精神の病を抱えた配偶者と離婚する方法

婚姻生活は綺麗事のみで成り立つものではありません。

婚姻生活を円満に維持・継続することは、時には多大な努力と諦めが必要です。

殊に、婚姻後に配偶者が精神の病に罹患してしまった場合は、夫婦関係を円満にするために必要な努力と諦めの程度が格段に跳ね上がることになり得ます。

もちろん、精神の病に罹患してしまうこと自体が悪いということではありません。

最も苦しい思いをされているのは精神病に罹患してしまった配偶者ご本人であることもまた、間違いないことでしょう。

そのような配偶者を抱える他方の配偶者には、治療費を負担したり、日常生活に配慮・介護したりすることが期待されますし、法律上の義務でもあります(民法752条)。

しかし、そのような配偶者の精神病に対応するために課せられるべき義務・責任にも限度があります。

今回は、配偶者が精神病に罹患した場合に、離婚との選択肢を取り得るのかどうかにつき、解説します。

配偶者の精神病は離婚原因となり得る!

法律上の離婚原因として挙げられるものは以下の通りです(民法770条1項1号〜5号)。

① 配偶者に不貞な行為があったとき。

② 配偶者から悪意で遺棄されたとき。

③ 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。

④ 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。

⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。

このように、民法770条1項4号は、「④ 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」を離婚原因として列挙しています。

つまり、法は、配偶者が回復の見込みのない重い精神病に罹患した場合には、配偶者との婚姻関係上の義務から逃れて離婚することを認めています。

簡単に離婚ができるわけではない!

「精神病」の具体的な病名

統合失調症(旧病名:精神分裂症)

実際に判例・裁判例で離婚が認められた多くの例は、統合失調症(旧病名:精神分裂症)です。

例えば、以下の裁判例は、配偶者の統合失調症を理由として、民法770条1項4号に基づき、離婚を認めています

・京都地裁園部支部昭和25年10月26日判決

※癲癇(てんかん)を起因とする精神病とされ、裁判例の中に具体的な病名は出てきませんが、おそらく統合失調症であろうと考えられます。

・前橋地裁高崎支部昭和26年 3月23日判決

・津地裁昭和27年10月23日判決

・大阪地裁昭和30年 8月31日

・大阪地裁昭和33年12月18日判決

・横浜地裁昭和38年 4月12日判決

・東京地裁昭和39年 5月30日判決

・長崎地裁昭和42年 9月 5日判決

認知症

認知症も民法770条1項4号にいう「精神病」に該当すると判断した裁判例があります(大阪高裁平成17年10月27日判決)。

なお、認知症は厳密な意味では精神病ではない(精神医学的に精神病の範疇に規定されていない)と考え得るところです。

しかしながら、裁判例は、精神医学的に精神病の範疇に規定されていない場合であっても離婚原因とすることができる(=民法770条1項4号にいう「精神病」に該当する)と判断しています。

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うつ病

裁判所がうつ病を民法770条1項4号にいう「精神病」に該当する判断することは、余程例外的な病状でない限り、まずないでしょう

その理由としては、そもそもうつ病は「回復の見込みがない」とする鑑定結果が出されない(極めて出され難い)ことが考えられます。

その他の性格異常・ヒステリー等の症状

裁判所が性格異常やヒステリーを民法770条1項4号にいう「精神病」に該当すると判断することもないでしょう

ただ、この場合は、民法770条1項4号ではなく、「性格の不一致」などを理由として民法770条1項5号で離婚が認められる可能性があります。

※「性格の不一致」を理由として離婚を勝ち取る方法について詳しくは、「離婚したい男性へ。「性格の不一致」で離婚するために大切なこと」

民法770条2項というハードルがある!

「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。」(民法770条1項4号)に該当するとしても、それだけで離婚判決が出されるわけではありません

その理由は、民法770条2項にあります。

民法770条2項

「裁判所は、前項第1号から第5号までに掲げる事由がある場合であっても、一切の事情を考慮して婚姻の継続を相当と認めるときは、離婚の請求を棄却することができる。」

このように、法は、民法770条1項4号に該当する場合であっても、実際に離婚判決をするかどうかを判断する権限を裁判所に与えています。

そして、この民法770条2項について、最高裁判所第二小法廷昭和33年7月25日判決は、「(例え配偶者が強度かつ不治の精神病に罹患したとしても)諸般の事情を考慮し、病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途にその方途の見込のついた上でなければ、ただちに婚姻関係を廃絶することは不相当と認めて、離婚の請求は許さない法意であると解すべきである。」との判断を示しています。

つまり、裁判所に配偶者の精神病を理由に離婚を認めてもらうためには、「病者の今後の療養、生活等についてできるかぎりの具体的方途を講じ、ある程度において、前途にその方途の見込のついた」と言える状況に至っていることが必要です。

具体的には、入院・支援者の手配や、経済的な支援(扶養的な財産分与)などの点についても、十分に審理した上でなければ、離婚判決はできないということだと考えられます。

弁護士のホンネ 

 本文で記載したように、配偶者の精神病を理由として離婚することは極めてハードルが高く、それを認めた裁判例も少ないです。

しかし、あなたが配偶者との婚姻関係に悩み、それが配偶者の精神病を疑うような状況にまで至っている場合には、遅かれ早かれあなたの方が精神的に疲弊し、限界が訪れてしまうことになりかねません。

そのような状況にあるにもかかわらず、配偶者が「精神病」ではないとすれば、それはそのような配偶者との間に性格の不一致などの問題があるということでしょう。

あなた自身が精神的に限界となってしまう前に、あなた自身のより幸せな人生を勝ち取るために、配偶者との決別・離婚という選択肢を検討しても良いはずです。

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