家裁判断を覆して年金分割割合を0.5とした高裁判例!重要判例解説:東京高裁令和4年10月20日決定

今回ご紹介する判例は、妻による厚生年金の年金分割の申立を却下した家裁の判断を覆し、原則通り、年金分割割合を0.5と定めた、令和4年10月20日東京高裁決定(判タ1515号57頁)です。

厚生年金の年金分割の概要については、以下の記事をご参照ください。

関連記事

さて、あなたは今離婚に向けて別居中の奥様と協議をしている段階にあるとします。 婚姻費用を払い続けながら別居を続け、ようやく離婚の条件としてまとまったお金と財産分与。そして今後の養育費の金額が決まった。離婚の話もようやく[…]

1 家庭裁判所の判断

さて、この事件で、原審である千葉家庭裁判所は、婚姻期間中、夫が、妻の荷物が散乱した自宅内での生活を余儀なくされ、精神的な苦痛や強いストレス状態に長期間置かれたことなどを理由に、妻の年金分割の申立を却下しました。

(千葉家裁令和4年4月22日決定)

ところで、本件では、同居の開始も相手方の同意なく、海外出張中に申立人が大量の荷物を持ち込んだというものであり、婚姻届の提出も、申立人が荷物を片付けるという期待から行ったというものである。しかしながら、婚姻届出後も申立人は荷物を片付けるどころか、さらに申立人が購入した物が室内に増え続けていたのであり、ごみを捨てることもなく、相手方が空の容器を捨てることを禁じ、また、相手方に対し、自分の荷物を捨てたとして脅迫的なメールを送り、その内容も次第にエスカレートしている
申立人の言動は、当初から夫婦が協力して生活をするというものではなく、相手方は、物が散乱した自宅内での生活を余儀なくされ、精神的に著しい苦痛、ストレス状態に長期間置かれ、一方的な負担を強いられるものであった。
そうだとすると、本件の保険料納付に対する夫婦の寄与を同等の50%とみることは相当ではない

2 高等裁判所の判断

ところが高等裁判所は、この判断を覆しました。

まず、一般論として、東京高裁は年金分割制度に関して以下の通り述べ、保険料納付に対する夫婦の寄与の程度は、特段の事情がない限り、お互いに同等と見るべきとしました。

(東京高裁令和4年10月20日決定)

厚生年金保険法78条の2第2項は、家庭裁判所は、対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他一切の事情を考慮して、請求すべき按分割合を定めることができる旨規定しているところ、老齢厚生年金は、その性質及び機能上、夫婦双方の老後等のための所得保障としての社会保障的意義を有しており、離婚時年金分割制度との関係においては、婚姻期間中の保険料納付は、互いの協力により、それぞれの老後等のための所得保障を同等に形成していくという意味合いを有しているものと評価することができる。この趣旨は、夫婦の一方が被扶養配偶者である場合における年金分割(いわゆる3号分割)について、「被扶養配偶者を有する被保険者が負担した保険料について、当該被扶養配偶者が共同して負担したものであるという基本的認識の下に」、当然に2分の1の割合で分割されるとされていること(厚生年金保険法78条の13、78条の14)に現れており、いわゆる3号分割以外の場合であっても、基本的に変わらないというべきである。したがって、対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与の程度は、特段の事情がない限り、互いに同等と見るのが離婚時年金分割制度の趣旨に合致するところであると解される。

つまり、厚生年金の年金分割制度が、老後の所得保障としての社会保障的意義を持っていることが強調されています。当事者間の単純な財産の分割ではなく、一種の公共性・公益性を持った制度であるということになります。そのため、特段の事情がない限り、年金分割割合は同等(0.5)とすべき結論が導かれています。

その上で、千葉家裁が認定した事実関係を踏まえつつも、以下の点を述べて、本件でも年金分割割合は同等とすべきと結論づけられました。

(続き)

夫婦の不和から相互扶助の関係が損なわれ、その原因が上記のような抗告人の言動・行動にあるとしても、それだけで直ちに、請求すべき按分割合を減ずるべきことにはなるわけではない。そして、一件記録(特に、当審において当事者双方から提出された資料)によれば、抗告人は、大量の荷物を搬入して本件自宅に引っ越す形で、平成18年12月に相手方と同居を開始したこと、相手方は、本件自宅内に抗告人の大量の荷物等が放置されたままの状態にあることを認識し容認しながら、平成24年4月に抗告人と婚姻する旨の届出をしたこと、抗告人と相手方は、平成24年4月から平成27年8月までの間については、抗告人の言動・行動が原因で、夫婦間に深刻な不和が生じたとまでは認められないこと、抗告人は、婚姻期間中もおおむね就労し、相手方との比較でいえば少額であるものの収入を得ており、これを抗告人自身の食費、携帯電話代、医療費、保険料等に充てることにより、家計の費用の一部を負担してきたといえること、抗告人は、・・・に罹患しており、その他の疾病の治療のために要するものを含め、毎月相当額の医療費を支払っていることが認められるところである。
これらの事情を総合的に考慮すると、本件において、対象期間における保険料納付に対する夫婦の寄与の程度を同等と見るべきでないとする特段の事情があるとまでいうことはできず、他に、そのように認めるに足りる的確な資料はない。

東京高裁は、厚生年金の年金分割制度の社会保障制度としての側面を重視し、家裁が認定した事実を持ってしても、当然には按分割合を減少させるべきではないとします。

それに加えて、東京高裁は、夫が大量の荷物がある状況下で生活を強いられたのは、決して妻の行動だけに起因するものではないなどと述べ、事実ベースでも、新たな判断を加えました。

それにより、結論として、年金分割を通常通り0.5としています。

3 本裁判の意義

今回の東京高裁の決定は、厚生年金の年金分割制度の社会保障としての側面をあらためて重視し、特段の事情がない限り、0.5とすべき方向性を堅守しました。そして、その特段の事情が容易には認められないことを、家裁判断を覆す形で改めて周知したという点で、先例としての意義をもつものと言えます。

>弁護士法人プロキオン法律事務所

弁護士法人プロキオン法律事務所

弁護士法人プロキオン法律事務所(横浜・東京)は、離婚・男女問題に特化した専門事務所です。初回相談は60分無料で、平日夜間・土日も対応可で、最短で即日相談も可能です。あなたの、離婚に関するお悩みはプロキオン法律事務所(横浜・東京)にお任せください!