別居?単身赴任?福岡家裁令和4年7月8日判決

今回紹介する裁判例は、夫婦別々の生活が、別居なのか、単身赴任なのかが争われた、福岡家裁令和4年7月8日判決です。

1 別居なのか、単身赴任なのか争われる理由

仕事上の都合を理由として、夫婦が別々の生活を始めた場合、財産分与の基準時をできるだけ後ろ倒しにしたい(財産分与額を多くしたい)妻側が、この生活はただの単身赴任だったと主張することが良くあります。また、生活費をもらい続けたい妻側が、未だ婚姻関係は破綻していないというために、この生活はただの単身赴任だったと主張することもあります。

別居と単身赴任に関しては、以下の記事でも解説しておりますので、ご参照ください。

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今回の裁判でも、妻側は婚姻関係の破綻を争うために、別々の生活状況はあくまでも単身赴任(仕事上の都合)だったと主張しました。それに対する福岡家裁の判断は、以下のとおりです。

2 福岡家裁令和4年7月8日判決の内容

福岡家裁の判断は以下のとおりです。

(福岡家裁令和4年7月8日判決 ウエストロー・ジャパン搭載)

原告と被告は、原告が平成25年9月に京都に移住して以降、一度も同居しておらず、原告は平成31年に被告が住む福岡県に戻ってきたものの別居状態は解消されていない。これに対し被告は、別居しているのは原告の仕事の都合によるものであり、婚姻関係の破綻を基礎付ける事情には当たらないと主張する。しかし、本件証拠上、平成25年に別居が始まってから、原告と被告との間で互いの住居を行き来するなどの交流があったことは認められず、証拠(乙5)によれば、被告から原告に対して送信したメールはあるものの、原告から被告へ宛てたメールは離婚について話し合いたい旨を記載したものしかなく、原告と被告が日常的に連絡をとり合っていた様子もうかがわれない。そうすると、8年を超える原告と被告との別居状態は、原告と被告との婚姻関係の破綻を十分に基礎付ける事情であるというべきである。この点について被告は、平成26年に姪の結婚式に二人そろって出席したことや長男が体調を崩した際に原告と被告が連絡をとり合い、長男の様子をみたことなどを主張するが、親族の祝い事や家族の非常時などに一時的に顔を合わせるなどしたにすぎないから、本争点の結論を左右する事情とはいえない。

・・・(中略)・・・

そうすると、原告と被告の別居期間は8年を超えて長期に及んでおり、夫婦としての実態は既に失われていると認められるところ、夫婦関係を修復すべく互いに歩み寄ることも困難であるといえるから、原告と被告との婚姻関係は修復不能な程度に破綻しているというべきであり、婚姻を継続し難い重大な事由があると認められる。

以上のことから分かるとおり、裁判所は、別々に暮らしている状態を「別居状態」としつつ、単身赴任などの「仕事上の都合によるものか」という点については、正面から回答しているわけではないことがわかります。

むしろ、「別居」は法律用語ではありません。そのため、裁判所は、「別居」に当たるかどうかという観点で判断するのではなく、あくまでも「婚姻関係が破綻するに至ったかどうか」(離婚が認められる要件)を判断するために、別々に暮らしていた時期の具体的な生の事実を整理しているのです

その上で、裁判所は、別居状態に至ってから、夫婦で行き来がなかったこと、日常的に夫婦としての連絡を取り合っていた様子もないことから、8年間の別居状態によって婚姻関係は破綻していると判断しました。再度同じ福岡県内に夫が戻った後も別々の生活を続けている点も重視されたと思われます。

3 今回の福岡家裁判決の意義

今回の福岡家裁の判決は、夫婦が別々に暮らしている状況を、「別居」とみなすか、「単身赴任」とみなすかの二者択一の形で審理したわけではなく、あくまでも、「婚姻関係が破綻したと言えるか」という点を判断するために、別々に暮らしていた状況を審理しました。こうした観点は、実際に別居か単身赴任かを争っている離婚事件の当事者にとっても、今後の方針の指針を定めるために有意義なものと言えるでしょう。

あくまでも大事なのは、別居状態の期間における生の事実がどのようなものであり、それが婚姻関係の破綻を導いているかどうか、ということになります。

今回ご紹介した判決の考え方が、離婚事件の当事者の方々のお役に立てましたら幸いです。

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