親権者の変更が認められた事案!東京高裁令和3年4月28日決定

今回紹介する事例は、離婚時の親権争いではなく、夫に親権が渡って離婚した後に、親権者変更の申立てがあったというものです。しかも、結論として親権者の変更が認められており、先例として極めて高い価値があるので、詳しくご紹介します。

事案の概要

申立人(母親)と相手方(父親)は平成26年に婚姻し、翌年未成年者(長女)が誕生しました。しかし、婚姻中から相手方による暴言や暴力が問題となり、母親は心療内科を受診するまでに至ります。

令和元年12月に親権者を父親とする離婚が成立しますが、離婚後も同居を継続していました。しかし、その後父親は未成年者を連れて大阪の実家に帰省し、母親との接触を拒否し始めます。これに対し、母親は親権者変更と子の引渡しを求め、裁判所が判断することになりました。

家庭裁判所の判断:親権を母親へ変更

東京家庭裁判所(令和3年2月12日決定 ウエストロー・ジャパン搭載)は、最終的に未成年者の親権者を母親に変更し、父親に未成年者を引き渡すことを命じました。その主な理由は以下の通りです。

1.離婚時の合意と異なる監護状況

家庭裁判所は、離婚時の親権に関する合意について、母親が「従前どおりに未成年者との関わりを保てるのであれば、親権にこだわるより早く離婚することを優先するのが良いと思うに至った旨を述べている」ことなどを踏まえ、「双方が共に協力しながら監護養育していくことが合意されていたと認めるのが相当である」と認定しました。

しかし、父親はその後、母親がスクールで未成年者と会ったことを知ると激しく憤り、未成年者が母親への思慕の情を思い出すことを警戒する発言をしていました。そして、調査官による交流場面観察時まで、未成年者を母親に会わせませんでした。このことから、家庭裁判所は、「親権者を定めるに当たって前提としていた重要な事情に変更が生じている」と判断しました。

2.母親が主たる監護者であり、未成年者との愛着が最も強い

これまでの主たる監護者については、未成年者が通っていたスクールへの対応をほぼ母親が行っていたこと、母親がSNSで育児全般を自身が担当していると投稿していたことなどから、「従前の主たる監護者が申立人であったことは明らかである」と認定されました。

さらに、調査官による交流場面の観察では、「未成年者は申立人との愛着が最も強い」と評価され、母親に監護を継続させることが「子の情緒的成熟に資する」とされました。父親が母親の「アルコール中毒」を非難した点については、スクールの調査で飲酒の影響や未成年者の睡眠不足は一切確認されず、父親の主張は退けられました。

3.父親の監護上の問題と面会交流への消極的な態度

父親による監護状況について、現在こそ父親の母親(父方祖母)によって安定しているものの、それまでは未成年者の爪が切られていない、スクールからの連絡を確認しない、送迎に遅れるといった「監護上の問題が生じていた」と指摘されました。

また、父親の面会交流への対応は「消極的であると評価でき、その対応については問題がある」とされました。具体的には、クリスマス前の面会申し出に対し、父親の都合で実現が難しい日程を提案したことなどが挙げられています。

加えて、父親の行動には「メールのひな形を無視し、用件のみ送信する、送迎バスに間に合わなかった際に再度迎えに来させるといった自己中心的な態度が散見される」ことや、婚姻中の暴言・暴力などから「粗暴な側面がうかがわれる」とも指摘されました。さらに、「未成年者が家で申立人に会いたいと言うと、相手方及び父方祖母から『ピンされる』(暴力を示唆する発言)」といった状況から、「未成年者に心理的葛藤を生じさせているおそれもある」と懸念が示されました。

これらの要素を総合的に考慮し、家庭裁判所は、「子の利益を確保する上では、親権者を変更することが必要かつ相当である」と結論付けました。

高等裁判所の判断:家庭裁判所の決定を支持

家庭裁判所の決定に対し、父親(抗告人)は不服を申し立て、東京高等裁判所に抗告しました。しかし、東京高等裁判所(令和3年4月28日決定 ウエストロー・ジャパン)は、父親の抗告を棄却し、家庭裁判所の決定を支持しました

高等裁判所は、父親の抗告理由に対し、以下の通り具体的に反論を行っています。

 1.離婚時の合意について

父親は、離婚時の合意書に監護や面会交流に関する定めがない以上、親権の一部である監護権も全て自身に帰属すると主張しました。しかし高等裁判所は、離婚協議の経緯や母親の意向を踏まえ、「監護や面会交流については相談しながら協力しあうことが予定されていたため、特に記載がされなかったと解することができる」と判断しました。

その上で、父親が離婚後に未成年者を母親に接触させず、面会交流を拒絶したことは、「今後『相談しながら協力しあう』という前提に反するものであった」と指摘しました。

2.母親のアルコール依存症と不適切な行為について

父親が主張する母親のアルコール依存症や虐待行為について、高等裁判所は「相手方がアルコール依存症と診断された証拠はなく、飲酒による未成年者への悪影響も小さい」と判断しました。また、父親が主張する不適切な行為も、証拠力が乏しいとして退けました。

3.父親の面会交流拒否と自己中心的な態度

高等裁判所は、父親が未成年者を母親に会わせなくなり、母親と未成年者がスクールで面会していたことを知ってからは面会交流を拒絶した事実を認定。さらに、父親がスクールに対して「自己中心的な態度を取り」、未成年者を別の幼稚園に転園させたことについて、「未成年者の気持ちよりも抗告人の相手方に対する対抗心を優先させている」と厳しく指摘しました。

これらの理由から、高等裁判所は、「子の利益を確保する上では、親権者を抗告人から相手方に変更することが必要かつ相当である」という家庭裁判所の判断は妥当であると結論付け、父親の抗告を棄却しました。

裁判所が重視するもの:「子どもの最善の利益」

今回の裁判例は、親権者変更の判断において、裁判所が「子どもの最善の利益」を最も重視していることを明確に示しています。

特に、以下の点が重要なポイントとして浮かび上がります。

  • 離婚時の合意の実質: 書面上の記載だけでなく、協議の経緯や当事者の真の意図、実際の行動が重視されます。
  • 主たる監護者の特定と愛着関係: これまで誰が子どもの養育に実質的に関与してきたか、そして子どもがどちらの親に強い愛着を抱いているかが、親権変更の判断に大きな影響を与えます。
  • 親の監護能力と資質: 日常的な監護状況だけでなく、面会交流への協力姿勢、子どもの気持ちへの配慮、そして他の親に対する態度なども、親権者としての適格性を判断する上で考慮されます。自己中心的な行動や感情的な対立が子どもの利益を損なうと判断されることがあります。
  • 第三者の監護への依存: 親権者である親自身が監護を適切に行えず、第三者(このケースでは父親の母親)に依存している場合、その監護が一時的に安定していても、将来的な子の利益を確保できるかという点で疑問符がつけられる可能性があります。

本判決の意義

今回のケースは、親権を巡る争いがどれほど複雑で感情的なものになり得るかを示しています。しかし、その中で裁判所が一貫して見ているのは、「子どもの成長にとって何が最も良いのか」という一点です。

実質的な監護の実態や、子どもの愛着形成、そして親の監護能力や面会交流への協力姿勢が、親権の行方を大きく左右する要素となることを理解しておく必要があるでしょう。

ただ、通常は一度親権者が決定すれば、それを変更するためには大きな事情の変更が必要であす。つまり、離婚時の親権争いよりも、離婚後の親権者変更の方が、難易度は高いことは間違いありません。

今回の判決は、そうした極めて難易度の高い離婚後の親権者変更が認められた稀有な先例として、極めて高い価値を持つものと言えるでしょう。

なお、余計かもしれませんが、もし父親が、自身の母親または両親と未成年者に養子縁組をさせていた場合、親権者の変更は認められなかった可能性があります。親権者の変更は、あくまでも「父母の一方」に親権がある場合の制度だからです。これについては、以下の最高裁判例をご参照ください。

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