今回紹介する判例は、別居中の夫婦に子供がいる場合の私立学費を、夫婦がそれぞれの収入に応じて負担(按分負担)するのではなく、半額とするのが相当であるとした東京高裁第14民事部の決定です(ウエストロー・ジャパン搭載)。
1 揺れ動いている裁判所の判断
私立学費を収入に応じて負担し合うのか、それとも半額を負担し合うのかについて、裁判でも判断が分かれる状況が続いています。
こちらの記事(【実務に変化】学費負担は収入按分か?それとも半額負担か?婚姻費用の最前線を解説!)(https://riko-net.com/divorce-living-expenses/on-a-pro-rata-basis-or-at-half-price)もお読みいただければと思いますが、最近、地方の家庭裁判所のみでなく、仙台高裁などの上級審も、学費は按分負担ではなく半額負担とすべき決定を下しました。
例えば令和5年2月15日付仙台高裁決定は、
養育費の算定に当たり、加算すべき学費を基礎収入の割合に応じて按分するのとは異なり、婚姻費用の算定に当たっては、権利者と義務者の基礎収入を合算して生活費指数で按分するという計算過程をたどり、両者とも生活費指数は同じ100であって同額の生活費が配分されるのであるから、総収入や基礎収入の割合に応じて追加分の学費を按分すると、総収入や基礎収入の高い側が多く学費を負担し、その反面として生活費の配分が減少することとなって、かえって公平を欠く結果となる。
(ウエストロー・ジャパン搭載)
と述べ、収入割合に応じた負担ではなく、半額負担を相当としています。
かつて、大阪高裁が平成26年8月27日付の決定で、学費を半額で負担し合うのが相当と判断をしていたのですが、その後それに追随する裁判所は少なく、収入割合で負担をし合う運用が定着していました。しかし、改めてそれに疑問を抱く書籍なども登場し、上記仙台高裁の判断が下されるに至ったわけです。
そして、実務への影響力の強い東京高等裁判所がこの問題を改めてどのように判断をするのかが待たれていたのですが、この度、東京高裁第14民事部が令和5年7月19日に判断を下しました。
2 東京高裁令和5年7月19日決定
東京高裁令和5年7月19日決定(ウエストロー・ジャパン搭載)は以下の通りです。
子の教育費という費用の性質に照らせば、上記のとおり、その親である抗告人・相手方の双方が等分に負担するのが公平にかなうというべきである(相手方の指摘する双方の収入格差は、標準算定方式に基づき義務者が分担すべき婚姻費用の額を算定する際に既に考慮されている。)
双方の収入格差は、婚姻費用を支払うことで是正される以上、さらにそれ以上発生する費用は、双方が半額ずつ負担するのが相当であるという判断です。極めて論理的と言えるでしょう。
以上の通り、東京高裁の判断が下ったことで、少なからぬ影響が実務に及ぶものと思われます。もっとも、東京高裁の内部でも判断は依然として分かれているようで、実務上、どちらの方法も定着しているとは言えない状況です。
今後も引き続き、最新の情報に接し、皆様に発信してまいりたいと思います。