離婚を考えるときに最も大事な子供のこと。
親権と監護権の違いとは?面会交流とは?養育費の金額は?家庭裁判所の調査官ってどんな人?調停、審判とは?離婚を専門とする弁護士が詳しく説明します。
ここに書かれていることを抑えておけば、ひとまず十分といえるでしょう。これから離婚の協議や調停を控えている方は、ぜひお読み下さい。
(2019年8月16日内容更新済み)
1.はじめに
離婚の話し合いの過程で、必ず問題になるのが親権・養育費・面会交流など子供に関することです。
協議離婚や調停離婚では、親権・養育費・面会交流など子供に関することは、夫婦双方で話し合いで決めなければなりません。
そして、どうしても話し合いでまとまらない場合、裁判所が、様々な事情を考慮して裁判や審判で決定するという流れをとります。
そして、離婚の際に、子供のことで決めなければならないのは、
- 親権
- 養育費
- 面会交流
の3つです。
本ページでは、子供に関する法律問題について弁護士が解説いたします。
2.親権について〜子供と一緒に生活する権利〜
⑴ そもそも、親権とは?
まず、そもそも「親権」の定義とは一体何でしょうか?
一般的には、離婚後も、子供と同居して、一緒に生活できるということを思い浮かべるかもしれません。
法律的には、親権とは、いくつかの権利が合わさったものと理解されています。
すなわち、
身上監護権
子供を監護(同居して世話をすること)し、教育する権利であり義務です(民法820条)。
具体的には、居所指定権(民法821条。子供が住む場所を決める権利です。)、懲戒権(民法822条。子供の非行などを矯正するために、しつけをする権利です。)、職業許可権(民法823条。子供が職業につく際に、その許可をする権利です。)などから構成されています。
俗に「監護権」と呼ばれることが多いです。
財産管理権
子供の財産を管理し、財産に関する法律行為(売買契約や、賃貸契約などです。)に関して、子供を代理する権利です(民法824条1項)。
子供が携帯電話の契約などする際に、親権者の同意欄に署名・押印をしますよね。
このように、子供が契約などをする際に、子供に代わって契約を行う権利と言えます。
身分上の行為の代理権
養子縁組や相続の放棄・承認など特定の行為を、子供に代わって行う権利です。
の3つから構成されています。
そうなので、一般の方がイメージされる「子供と一緒に住む権利」というのは、親権の中の身上監護権(監護権)のことを指します。
ちなみに、離婚の際、親権者と監護権者を別々に定めることも可能です。
親権者と監護権者の違いについては、「意外に知られていない?親権と監護権って何が違うの?」をご覧ください。
⑵ 親権はどうやって決めるの?
日本では、婚姻中は、父母双方に子供の親権があるという共同親権です。
ところが、日本は、世界的には珍しく、離婚後は、父母のどちらかが親権者になるという「単独親権制」を採用しています。
そのため、離婚の際には、父母のどちらかが親権者になるかを決めなければいけません。
そして、夫婦が協議離婚をするときは、話し合いで、父母の一方を親権者として決めなければなりません(民法825条)。
離婚届には、「親権を行う子」という欄があり、未成年の子供がいる場合、親権者の指定をしなければ、離婚届は受理されません。
しかし、協議離婚はあくまで話し合いで決めるもの。
もし、夫婦で親権争いになり、話し合いがまとまらない場合には、どうなるのでしょうか?
協議離婚で親権の話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所に離婚調停の申立を行い、その調停の手続の中で、夫婦のどちらを親権者にするか話し合いを継続することになります。
調停というのは、調停委員という第三者(40〜60代の男女のペアです。)を通して、夫婦が離婚や子供のことについて話し合いを行う手続です。
調停委員を通して話し合いを行うので、直接面と向かって話し合うことはなく、協議離婚に比べ冷静な話し合いが期待できます。
また、親権が争いになっている事案では、家庭裁判所の調査官が、子供の状況などを調査することもあります。
詳しくは、「面会交流や親権・監護権などに大きな影響のある調査官調査ってナニモノ?」をご覧ください。
ただし、調停離婚が成立するためには、あくまで、夫婦間でどちらが親権者となるかについて”合意”が形成されなければなりません。
家庭裁判所や調停委員は単に夫婦の 話し合いを仲介するに過ぎないので、協議離婚と同様に、夫婦双方で合意ができない限りは、調停でも親権者を定めることができないのです。
それでは、協議離婚・調停離婚のいずれでも、親権者が決まらない場合には、どうなるのでしょうか。
調停でも合意できない場合には、離婚裁判となり、家庭裁判所が夫婦のどちらか一方を親権者として指定することになります(民法819条2項)。
⑶ 親権の判断基準について
以上の通り、夫婦間で話し合いが協議・調停を通じてもまとまらない場合には、最終的に家庭裁判所が、父母のどちらを親権者にするか定めることになります。
それでは、家庭裁判所は、どのような判断基準で、親権者を定めるのでしょうか。
子供が15歳以上の場合
まず、子供が15歳以上の場合、家庭裁判所は子供の意見を聴かなければなりません。
そして、実務的には、15歳以上の子供の場合、子供の意思で親権者が決定されてしまいます。
むしろ、15歳以上の子供がいらっしゃるケースでは、子供の意思も話し合いの過程で、ある程度明確に表明されているケースが多いです。
そのため、15歳以上の子供の親権で争いになるケースは稀です。
子供が15歳未満の場合
子供が15歳未満の場合でも、年齢や心身の発育の程度に応じて、子供の意思は聴取されることもあります。
実務的には、小学校高学年以上の子供の場合には、子供の意思が調査されることが多い印象です。
ただし、15歳未満の場合では、まだまだ子供の心身も未発達で、判断能力が十分であるとは言えません。
そのため、そのほかの様々な事情をもとに、父母のどちらかが親権者として相応しいか、どちらを親権者としたら「子供の利益」にかなうかどうか判断されることになります。
重要なのは、各要素を総合して、「子供の利益」をもとに決められるということです。
監護能力と監護意欲
離婚後、子供をしっかり監護・教育することが出来る能力があるかどうか、そしてその意欲があるかどうかは極めて重要な要素です。
監護能力や意欲があるかどうかは、裁判の過程で、書面で主張したり、家庭裁判所の調査官が父母本人に直接インタビューして調査されることになります。
監護実績
子供の出生から現在に至るまで、父母がどのように、子供を監護してきたかという実績は、親権の判断において非常に重要な要素です。
具体的には、子供との同居の期間(もちろん、同居親が圧倒的に有利になります。)や、食事・炊事などの世話、お風呂やトイレの世話、寝かしつけ、幼稚園や 保育園などの送り迎えなど、調査官がチェックする事実は多岐に渡ります。
監護実績が重視されるのは、これまで監護を行ってきた親であれば、子供との心理的結びつきも強いであろうという点と、監護能力も高いであろうという点に理由があります。
なお、日本では、夫が外で仕事をして家族を養い、妻が子供と家庭を守るという旧来的な家族観が未だ根強いと言えます(専業主夫や男性の育児休暇に対して、まだまだ社会的な理解が乏しいという背景もあります。)。
そのような家庭環境では、どうしても妻側に監護実績が豊富になりがちです。
そのため、妻側が親権争いで圧倒的に有利と言われています。
監護の継続性
子供の現在の監護状況を優先するという考え方で、事実上、現在、同居している親を優先するというものです。
環境の変化は子供にとって大きなストレスになります。
たとえば、同居してない親元で新たに生活するとなると、生活のリズムが変わりますし、転居に伴い友達や学校の先生と離れ離れになってしまうかもしれません。そのような環境の変化は子供の心を傷つけてしまいます。
そのため、家庭裁判所実務では、現在の監護状況に問題がない限り、出来る限り、同居親を優先するという運用になっています。
実際には、家庭裁判所調査官が、同居中の親と子供を家庭訪問し、同居親と子供とのコミュニケーションを観察したり、子供と触れ合うことによって、現在の監護状況に問題がないかチェックすることになります。
もっとも、監護の継続性とは事実上同居親を優先するという考え方なので、別居の最初に子供を連れて出た親が、そのまま子供の親権者になってしまうということに繋がります。
日本が「子供の連れ去り大国」という不名誉なことを言われているのも、監護の継続性を重視する家庭裁判所の運用に責任の一端があります。
したがいまして、同居している子供が連れ去られてしまった場合、親権を求めるのであれば、速やかにお子様の監護権者指定及びお子様の引渡しを求める審判、保全処分を提起するなどの手段をとる必要があります。
なぜなら、別居開始から離婚までに時間がかかればかかるほど、連れ去って出た同居親の元で監護実績が積み重ねられてしまい、監護の継続性という観点から、ますます親権争いで不利になってしまうからです。
なお、子供が連れ去られてしまった場合の対応方法については、「男性必見!妻に子供を連れ去られたときに必ずやるべきこと」、「不倫妻に子供を連れ去られてしまった!子供を引き渡してもらう方法は?」をご覧ください。
母性優先
特にお子様が未就学児童や乳幼児の場合、母親を優先するという考え方です。
しかし、母性優先という考えは、少し古い考え方で、両性の平等が広く社会に浸透したこんにちでは、性差別に該当するとも言えません。
もっとも、家庭裁判所の中では、いまだに母性優先という考えを持っている
調停委員や調査官が若干いるのも確かで、男性側からすると決して侮ることはできません。
監護体制(経済状況、居住環境、家庭環境、教育環境)
今後、子供を監護していくにあたっての環境(経済状況、居住環境、家庭環境、教育環境)も、親権の判断では考慮されます。
具体的には、年収や就業状況、勤続年数、勤続形態、現在の住まい、ほかに同居している家族、その家族の協力体制、学歴や教育方針などを、家庭裁判所調査官が本人へのインタビューや家庭訪問で把握することになります。
奪取の違法性
別居中の子供を無断で連れ去ったり、面会交流後に子供を返さないなどして、いわば「違法に」子供を奪取した場合には、家庭裁判所は、違法な連れ去りへの制裁として厳しい判断を下す傾向にあります。
他方で、同居中の子供を、他方の親に無断で連れ去り別居を開始した場合には、奪取の違法性は問われず、親権の判断に影響しないのが通常です。
裁判所の傾向をまとめると、
- 同居中の子供連れ去り→特に問題なし。監護の継続性により、同居親を優先する傾向。
- 別居中の子供連れ去り→違法な奪取として、連れ去りをした親の親権は厳しく判断する傾向。
となります。
面会交流に寛容かどうか
面会交流とは、子供が、別居していない親と交流する権利のことです。
家庭裁判所のスタンスとしては、面会交流は、子供が同居していない親と交流することを通じて、両親から愛情を受け、子供の利益にかなうものと考えています。
そのため、離婚後、同居していない親(親権者とならない親)に対して、子供と面会交流を行うことが積極的な親は、親権者としてふさわしいと考えられています。
近時、家庭裁判所は、離婚後も面会交流を行わない親に対して厳しい態度を示す傾向にあります。
したがって、離婚をする際にも、面会交流に協力的な親が親権の判断においても有利になることが多いです(言うまでもなく、実際に面会交流が促進されるのであれば、子供の利益にかなうものであります。)。
(2019年7月8日追記)
千葉家庭裁判所松戸支部は、平成28年3月29日判決において、面会交流に寛容な親を親権者として適格と判断するいわゆるフレンドリーペアレントルールを適用し、以下のように判示し、非監護親である父親を親権者として指定する判決を出しました。
「原告は被告の了解を得ることなく、長女を連れ出し、以来、今日までの約5年10か月間、長女を監護し、その間、長女と被告との面会交流には合計で6回程度しか応じておらず、今後も一定の条件のもとでの面会交流を月1回程度の頻度とすることを希望していること、他方、被告は、長女が連れ出された直後から、長女を取り戻すべく、数々の法的手段に訴えてきたが、いずれも奏功せず、爾来今日まで長女との生活を切望しながら果たせずに来ており、それが実現した場合には、整った環境で、周到に監護する計画と意欲を持っており、長女と原告との交流については、緊密な親子関係の継続を重視して、年間100日に及ぶ面会交流の計画を提示していること、以上が認められるのであって、これらの事実を総合すれば、長女が両親の愛情を受けて健全に成長することを可能とするためには、被告を親権者と指定するのが相当である。」
ところが、その後、控訴審の東京高等裁判所は、平成29年1月26日、母親の元で安定的な生活を送っていることを理由に母親である原告を親権者として指定する判決を下し、最高裁判所は平成29年7月12日、父親からの上告を棄却し判決確定しました。
そのため、現在の家庭裁判所実務では、面会交流の寛容性(フレンドリーペアレントルール)を親権者の判断で重視するという運用は取っていないと評価できます。
ただし、面会交流の寛容性は、親権者の判断では一切考慮されていないわけではなく、監護実績、監護の継続性、監護能力や意欲などの要素に比べれば補助的な要素として考慮されているものと理解できます。
非監護親の男性側が親権を求める場合、依然としてハードルは高いと言えます。
親権取得のため頑張るお父さんに対して、以下の記事を是非お読みになることをお勧めします。
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兄弟姉妹不分離の原則
子供に兄弟姉妹がいる場合、離婚を機に離れ離れになってしまうことは、子供の心を大きく傷つけます。
そのため、兄弟・姉妹を別々の親権者にするのではなく、まとめてどちらかの父母の一方を親権者にすることが一般的です。
不倫など離婚の有責性は考慮されず
一方が不倫をし、結果として婚姻破綻に至った経緯などは、親権者の判断に影響しないのが通常です。
あくまで、不倫などは夫婦間の問題であり、その責任は慰謝料などで調整すべきと考えられており、親権者はあくまで子供にとってどちらかの父母が子供の利益にかなうかどうかで決定されます。
⑷ 親権については以上の事情をもとに総合判断
親権者の判断は、以上の考慮要素をもとに、父母のどちらを親権者とすることが子供の利益にかなうかどうかで判断されます。
したがって、離婚裁判で親権を争う場合には、以上の考慮要素に基づいて、具体的な事実を 説得的に裁判所に主張し、裁判所を説得する必要が有ります。
また、家庭裁判所の調査官が、家庭訪問や本人へのインタビューなどを通じて、上記事情を調査します。
家庭裁判所調査官の調査についても、入念に準備することが重要になります。
(2019年7月8日追記)
家庭裁判所調査官の重視するポイントについては、以下のコラムをご覧ください。
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