのため、尋問を成功させるには、まず「陳述書」という土台を、弁護士と協力して確固たるものにすることが不可欠です。そして、尋問当日は、陳述書の内容を正確に、かつ、あなたの言葉でしっかりと伝えることが求められます。事前に弁護士と十分な打ち合わせを重ね、当日に臨む心の準備をしておきましょう。
弁護士のホンネ

法律事務所
私たち弁護士は、依頼者の方に本人尋問の準備をしてもらう際、「自分は嘘をついていない」という自信を持ってもらうことを最も重要視しています。
なぜなら、尋問は裁判官とのコミュニケーションだからです。
どんなに素晴らしい陳述書を作成しても、本人が尋問の場で目を泳がせたり、言葉に詰まったりすると、「本当にあったことなのだろうか」と疑念を抱かせてしまいます。
逆に、たとえ陳述書に記載されていないような些細なことであっても、本人が自信を持って、自分の言葉で「本当にあったこと」として語る姿は、裁判官に非常に強い説得力を与えます。
本人尋問の準備は、陳述書の内容をあなたの言葉で語れるようになること、そしてどんな質問にも冷静に対応できる「心の準備」をすることです。
あなたと弁護士は二人三脚です。準備の段階で不安な点があれば、些細なことでも遠慮なく弁護士に相談してください。万全の準備で尋問に臨み、あなたの主張を裁判官にしっかりと伝えましょう。
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