――これからの人生を前向きに歩むために、知っておきたい現実――
「子どもが独立したのを機に、これからは自分の人生を大切にしたい」「長年連れ添ってきたが、夫婦としての役割は十分に果たした」。
このように、40代後半から60代にかけて「熟年離婚」を検討される方は決して少なくありません。しかし、熟年離婚は若い世代の離婚と比べ、その後の金銭面や生活環境、そして心理面に及ぼす影響が極めて大きいという特徴があります。一時の感情や勢いだけで進めてしまうと、後になって「こんなはずではなかった」と深刻な後悔を招きかねません。
ここでは、後悔のない選択をするために、法律実務の視点から特に意識していただきたい5つの重要ポイントを、一歩踏み込んで解説します。
離婚後の生活費を「現実的な数字」でシミュレーションする
熟年離婚で最も多く、かつ切実な後悔は「離婚後の生活が想像以上に苦しい」という現実に直面することです。
婚姻中は、住居費や光熱費、保険料などを夫婦で分担しているため、個人の負担感は分散されています。しかし離婚後は、これらの固定費をすべて一人で賄わなければなりません。特に専業主婦やパート勤務だった方の場合、離婚後に急に十分な収入を得ることは容易ではなく、年金受給までの「空白期間」をどう生き抜くかが大きな課題となります。
感情だけで決断を急ぐ前に、まずは住居費、医療費、老後資金といった項目を洗い出し、毎月いくら必要で、それをどこから捻出するのかという現実的な収支計算を行うことが、何よりの自衛策となります。
財産分与の対象を漏れなく把握する
長年連れ添った夫婦の場合、分与の対象となる財産は多岐にわたります。ここで預貯金だけに目を向けて話し合いを進めてしまうと、本来受け取れるはずの大きな資産を見落とす危険があります。
自宅不動産はもちろんのこと、将来受け取る予定の退職金や企業年金、生命保険の解約返戻金、さらには有価証券なども財産分与の対象になり得ます。特に退職金については、「まだ先の話だから」と諦める必要はありません。婚姻期間に応じた分については、分与の対象とするのが現在の実務上の一般的な考え方です。
一度離婚が成立してしまうと、後から隠れた財産を見つけ出して分け直すことは非常に困難です。離婚を決断する前の段階で、どのような財産がどこにあるのか、可能な限り資料を確保しておくことが極めて重要です。
年金分割は将来の「命綱」であると認識する
老後の生活を左右する非常に重要な制度が「年金分割」です。これは、婚姻期間中の厚生年金保険料の納付実績を分割する仕組みであり、将来受け取る年金額に直結します。
注意すべきは、この手続きを曖昧にしたまま離婚を成立させてしまうケースです。「一刻も早く離婚したい」という焦りから年金分割を後回しにすると、後に生活が困窮する原因となりかねません。また、制度には「合意分割」と「3号分割」といった種類があり、手続きの方法や分割割合の決まり方も異なります。
単なる形式的な事務手続きと捉えず、自分の老後の受給額が具体的にどう変わるのかを正しく理解し、確実に権利を確保しておく必要があります。
感情の波に飲まれず「決断のタイミング」を見極める
長年の不満や配偶者の不誠実な言動が積み重なっている場合、一日も早く関係を解消したいと願うのは自然なことです。しかし、激しい怒りや虚しさを抱えたまま大きな決断をすると、冷静な判断力を欠いてしまうことがあります。
熟年離婚の場合、離婚後の人生も20年、30年と長く続く可能性があります。目先の解放感だけを優先して不利な条件で合意してしまうと、その後の長い人生に影を落とすことになりかねません。
もし今、感情が昂ぶっていると感じるなら、あえて少し時間を置いてみるのも一つの手です。信頼できる第三者や専門家の視点を取り入れ、客観的な状況を整理した上で下す決断こそが、結果として後悔の少ない選択につながります。
「話し合い」の結果を必ず法的効力のある書面にする
「最後くらいは円満に話し合いで終わりたい」という思いから、口約束だけで離婚条件を決めてしまう方がいらっしゃいます。しかし、ここには大きなリスクが潜んでいます。
財産分与や慰謝料、あるいは離婚後の生活扶助に関する取り決めは、書面として残さなければ、時間が経つにつれて「言った、言わない」のトラブルに発展する可能性が非常に高いのです。相手の支払いが滞ったり、後から認識の違いを主張されたりした際、口約束では対抗できません。
たとえ双方が合意していても、その内容を「離婚給付等契約公正証書」などの形で法的に強固な書面に残しておくことが、お互いの新しい人生を守るための最低限のマナーであり、最大の安心材料となります。
まとめ
熟年離婚は、人生の大きな転換点です。これまでの重荷を下ろし、自分らしい時間を手に入れるための前向きな選択であるべきですが、そのためには「なんとかなるだろう」という楽観視を捨て、徹底的に現実と向き合う姿勢が求められます。
ここまでお伝えした通り、生活費のシミュレーション、隠れた資産を含めた財産分与、老後の命綱となる年金分割、そして感情に流されない決断。これら一つひとつを丁寧に進め、最後にそれらを法的効力のある書面(公正証書など)に落とし込むことで、初めて安心して新しい一歩を踏み出すことができます。
備えを万全にすることは、決して相手を疑うことではなく、ご自身のこれからの数十年を守るための、最も大切な作業と言えるでしょう。
弁護士のホンネ
法律事務所
私たちは日々、多くの方の離婚問題に立ち会っていますが、熟年離婚において一番歯がゆく感じるのは「もっと早く相談に来ていただければ、これだけの権利を守れたのに」というケースが少なくないことです。
長年、家庭のために尽くしてこられた方は、どうしても「争いごとを避けたい」「穏便に済ませたい」という遠慮が働きがちです。しかし、法律の現場からあえて厳しいことを申し上げれば、離婚という場面において、相手の善意に期待しすぎるのは非常に危険です。相手もまた、自身のこれからの生活を守るために必死であり、いざとなれば自分に有利な条件を優先するのが人間の一面だからです。
もし今、迷いや不安があるのなら、まだ「決断」の段階でなくても良いと思います。まずは現状の棚卸しをするつもりで、専門家の視点を活用してみましょう。当事務所でも、離婚問題に関しては無料相談を実施しています。どうぞお気軽にお問い合わせください。
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