5 不倫・浮気の証拠となるもの
ここで、不倫・浮気の証拠となりうるものをまとめておきましょう。
裁判において、「不貞の行為」があったとされるには、必ず証拠が必要となります。
これがなければ、基本的には慰謝料の請求はできません。
以下では、証拠として利用される代表的ものを挙げます。
① 性交渉そのものを撮影した写真・動画
これが一番はっきりした証拠です。
こんなものは実際にあるのかと疑問に思われる方も多いと思いますが、実際に、よく見受けられます。
不倫・浮気は普段抑えられている性欲が溢れでたときに行われることも多く、そうした場合、それを記録に残して大切に保存しようとする方も時々おられるのです。
② ラブホテルに入っていったところを撮影した写真
これも一級の証拠といって良いでしょう。
ラブホテルに異性と入った場合、通常はそこで性交渉が行われます。
このような、「このようなことをしていれば、このようなこともしているはず」ということを経験則といいますが、裁判所もこれを適用して不貞の事実を認定します。
逆に、ラウンジなどが充実しているシティホテルに入ったところや、昼間に自宅に招き入れたところを撮影しても、そのことから直ちに性交渉が行われたとは限らないため、不貞の事実は認められないでしょう。
③ 配偶者が不倫・浮気を認めた事実
例えば、配偶者が不倫や浮気を認めたことを覚書のような書面に記載している場合や、認めた旨を発言している様子を録音している場合は、証拠になります。
④ LINE(スマートフォンアプリケーション)
現代の日本では、最も活用されている私的コミュニケーションツールと言っても過言ではないでしょう。
このラインにおけるやりとりも、証拠となり得ます。
もっとも、言葉の羅列だけであると、実際に性交渉があったかどうかをはっきりと判断することは難しいでしょう。
配偶者と不貞相手とのライントークにおいて、何年何月何日に性交渉をした、ということをはっきりと言葉にするということは通常考えられないからです。
⑤ クラウドでつながっているパソコン
昨今のパソコンは、様々なアプリが他のデバイスと連動・同期しています。
そういうわけで、夫又は妻が、自宅にある配偶者のパソコンをみて、その配偶者がスマートフォンなどの他のデバイスで行ったメールやSNSのやりとりを閲覧してしまう、ということも多々あります。
⑥ カーナビ
これは忘れられがちなものです。カーナビは、履歴が残ります。
したがって、自家用車でどこに出かけていったか、記録に残っていることがあります。
交際相手としか行かないような場所へ行っていたとすれば、交際の事実の証拠になってしまう可能性があります。
⑦ GPS機能搭載のデバイス
ランニング用の小型GPSなどが世の中にはあります。
こうした小型GPSを、例えば配偶者のバッグに忍ばせておくとか、配偶者が運転する車に隠しておくなどして、配偶者の足取りを追うということをする人もいます。
そのような方法が良いか悪いかは別として、その結果明らかになった事実は、不倫や浮気の証拠になってしまうものです。
以上のような、不倫・浮気の証拠については、「よく使われる不倫の証拠ベスト5!ここに紹介!」や、 「こんなのが証拠に使われる!?不倫・浮気の「意外な証拠」ベスト3!」にも記載していますので、併せてご覧ください。
6 不倫をしてしまった場合の帰趨(有責配偶者の視点から)
さて、ここで、もし、あなたが不倫や浮気をしてしまい、それが夫または妻にバレてしまった場合について述べます。ここでは、以下の点に注意する必要があるでしょう。
⑴ 原則として、あなたから離婚の請求はできない
本文の始め、1(1)で述べましたように、もし配偶者が離婚に応じない場合であっても、法律により定められた5つの離婚原因に当たる場合には、裁判所に離婚を求めることができます。
しかしながら、現在の裁判所の運用では、不倫をしたことによって結婚生活が破綻してしまった場合、不倫をした側が離婚の請求をすること(「有責配偶者からの離婚請求」と呼ばれます)は認められていません。
ですので、あなたが不倫をしてしまった場合で、どうしても離婚をしたいという場合は、なんとしても配偶者を説得する必要が出てきます。
裁判で離婚を請求しても、効果がないためです。
もっとも、裁判所も、どのような場合であっても離婚を認めないというわけではなく、次のような場合には、例外的に離婚を認めるという運用をとっています。
- 別居期間が結婚期間中で相当に長いこと
- 未成熟の子がいないこと
- 離婚によっても、残された家族が過酷な生活に陥らないこと
以上の3つの点を考慮して、離婚が認められる場合があります。
これについて、以前は、8年程度の別居が必要だなどと言われ、実際に裁判所もその程度の別居期間がなければ離婚を認めませんでした。
しかし、昨今は、この別居期間をより短縮する方向で判断がなされています。特に、平成26年6月12日の東京高裁判決は、有責配偶者からの離婚請求を、2年間の別居期間しかないにもかかわらず認めました。
また、平成27年5月21日の札幌家庭裁判所判決は、有責配偶者からの離婚請求を、わずか1年半の別居期間で認めています(婚姻期間自体は18年半)。このような裁判所の趨勢は、今後も注意が必要です。
この点については、詳しくは「不倫をしても離婚請求が許される時代が到来した!?」をご覧ください。
⑵ 別居できない期間、生活費を要求され続ける結果に
以上のように、有責配偶者からの離婚請求が認められないことを利用して、半永久的に生活費を請求し続けられるという事態になる場合もあります。
時間が経てばいずれは離婚ができますが、その際は多額の慰謝料を支払わなければなりませんので、経済的な負担は甚大なものとなります。
以上のように、有責配偶者は現在の運用では非常に不利な立場に置かれています。このことはぜひとも理解しておかれると良いでしょう。
7 そもそもどうして不倫や浮気があるのか
さて、これまで不倫や浮気がある場合に、どのような手続きが取られるのかを中心に述べてきました。
そして、有責配偶者という立場になった場合の経済的な負担についても申し上げました。
こうした事態になるにもかかわらず、世の中に不倫や浮気はなくなりません。
なぜなのでしょうか。むしろ、不倫や浮気を「悪」と決めつけている私達の社会こそに誤解や問題があるのでしょうか。
最後に、これについて考えてみましょう。
アメリカの人類学者で、恋愛学では世界権威とも言えるヘレン・フィッシャー氏は、その著作中で、世界中で共通する統計として、結婚してから4年が離婚のピークであることを論じています。
ヘレン・フィッシャー氏は、その理由として次のような点を人類学的な見地から推論しています。
二足歩行を始めた人類は、その態勢により骨盤を狭くしました。その結果、子を狭くなった骨盤を通れるだけの大きさで産まざるを得なくなります。それにより、人類は子供を未成熟の状態で外界に出す道を選択しました。そうすると、未成熟の子供を守り世話をするため、母親が常に寄り添い抱えていなければなりません。
この間、母と子の食糧はどうするのでしょうか。それを獲得してくるのが、夫の役目です。夫は、母が子に始終寄り添っていなければならない期間、妻と子を守ります。
しかし、これはいつまででしょうか。それが、母が子に始終寄り添う必要がなくなる時点、つまり、4年なのではないかと。人間の脳は、子を守る必要があるこの4年間は、相互に愛しあうように形作られているというのです。そして、人類はより多様な子孫を残すことで、生存する能力は高まっていきます。多様な子孫を残すには、同じ異性ではなく、異なる異性と子供を作る必要があります。新たな恋が生まれる原因です。
すなわち、この4年間というのは、子供が身ごもり、産み、育み、ある程度手がかからなくなるまでの期間なのではないかと。
(詳しくは、「男と女が4年で離婚するには理由がある?」をご覧ください。)
こうした考えに賛成も反対もあるでしょう。
しかしながら、男女の愛に終りが来るという現実、そして結婚をしても恋をする能力がなくなるわけではないという事実は、古今東西共通の事実であり、誰も否定できません。
こうした避けられない事実に社会がどう向き合っていくのか。
その姿勢は、離婚という制度の中に、もっとも端的に現れてくるものです。
そして、これからもそれに対する社会の姿勢に変化があるたびに、離婚という制度も変化を続けていくことでしょう。