今回紹介する判例は、別居後に女性と同居をしたことで有責配偶者となり、離婚が認められなかった東京家裁立川支部令和5年11月21日判決(ウエストロー・ジャパン搭載)です。別居時点で婚姻関係が破綻していたかどうかの結論によって、当事者の運命が分かれた事案と言えます。
1 時系列で見る事案の内容
本事案の内容を時系列で見ると、以下の通りです。
1.婚姻の経過
平成24年10月20日: 婚姻届を提出。
平成25年○月○日: 長男が出生。
2.婚姻生活の問題発生
令和元年12月:夫が東京都多摩市に自宅を購入。妻の父親とも同居開始。夫と、妻の父親との関係が悪く、夫婦喧嘩や生活のストレスが増加。
令和3年7月: 夫が昇進。長男の習い事への送迎ができなくなったところ、妻からは労われることがなく、逆に家事や育児の負担が増えるなどの不満を述べられた。
3.離婚の打診と別居
令和3年10月11日: 夫が妻に対しLINEで離婚を申し入れる。
令和3年11月7日: 夫が自宅を出て実家に帰り、別居開始。
4.別居後、同僚女性と同居
令和4年4月17日: 夫が東京都練馬区のアパートを契約。同居者として同僚Bの名前を「婚約者」として記載。妻がその事実を知る。
2 別居時点で婚姻関係が破綻していたかどうかが大きな争点
以上の事実関係を見ると、別居時点で婚姻関係が破綻していたと言えるかどうかが最大の争点であることが伺えます。
というのは、夫婦は、婚姻関係が破綻すれば、貞操義務が喪失する(その後は異性と関係を持っても不貞にならない)というルールが判例上確立しているからです。そして、今回、夫は、別居後半年弱で、他の女性との同居を試みていますので、別居時点で婚姻関係が破綻していれば、離婚は認められ、別居時点で破綻していなければ、夫は有責配偶者となり、当面の間(場合によっては10年近く)離婚は認められないことになります。
このような状況のもと、東京家裁立川支部は、令和3年11月7日の別居時点では、未だ婚姻関係は破綻していないものとしました。
(東京家裁立川支部令和5年11月21日判決 ウエストロー・ジャパン搭載)
しかしながら、前記認定事実のとおり、原告と被告が、別居前まで家事及び育児を協力して行っていたこと、別居後も話合いを行い、被告が離婚に応じることはなかったことに照らせば、原告が令和4年7月に適応障害との診断を受けたこと(甲1)や原告が主張する被告の暴言を考慮しても、原告が被告と別居した令和3年11月時点において、婚姻関係が修復不可能な程度にまで破たんしていたとは認められない
つまり、同居期間中、関係が悪化し始めてはいたが、未だ修復の余地はゼロではなかったとして、別居時点での婚姻関係の破綻は認めませんでした。
3 結論として、有責配偶者となり、離婚は棄却へ
別居時点では婚姻関係は破綻していなくとも、その後長期の期間が経過し、婚姻関係が破綻したとみなされれば、その後異性と関係を持った場合であっても、不貞行為には当たりません。
しかし、今回の事例では、夫は別居後半年足らずで女性との同居を試みており、同居中はそうした不貞関係はなかったとしても、未だ妻との関係修復の余地がある中で女性と交際をしたものとみなされました。
(続き)
原告は、令和4年4月17日に本件アパートの賃貸借契約を締結したところ、原告は、同居者としてBの名前を記載し、原告との続柄を婚約者と記載したことが認められることからすると、原告とBは、同日より相当前には交際を開始していたことが認められる。そうすると、原告と被告の婚姻関係は、原告とBの交際により破たんしたと認められるから、原告は有責配偶者である。よって、原告の離婚請求は認められない。
結果として、判決の通り、夫は有責配偶者となり、離婚請求は認められませんでした。
有責配偶者からの離婚請求は、場合によっては10年程度認められませんので、夫は妻に対して、いずれ離婚が認められるまでの長期間にわたり、生活費を払い続けなければならない結果となりました。
まさに、今回の事案は、別居時点で婚姻関係が破綻していたかどうかの評価によって、当事者の運命が分かれた事案と言えます。
4 本判決の意義(別居後の不貞による有責配偶者)
本判決は、別居後の不貞により有責配偶者となった具体的なケースとして、価値があると言えます。判決文では、いつから不貞があったのかがぼやかされていますが、同居中から不貞行為があったことを示す証拠はなかったようですので、別居後に不貞が行われたとみなすほかありません。別居時点で婚姻関係が破綻していたかどうかが問われたのは、まさに別居後の不貞のためです。
一方、別居後、相当の期間が経った後に、女性と同居をしていた場合は、結論が変わっていた可能性があります。別居に至った経緯において、夫にも同情されるべき余地が十分にありますし、そのため、相当の期間が経ってから女性と同居を開始していれば、その時点ではすでに婚姻関係が破綻していたとみなされる可能性も出てくるからです。
別居後、どの程度期間が経てば、婚姻関係が破綻しているとみなされるのかについては、こちらの記事をご参照ください。
プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として2015年に設立。翌年東京にも事務所開設。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間20[…]