今回ご紹介する裁判例は、面会交流審判の決定に基づいて、元夫が間接強制の申し立てを行ったものの、審判から年数が経過し、子供が15才に至っており、その子供が面会を拒否していることを理由に、間接強制を却下したという名古屋高裁令和2年3月18日決定です(判タ1482号91頁)。
1 事件の概要
本件では、面会交流審判において、妻に対し、夫と長男を、2か月に1回、第3土曜日又は日曜日に3時間程度面会交流させることなどを命じる決定がされていました。
原審(名古屋家庭裁判所)は、本件決定について、面会交流の開始時刻が特定されておらず、元妻がすべき給付の内容が特定に欠けるので同決定に基づく間接強制をすることはできないとして、元夫の申立てを却下しました。
これに対して、抗告審は、給付内容の特定性については判断を示さなかったものの、以下の通り判断をしました。
2 名古屋高裁の判断
まず、名古屋高裁は、時間の経過により、面会交流に関する間接強制が認められないことがありうることを、一般論として述べました。
(名古屋高裁令和2年3月18日決定 判タ1482号91頁)
間接強制は,制裁の告知により債務者に履行を動機づけるものであるから,対象となる債務が債務者の意思のみで履行することのできる債務であることが要件となると解されるところ,面会交流を命ずる審判で間接強制が可能なものについては,審判当時の子の心情等を踏まえた上でされているとはいっても,その審判の後,子が成年に達するまで相当長期間にわたることも多く,面会交流に関する事情は審判後大きく変化することが当然に予定されていることが多いといえるし,子が成長して成年に近付くに従い,通常,監護親による給付は子の意向を無視しては物理的に実現することができない性質のものになったり,監護親による給付自体が観念しにくくなったりするといえる。そうすると,面会交流を命ずる審判の後に年数が経過して,子の成長の段階が,上記審判が判断の基礎とし,想定した子の成長の段階と異なるに至ったために,監護親による面会交流に係る給付が,監護親の意思のみで履行することのできない債務となる場合があることは,面会交流を命ずる審判が予定するところであり,この場合において,子が非監護親との面会交流を拒絶する意思を示していることは,上記審判に基づく間接強制決定を妨げる理由となると解される。
その上で、名古屋高裁は、本件では、面会交流に関する決定から3年以上経過したことで、事情が変わったとし、間接強制の申立を却下する判断を下しました。
(続き)
本件決定から年数が経過し,本件決定が判断の前提とし,想定した未成年者の年齢・成長の段階と現在の未成年者の年齢・成長の段階が大きく異なるに至り,未成年者が独立した人格として自らの意向を表明することができる能力を有する段階に達し,現に抗告人との面会交流を拒む意向を表明しているなどの事情によれば,相手方は,未成年者の上記意向にかかわらず,原決定別紙1「面会交流要領」のとおりの面会交流をさせる給付債務を,相手方の意思のみによって履行することができないというほかない。
3 本決定の概要
子の非監護親は、監護親が調停条項や審判決定の通り面会交流を履行しなかった場合、間接強制を申立て、不履行一回につき間接強制金を支払わせることで、履行を促すという方法をとることができます。
しかし、これは面会交流の調停条項や、審判で決定された条項で、日付、時間、場所などがしっかりと特定されていることが必要になります。
本件においては、原審ではこれの特定がされていないとして、間接強制を認めませんでした。一方で、高裁では、特定については判断をしませんでしたが、元妻の意思のみによって履行することのできない債務になっているとして間接強制を認めませんでした。
つまり、名古屋高裁は、面会交流に関する条項で、日付、時間、場所などがしっかりと特定されていたとしても、子供が成長し、元妻の意思のみによって履行することのできない債務になっている場合、間接強制は認められないと判断したものと考えられます。
特に、本件では、決定当時、満11歳10か月(小学6年生)であった長男は、現在では満15歳に成長しており、「自らの意向を表明することができる能力を有する」段階に達した上で面会を拒否している以上、監護親の意思のみで決定通り履行することができないから、間接強制も認められないと最終的に判断されています。
4 本決定の意義
今回の名古屋高裁の決定から、いくら条項で日付、時間、場所などをしっかり特定して、間接強制ができるようにしておいたとしても、子がある程度の年齢に達した後で面会を拒否した場合は、間接強制が認められず、実効を促す手段がなくなってしまうということが分かります。
本件は、決定から3年が経っています。また、名古屋高裁は、「子が満15歳以上であるときは、子の陳述を聴かなければならないとされていること(家事事件手続法152条2項)などによれば,満15歳は,独立した人格として自らの意向を表明することができる能力を有するに至る年齢であるといえるところ…」と述べていますので、子が15歳に達しており、ある程度意思をはっきりと意思を表現できる年齢で明確に拒否していることが重要視されたと考えられます。
このように、間接強制により面会交流の実効性を確保できるのは、子が自らの意向を表明することができる能力を持つ年齢である15歳くらいまでであるということが明らかになった点で、本決定は意味があるといえるでしょう。