年金分割の按分割合は何があっても半分ずつ!?最新判例解説大阪高裁令和元年8月21日決定

  • 2022年12月23日
  • 2023年1月31日
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今回は年金分割に関する新しい判例を解説します。

同居期間に比して別居期間が相当に長期期間に及ぶ場合であっても、年金分割の按分割合は半分(0.5)ずつとした審判例です。

年金分割の概要について知りたい方は、まずは以下の記事をご覧ください。

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事案の概要

この事件の概要は以下のようなものです。

結婚から9年間同居したのちに35年間別居し、結婚から44年後に離婚した夫婦がいました。

妻は、離婚後、夫に対し、按分割合を0.5として年金分割をするよう求める審判を申立てました。

1審の大津家裁は、別居後の30年以上にわたって夫婦の扶助協力関係がない中で夫の収入から保険料を支払っていたことを重視し「保険料納付に対する夫婦の寄与を同等と見ることが著しく不当であるような例外的な事情がある」として、按分割合を0.35(夫に有利)と定めました。

これに対し、2審となる大阪高裁は、以下のように述べて按分割合は0.5とする決定を下しました。

「抗告人(妻のこと)と相手方(夫のこと)の婚姻期間44年中、同居期間は9年程度にすぎないものの、夫婦は互いに扶助義務を負っているのであり(民法752条)、このことは、夫婦が別居した場合においても基本的に異なるものではなく、老後のための所得保障についても、夫婦の一方又は双方の収入によって、同等に形成されるべきものである。

この点、一件記録によっても、抗告人と相手方が別居するに至ったことや別居期間が長期間に及んだことについて、抗告人に主たる責任があるとまでは認められないことなどを併せ考慮すれば、別居期間が上記の通り長期に及んでいることをしん酌しても、上記特別の事情があるということはできない。

そうすると、対象期間中の保険料納付に対する抗告人と相手方の寄与の程度は、同等とみるべきであるから、本件按分割合を0.5と定めることとする。」

解説

年金分割の按分割合は原則0.5であり、保険料納付に対する夫婦の寄与度を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限り修正されるというのが一般的な理解です。

例えば、大阪高裁平成21年9月4日決定は以下のように述べています。

「年金分割は、被用者年金が夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的機能を有する制度であるから、対象期間中の保険料の納付に対する寄与度の程度は、特別の事情がない限り、互いに同等とみて、年金分割についての請求割合を0.5と定めるのが相当であるところ(中略)上記特別の事情については、保険料納付に対する夫婦の寄与度を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限られる」

そして、夫婦の寄与度を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合とは、同居期間に比して別居期間が長期に及ぶ場合や、夫婦の一方に浪費や借金がある中で他の一方が独力で家計を支え保険料を納付していた場合などが当たると理解されています(分与割合の修正を認めた例として平成25年10月1日東京家裁決定などがあります。)。

1審の大津家裁は、同居期間9年に対して別居期間が30年以上と何倍にも及んでいることから、夫婦の寄与度を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情があると判断しました。

しかし、大阪高裁は

婚姻期間44年中、同居期間は9年程度にすぎないものの、夫婦は互いに扶助義務を負っているのであり(民法752条)、このことは、夫婦が別居した場合においても基本的に異なるものではなく、老後のための所得保障についても、夫婦の一方又は双方の収入によって、同等に形成されるべきものである。」

と述べており、夫婦は別居期間中も、夫婦の扶助義務の一内容として他方の老後の所得保障の形成も扶助する義務があると理解に立っているとも考えられます。

そうであれば、夫婦の寄与度を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情があるかどうかの判断において、別居期間の長さはそもそも考慮されないことになりそうです。

大阪高裁は、一方で

「抗告人と相手方が別居するに至ったことや別居期間が長期間に及んだことについて、抗告人に主たる責任があるとまでは認められないことなどを併せ考慮すれば」

とも述べており、別居や別居期間が長期間に及んだことについて、一方に主たる責任があると認められれば按分割合が修正させる可能性があるとも考えられます。

以上からすれば、大阪高裁は、単に別居が長期に及んでいるだけでは按分割合を修正する理由にならないが、それに加えて別居や別居期間が長期間に及んだことについて一方に主たる責任があるといえる場合には按分割合を修正する可能性があると理解していると思われます。

このハードルは非常に高く、大阪高裁のこの理解を基準とした場合には、按分割合を修正するという判断が下されることはほとんどなくなる可能性があります。

まとめ

これまで、按分割合については、同居期間に比して別居期間が何倍にもなっている場合には修正される可能性があると理解されてきました。

大津家裁の判断もこのような理解に基づくものです。

しかし、大阪高裁は、同居期間に比して別居期間が何倍にもなっている場合であっても、別居期間が長期に及ぶということだけでは按分割合を修正する事情にはあたらず、別居及び別居が長期間に及んだことについて夫婦の一方に主たる責任があると認められて初めて修正する事情にあたる可能性があると理解しているようです。

同居期間に比して別居期間が何倍にもなるだけでも稀であるのに、さらにその主たる責任が夫婦の一方のみにあると判断されることはなかなか想定しづらいため、大阪高裁の理解に従えば、年金分割の按分割合を修正することは非常に困難であるといえます。

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