離婚をする際に最も問題になるものは何でしょうか。
それは子供の問題と、お金の問題です。
離婚弁護士として数百件の離婚に関わってきて確信したこと。
それは、離婚すること自体でモメるということはあまりなく、ほとんどは、子供の親権をどちらが持つか、又は夫が財産分与・解決金としていくらを妻に支払うかで争いになるということです。
解決金とは、慰謝料や財産分与額など一方に支払うお金をまとめて表現したものを言います。
ほとんどの夫は「慰謝料」という響きに抵抗感を持つため、この「解決金」名目で一定の金額を支払うということがよくあります。
そこで、このページでは、離婚のときに問題となるお金・財産分与について詳しくご説明します。
ここに記載されていることさえ把握できれば、離婚で問題となるお金・財産分与の知識としてはまず十分といえるでしょう。
なお、子供の親権や面会交流、養育費についての詳しい説明は、【保存版】これで完璧!子供と離婚に関する基礎知識をご覧ください。
1 財産分与とは何か?
⑴ 財産分与とは
財産分与とは、夫婦が結婚生活の間に築き上げた財産を、離婚のときに分与することをいいます。
夫婦が共に協力して築き上げた財産は、離婚するときには精算するのが公平という考え方からです。
財産分与の対象となる財産は、夫名義であるか、妻名義であるか、はたまた共有名義であるかは問われません。
いずれの名義であっても、また子供の名義であっても、財産分与の対象となります。
例えば、夫名義の銀行口座に結婚期間中に蓄えられて増額した残高は、離婚時に精算しなければならないということです。
具体的には、民法768条が離婚の際の財産分与について規定しています。
第768条
1 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
2 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚のときから2年を経過したときは、この限りでない。
3 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。
ここでは、離婚時に財産分与という夫婦財産の精算が法律上保障されている、ということをご理解いただければ十分です。
ただし、注意が必要なのは、財産分与をするには「請求」が必要ということです。
財産分与の請求をしない限り、離婚時のそれぞれの名義財産は、その名義人が離婚後も承継します。
また、請求をしても当然に分与がなされるわけではなく、まずは話し合いが必要です。
話し合いによって、どちらがどの財産を承継するかを決めるのです。
協議が整わなければ、家庭裁判所に分与を求めることができますが、それができるのは離婚後2年以内とされており、それを過ぎれば裁判所は受付をしてくれませんので、注意しましょう。
⑵ いつの時点の財産を分与する?
財産分与においては、原則として、別居時又は離婚時のいずれか早い時点での財産を分与することになります。
別居を経て離婚に至ることも多いと思いますが、その場合は別居時の財産を分与することになります。
別居後に得た財産は原則として財産分与の対象にはなりません。
財産分与というのは、夫婦が「共同して」築き上げた財産だからですね。
もっとも、例えば年金収入の方の場合は、同居時に納めた年金保険料をもとに、別居後も収入を得ています。
したがって、別居後に年金収入で築きあげられた財産は、財産分与の対象となります。
これについて詳しくは、「離婚ではいつの時点の財産を分与すればいいの?」をご覧ください。
ところで、別居時の財産分与が基準ということになると、例えば妻が夫の口座を管理している場合に、別居の直前に、妻が多額の残高を費消させてしまった場合、どのように考慮されるのでしょうか。
残高を費消されてしまったにもかかわらず、残った残高をさらに分与しなければならないのでしょうか。
これについては、例えば妻がそのお金の使い道を合理的に説明できない場合は、妻がその多額のお金をどこかで保有しているとみなされることがあります。
その場合、妻は既にお金を受領しているため、財産分与の請求ができなくなります。
むしろ、その金額が多額にすぎる場合は、夫から財産分与の請求がなされてしまう場合もあり得るでしょう。
一方、同居時に妻が勝手に夫婦の共有財産を処分したことをもって、夫が慰謝料請求や損害賠償請求をすることは難しいです。
夫の名義財産であっても、妻との共有財産でもあります。
ですので、妻もその権利によって費消したとみなされます。
結局、妻のこうした行為は不法行為にはならないとするのが裁判所の運用となっています(平成17年11月11日東京地方裁判所判決など)。
⑶ 財産分与の流れ
さて、ここで財産分与の流れについて概説します。
これに沿って、それぞれの段階で漏れがないかを確認しながら慎重に対応することが必要です。
そうでないと、少しのミスが、多額の損失にならないとも限りません。
ア 財産を全て一覧にする
まずは、エクセルなどの表作成ソフトで財産の一覧表を作りましょう。
夫、妻、子供名義ごとに表にするのが良いと思います。
ここで大切なのは、ちゃんと漏れ無く挙げられているかという点です。
特に忘れられがちなのは夫の退職金でしょう。
詳しくは、「財産分与のときあれを忘れていませんか?忘れがちなものとして挙げられるのが・・・」をご覧ください。
さらに、それぞれの財産を、別居時又は離婚時を基準時として、金額を埋める必要があります。
不動産や株式など、価値が変動するものについては、時価評価する必要があります。
イ 借金(ローン)を全て一覧にする
さて、財産分与といっても、当然、借金も考慮されます。
プラス財産と同じく、マイナス財産も基本的には共同して負担しなくてはなりません。
もっとも、財産として借金しかない場合は、財産分与はされません。
よくあるのは、不動産・自宅の住宅ローンですね。
もちろん借金に当たりますから、これも計上しましょう。
財産分与において借金・住宅ローンがどのように扱われるかについては、「借金があれば財産分与は不要に!?住宅ローンやカードローンがある方必見!」に詳しく説明しておりますのでご覧ください。
ウ それぞれの寄与割合と金額を決める
財産の一覧表が完成したら、今度は財産の形成に、夫婦がどの程度寄与したかを考えていきましょう。
これが、財産分与をする際の、分与割合に直結します。
現在の裁判所の運用だと、夫と妻の寄与・分与割合は原則として5対5です。
つまり、半々です。
ただし、例外もありますし、話し合いで決める場合は合意さえできば自由に決められますので、まずはお互いに話し合いをしましょう。
エ どちらが借金(ローン)を引き継ぐかを決める
さて、寄与割合が決まったなら、どちらが借金を承継するかを決めましょう。
それによって、プラス財産をどの程度承継できるかが変わります。
なお、通常は借金の名義人がそのまま借金を承継することがほとんどです。
銀行などの債権者は、借金名義の変更を認めてくれるとは限らないからです。
例えば、プラス財産として住宅(時価2000万円)と預貯金(500万円)、マイナス財産として1000万円のローンがあるとします。
寄与割合が半々であれば、本来的には、夫と妻はそれぞれ、プラス財産として1250万円の資産を、マイナス財産として500万円の借金(ローン)を承継します。
一方、仮に夫が住宅ローンも引き継ぐ場合は、本来、妻が負担すべき500万円分も負担することになるため、その金額は夫への分与額に加算されます。
したがって、夫は、借金(ローン)を全額承継する代わりに、プラス財産として1750万円を、妻は借金(ローン)を承継しない代わりに、プラス財産として750万円を承継することになるでしょう。
オ どの財産を承継するかを決める
あとは、どのプラス財産をどちらが引き継ぐかです。
夫が住宅ローンも引き継ぐ場合は、通常、不動産そのものも引き継ぐことが多いです。
その際は、夫は2000万円のプラス財産を承継することになってしまいます。
上の例では、夫が承継できるプラス財産は1750万円のはずですから、250万円が過剰となりますね。
そこで、妻は750万円に加えて、250万円を夫から貰い受けることになるでしょう。
具体的には、500万円の預貯金は全て妻が承継するよう手続きをとり、同時に別途500万円を夫から貰い受けることになります。
カ 合意書を作成する
以上のような取り決めは、きちんと書面にしておくのが望ましいです。
そうでなければ、離婚寸前になって話が蒸し返しになったり、離婚後に言った言わないの話になり、問題が再燃しかねないからです。
合意書は2部作成の上、1分ずつ保管されると良いでしょう。
なお、合意書を公証役場で公正証書にしておくということもよく行われます。
財産分与の額を分割して払ってもらう場合や、養育費の支払いを受ける場合など、今後継続的に支払われることを想定している場合は、公正証書にしておいた方が得でしょう。
詳しくは、知らなきゃ損?!離婚するときって公正証書を作らなきゃいけないの?」をご覧ください。
2 財産分与の2分の1ルールという原則とその例外
⑴ 財産分与の2分の1ルール
さて、これまで財産分与の流れについてご説明しましたが、よく争いになることとして、夫婦間の寄与割合・分与割合が挙げられます。
つまり、結婚期間中に蓄えた財産を、それぞれどの程度の割合で承継するかがよく問題となるのです。
裁判所の通常の運用としては、夫婦は2分の1ずつの寄与割合があるとされます(財産分与の2分の1ルール)。
そして、離婚調停においても、それを前提として調停委員は話を進めたがります。
⑵ 例外
もっとも、例えば結婚前に猛勉強をしたことで、多額の給与をもらえる地位にある場合(医者など)は異なります。
結婚前の努力については配偶者の寄与がないためです。
その場合は2分の1ルールの適用が不公平になります。
また、プロスポーツ選手のように、従事できる期間が限られており、その間の報酬が引退後の生活保障の意味合いを持っている場合も、離婚時に半分持っていかれることは不公平です。
そこで裁判所も、このような場合においては、2分の1ルールを変更すべき旨を述べています(平成26年3月13日大阪高裁判決)。
したがって、安易に2分の1ルールに飛びつくのではなく、裁判例などとも照らしあわせて、財産形成に対する寄与度がどの程度なのか、慎重に検討するのが望ましいでしょう。
詳しくは、「財産分与の2分の1ルール。どんな場合なら変更できる?」をご覧ください。