なぜ、家庭裁判所における調停でも、弁護士と一緒の方が良いのか。
これはとても大切なことですので、ぜひ覚えておいて下さい。
逆に、離婚問題で相談した弁護士に対して、なぜ弁護士が必要なのか聞いてみてください。
その弁護士が答えをはぐらかした場合は、その方は離婚の専門家ではないと言えるでしょう。
1.裁判官も全てその場で正しい判断ができるわけではない
裁判官も調停委員も、離婚に関する法律の運用について、誤解をしていることがよくあります。
裁判官も、弁護士と全く同じ試験(司法試験)に合格しています。
一方で、裁判官においては、基本的に「専門分野」と呼べるものがあまりありません。
調停事件を担当する裁判官は、家庭裁判所の調停・審判部に属している人たちです。
裁判官は、いわば全国区のキャリア官僚で、3年ごとに裁判所を異動します。
異動した先の裁判所で、部を異動するということもあります。
このように、裁判官は、一つの分野に縛られることなく、幅広い事件を扱って経験を積み、オールマイティな存在を目指していくことになります。
逆に言えば、そのことが裁判官の専門性を頭打ちにさせるという面も否定できないということです。
この点は、弁護士とは異なる部分です。
弁護士は業界内の競争がありますから、自分の専門性を磨く必要があります。
10年、20年、一つの分野を極めつづけているという弁護士はいます。
そうした専門弁護士の、法律や裁判所での運用に対する知識は、時として裁判官を大きく上回るものです。
そういうわけですから、調停や裁判において、裁判官も、弁護士から指摘されるまで気付かないという事態がよく起こるのです。
そして、訴訟や審判ならまだしも、話し合いの場である調停の段階だと、一層気付いてくれない頻度が上がります。
なぜなら、裁判官は人数の関係で、一つ一つの調停事件に時間をかけることができないからです。
家庭裁判所における調停事件は多くありますが、それに比べると裁判官は圧倒的に少ない状況です。
そして、一つの事件のために判例や法律を丁寧にリサーチして裁判所として行うべき運用を確認するということを、裁判官は時間的な制約からできないわけです。
基本的に一つの調停事件は、一般の市民から選任された調停委員(2人)が主導して進めて、必要な場合に裁判官と相談をするという形をとっています。
あなたが調停に参加しても、実際に裁判官とお目にかかれることはほとんどないでしょう。
せいぜいのところ実際に調停が成立する段階の、調停条項の読み合わせの時くらいです。
それでは、一つ、私自身の経験から分かりやすいものを申し上げましょう。
あるとき、財産分与における上場企業株式の評価方法について、調停の場で議論になったことがありました。
多くの場合は投資信託会社からの報告書の数字の確認で済みますが、このときは報告書の見方自体に争いが生じてしまったケースでした。
こうした、資産の評価方法などは、あまり法律書には記載されていないため、これまでの家庭裁判所がどのように決めてきたのかを調べる必要があります(判例のリサーチ)。
調停の場にいたのは、依頼者と私、そして調停委員(2人)です。
裁判所としての細かい運用の問題になるため、調停委員では手に負えない。
そこで、調停委員は席を外し、10分ほど裁判官と相談しました。
その間、我々は待合室で待機です(実際に私たちが待ったのは30分ほどです。裁判官は数が少ないため、調停委員も簡単に担当裁判官を捕まえることができないわけです)。
そして、裁判官の意見を踏まえ、調停委員からは、別居時の株価に別居時の株式数を掛け合わせたものと、婚姻時の株価に婚姻時の株式数を掛け合わせたものの差額を、財産分与の対象とすべきと提案されました。
しかしながら、このような扱いでは、もし、別居時の株価が婚姻時のそれより低い場合、婚姻期間中に株式数は増えていたとしても、差額がマイナスに計上されてしまう可能性があります。
結局、株式評価方法は持ち帰りにし、判例リサーチをしたところ、名古屋高裁や東京地裁における先例を見つけ、原則として別居時の株価に合わせる運用がなされていることを突き止めました。
このことをその後裁判所に伝えたところ、結局、こちら側の計算方法によって株式の評価をしていくという方向で話がまとまりました。
このように、裁判官が万能でない以上、離婚の調停に臨む場合は、全国の裁判所の運用をきちんと把握する準備をしなければならないのです。
こうした場合は弁護士が非常に役立つことは言うまでもありません。
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2.調停委員は意見が対立する事柄を一生懸命避ける
調停事件においては、一般の市民から選ばれた調停委員2人が、調停での話し合いを主導していきます。
調停委員の仕事は、調停で話し合いをさせて、合意にもっていくことです。
合意をさせるためには、当事者の意見を対立ではなく、一致させなければなりません。
そのため、本来、こちらとして主張できる部分があったとしても、こちら側がそれを持ち出さない限り、調停委員は取り上げないことがほとんどです。
調停委員の仕事は意見を一致させることですから、わざわざ対立する可能性のある事柄を持ち出して、自分の仕事を増やすことはしません。
例えば、住宅ローンを組んで自宅を購入した場合、自宅の時価がローン残高より高ければ、その差額が財産分与の対象になります。
しかし、例えばあなたのご両親が頭金を出していた場合、上記差額が全て分与の対象になるわけではなく、一部はあなたの固有の財産とみなされるのが一般的です。
しかしながら、こうしたよくある一般的な事柄でも、こちらが主張しない限り、調停委員は取り上げてくれません。
それを持ち出すと、意見対立が生ずる可能性があるからです。
そもそも意見対立を合意に持っていくのが調停という場なのですから、意見が対立しそうだからといってそれを取り上げないというのは本末転倒ですね。
しかしながら、委員が拾ってくれない以上は、こちら側が持ち出すしかありません。
こういうときも、弁護士は有利な事情を強く主張することで、力になれるのですね。
