1 判例の概要
今回紹介する判例は、離婚に伴う慰謝料請求に関する最高裁の判決です。離婚に伴う慰謝料請求が遅滞に陥るのは(遅延利息が生じる時点は)離婚が成立した時点とした判断です。
2 背景となる事情
慰謝料請求は、不法行為に基づく損害賠償請求の一つです。そして、損害賠償請求にも、一種の利息が付きます。具体的には、不法行為が発生した時点で払いの期限が到来するため、その時から遅延損害金が発生するとされています。
(最高裁第3小法廷昭和37年9月4日判決(判タ139号51頁)
賠償債務は、損害の発生と同時に、なんらの催告を要することなく、遅滞に陥るものと解するのが相当である。
つまり、損害が発生した時点から、遅延損害金(要するに、利息のことです。)が発生するのですが、その際の利率は、損害が発生した時点の法律によることになります。
(金銭債務の特則)
第四百十九条 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
ちなみに、現在の民法上では、法定利率は年3パーセントとなっています。2020年3月31日以前は、年5パーセントでした。
(法定利率)
第四百四条 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、その利息が生じた最初の時点における法定利率による。
2 法定利率は、年三パーセントとする。
それでは、離婚に伴う慰謝料請求は、いつの時点で遅延損害金が発生するのでしょうか。例えば、不貞行為が原因で最終的に離婚に至った場合は、不貞行為があった時点で発生するのでしょうか。それとも離婚が成立した時点でしょうか。
問題となる行為があった後、それを原因として離婚したとき、法定利率が変わっていれば、利率が変わります。そのため、問題となるわけですね。そして、それに対する回答が、今回の最高裁の判断です。
3 判断の内容
最高裁第2小法廷令和4年1月28日判決は、以下の通り判断をしました。
(最高裁第2小法廷令和4年1月28日判決((判タ1498号39頁))
(1) 離婚に伴う慰謝料請求は,夫婦の一方が,他方に対し,その有責行為により離婚をやむなくされ精神的苦痛を被ったことを理由として損害の賠償を求めるものであり,このような損害は,離婚が成立して初めて評価されるものであるから,その請求権は,当該夫婦の離婚の成立により発生するものと解すべきである。そして,不法行為による損害賠償債務は,損害の発生と同時に,何らの催告を要することなく,遅滞に陥るものである(最高裁昭和34年(オ)第117号同37年9月4日第三小法廷判決・民集16巻9号1834頁参照)。したがって,離婚に伴う慰謝料として夫婦の一方が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時に遅滞に陥ると解するのが相当である。
(2) 以上によれば,離婚に伴う慰謝料として上告人が負担すべき損害賠償債務は,離婚の成立時である本判決確定の時に遅滞に陥るというべきである。したがって,改正法の施行日前に上告人が遅滞の責任を負った(改正法附則17条3項参照)ということはできず,上記債務の遅延損害金の利率は,改正法による改正後の民法404条2項所定の年3パーセントである。
なお,被上告人の慰謝料請求は,上告人との婚姻関係の破綻を生ずる原因となった上告人の個別の違法行為を理由とするものではない。そして,離婚に伴う慰謝料とは別に婚姻関係の破綻自体による慰謝料が問題となる余地はないというべきであり,被上告人の慰謝料請求は,離婚に伴う慰謝料を請求するものと解すべきである。
上記の通り、最高裁判決は、離婚に伴う慰謝料は、離婚の成立時に発生し、遅滞に陥るものと判断しました。したがって、法定利率は離婚時点のものが採用されることになります。
法定利率は社会の金融事情によって変更される余地があるため、本判決は具体的な損害額を計算する上で重要な判断と言えるでしょう。