面会交流権は憲法上の人権ではない!令和5年8月31日東京高裁判決

今回紹介する判例は、面会交流権が憲法により保障された人権ではないと判断した東京高裁令和5年8月31日判決(判タ1518号149頁)です。

1 面会交流権が人権なのか問われた裁判

面会交流は、その取り決めに時間がかかり、また、監護親の任意での協力がなければ実施は困難という現実があります。現在の面会交流手続の問題点については、以下の記事でも解説をしています。

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こうした状況下、様々な場で、面会交流をより実効性のあるものとすべきとする議論が行われています。しかし、未だ法律の制定という形では、抜本的な解決がなされていません。

今回の裁判では、そうした、面会交流を行う権利を十分に確保できる法律の整備がなされていないことを原告側が問題視し、国に対して、国家賠償請求の訴えを起こした事案です。具体的には、国会議員が面会交流をより実効的なものにする立法措置を怠っていることを理由に、国家賠償法に基づいて、国に慰謝料の支払いを求めたものになります。

原告側は、基本的人権である面会交流権が、国会(国会議員)が何も手当をしないことにより侵害されたことを理由に、国に対して慰謝料の請求をしました。そのため、この面会交流権というものが、そもそも「憲法上の権利」、すなわち人権とみなせるのかが争われたわけです。

2 東京高裁の判断

面会交流をする権利をどのように理解するかは学説上も争われているところです。結論として、東京高裁は、面会交流権は憲法上保障されるものではないとしました。

東京高裁の判断は以下の通りです。

(東京高裁令和5年8月31日判決 判タ1518号149頁)

(面会交流の法的性質について)控訴人らが主張する前国家的、始原的な自然権という概念は必ずしも明確ではなく、また、面会交流の法的性質については、学説上、控訴人らが主張する自然権説のほかにも、監護関連権説、自然権・監護関連権説、親権・監護権の一部説、子の権利説等の諸説がある上、権利性を否定する見解もある。さらに、民法766条1項は、父母が協議上の離婚をするときには、父又は母と子の面会その他の交流について必要な事項は、子の利益を最も優先して考慮して、父母の協議で定める旨規定しているが、同項でも面会交流の法的性質は明らかにされていない。このように、現時点で、面会交流権の法的性質や権利性の有無は、一義的に明らかなものではない。
 また、諸外国と我が国では、採用する家族・親子法制が同一ではないと解されるから、諸外国における立法の動向が、我が国の憲法の解釈に直ちに影響を与えるものとは認められない。
さらに、控訴人らが主張する面会及び交流の具体的な内容も明らかなものではない。また、仮に、別居親や子に面会交流権が認められるとしても、面会交流の問題は、両親の別居という社会的な事実を前提として発生するものであり、そのような状況の下で、どのような面会及び交流が実現されるべきかは具体的状況に応じて異なるものと考えられ、これを実現するためには相手方の対応が必要となる場合や、子の利益又は福祉の観点からこれを制限すべき場合も想定され得るから、実現されるべき権利の内容が一義的に定まっているものとも認められない。
 以上によれば、控訴人らが主張する面会交流権が別居親又は子の個人の人格権や幸福追求権として憲法13条で保障されているものと解することはできない。

 

<参考>

憲法13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

※憲法13条は、憲法上直接には明記されていない人権を保障する根拠規定とされています。

まず、東京高裁は、面会交流の法的性質が不明瞭であるため、「権利性の有無は、一義的に明らかなものではない」と述べました。つまり、面会交流が子供を監護していない親や子供の権利と言えるかについて、言及を避けたのです。

その上で、仮に面会交流が権利として認められるものだとしても、面会交流の問題は、親の別居という社会的な事実を前提として発生するものであり、その具体的な状況により権利内容が変わることを述べました。要するに、面会交流が権利だとしても、定まった内容の権利とも言えないとしました。

要するに、東京高裁は、①面会交流が、そもそも親や子の権利とは言えない可能性があること、②仮に面会交流が権利だとしても、具体的な事実関係により変容するものであり、憲法上の人権に値する内実ではない、と判断したものと考えらえます。

3 今回の判例の意義

今回の高裁判例に対する上告審判決はありません。そのため、今後、当分の間、今回の東京高裁判決が、最新の裁判例としての価値をもつものと思われます。

面会交流に関する家裁の実務運用は様々批判されているところではありますが、今回の東京高裁判決が、面会交流の人権性を否定したことで、事実上、現在の家裁運用にお墨付きを与える結果になったとも言えるでしょう。

今回の裁判では、面会交流の人権性が否定され、国(国会議員)に対する慰謝料請求も棄却されました。しかし、面会交流制度の問題は解決されていません。そのため、むしろ、面会交流の実施の問題については、立法府(国会)に抜本的な解決が委ねられたとも言えるでしょう。

今後の面会交流制度に対する立法府(国会)の対応を見守っていく必要があります。

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