父子の面会交流を間接交流に制限すべきとした家裁決定を取り消した決定!東京高裁令和5年11月30日東京高裁決定

今回紹介する決定は、父子の面会交流を間接交流に制限すべきとしたさいたま家裁の決定を取り消し、直接交流の実施について検討すべきとして原審に事件を戻した東京高裁令和5年11月30日決定(『家庭の法と裁判』52号82頁)です。

1 さいたま家裁の判断(間接交流のみを認める!)

本決定の原審であるさいたま家庭裁判所は、妻が、夫と子供の面会交流の実施に対して消極的であることを重視し、試行的な面会交流すら実施せず、間接交流に制限すべき旨の判断を行ったようです。間接交流の内容としては、妻が年に2回、夫に子供の写真と成長記録を送付するというものでした。

妻が面会交流を拒否していた理由として、東京高裁は以下のことを述べています。

(東京高裁令和5年11月30日決定 『家庭の法と裁判』52号82頁)

(1) 前記認定事実によれば、①未成年者は、保育園に入園当初は、表情が硬く、集団生活に戸惑う様子が見られたこと、②家裁調査官による家庭訪問調査においても、未成年者は、初対面の家裁調査官に対して人見知りをして、短時間の滞在では十分に慣れることが難しく、母である相手方から離れようとしない様子が認められたこと、③未成年者は、日常的に夜中に泣いて目を覚まし、一度も目を覚まさずに寝ていることの方が少ない状況であり、相手方は、精神的にも体力的にも余裕があるとは言えないこと、④抗告人は、相手方の非難に強く反発して感情的になり、声が大きくなることがあったため、相手方の抗告人に対する不信感は根強いこと、⑤抗告人は、未成年者が出生してから未成年者に接触した期間は短く、別居後、抗告人と未成年者の交流は行われていないことなどが認められる。これらの事情に鑑みると、未成年者は慣れない相手に対して不安を感じやすいといった特徴がうかがわれ、未成年者の負担を最小限に留めつつ面会交流を実施するためには、相手方の協力を得ながら、未成年者が抗告人に徐々に慣れるようにする手順を踏むことが必要であると考えられる。そうであるとすれば、相手方が、こうした手順を踏まないまま、抗告人と未成年者との直接の面会交流に協力することにつき、消極的な態度を示していることについては、一定程度理解できるところである。

まとめると、①子供が保育園児であり、人見知りをしていること、②妻の育児負担が大きく、妻に余裕がないこと、③同居期間中の夫婦の感情的な喧嘩により、妻の夫に対する不信感が強いことで、妻は父子の直接の面会交流に消極的だということです。こうした背景を理由に、家庭裁判所は、「妻が年に2回、夫に子供の写真と成長記録を送付すること」という、いわゆる間接交流を認めるにとどめました。

しかしながら、常識的な見地からしても、このような、別居した夫婦間に「よくある」事情を理由に、面会交流の原則的な形態である直接交流を否定してしまうと、面会交流という制度は極めて足場の脆い、名ばかりの制度になってしまうリスクがあります。昨今、別居親と子供が会えないことに対して、SNS等を通じて声をあげる人が増え、面会交流の現状が社会問題化しつつあることは周知の通りです。

抗告審である東京高裁は、こうした家庭裁判所の判断に対して、明確に疑問符を打つものとして注目されます。東京高裁は以下のように述べて、面会交流の重要性を改めて述べました。

2 東京高裁の判断(家裁の安易な判断に疑問符。審理のやり直しを命じる)

東京高裁の判断は以下の通りです。

(続き)

(2) しかしながら、父親が未成年者の成長を知ることは、父親にとって重要であるばかりでなく、未成年者にとっても、父親が自分に関心を示してくれていることを実感させることは、未成年者の健全な成長につながるというべきである。そして、抗告人は、第三者機関を利用して未成年者と直接の面会交流を行うことを希望し、既に第三者機関に相談し、当該第三者機関より支援が可能である旨の回答を得ているほか、第三者機関から面会交流を行うための具体的なルールに関する説明を受けていることが認められ、抗告人と未成年者が第三者機関を利用して直接の面会交流をする際、必要となる相手方の協力は、一定程度限定されたものになると考えられる。
また、未成年者には、人見知りの傾向があり、新規の刺激から影響を受け易いといった傾向があるが、未成年者が令和3年7月以降現在に至るまで保育園に通園していることに照らせば、上記の傾向は、周囲の配慮により克服でき、あるいは成長に伴い自然と収まるものと考えられる。
さらに、前記認定事実及び一件記録によれば、相手方は、抗告人に家事や育児に関する配慮が足りないと不満を持ち、抗告人も、相手方の非難に反発して感情的になり、声が大きくなることがあったことが認められるものの、抗告人が相手方に対し、直接の暴力に及んだとか、合理的な理由のない暴言ないし継続的ないし支配的な精神的暴力があったと認めることはできない。
 そうすると、相手方には、抗告人と未成年者が第三者機関を利用して直接の面会交流をすることに協力することが直ちに困難であると断じるに足りるだけの客観的かつ具体的な事情があると認めることはできない。仮に、直接の面会交流を実施することにより相手方の負担が主観的には増すとしても、相手方には監護補助者がいることをも考慮すれば、直接の面会交流の実施により、未成年者の福祉を害する程度にまで相手方の監護力が低下すると認めることはできない。

東京高裁は、以上のように、①父子関係の重要性について改めて指摘をし、②子供の人見知りの傾向は周囲の配慮により克服でき、あるいは成長に伴い自然と収まるものであること、③夫の妻への直接の暴力などがあった事実は認められないとして、直接交流を行うことが困難である理由は認められないとしました。

東京高裁の判断は、常識的に当然とも思えますが、こうした当然とも思える考え方が、家裁実務では通用していない場合がある(特段の事情がないのに直接交流が制限される場合がある)という点に、危機感を覚える方もいらっしゃるでしょう。

そうして、東京高裁は、原審であるさいたま家庭裁判所に対して、以下のように、審理のやり直しを命じました。

(続き)

(3)したがって、抗告人と未成年者の直接の面会交流については、前記(1)のような事情があることは認められるものの、前記(2)のとおり、これが直ちに困難であると断じるに足りるだけの客観的かつ具体的な事情があるとはいえないというべきであって、未成年者の年齢及び特性等に照らせば、なお、未成年者において、相手方と離れて抗告人と直接の面会交流を行うことができるかどうかについて、子の福祉の観点から、慎重に検討判断する必要があるというべきである。
そうすると、本件においては、抗告人と未成年者との試行的面会交流の実施を積極的に検討し、その結果をも踏まえて、直接の面会交流の可否や、直接又は間接の面会交流の具体的方法、頻度、内容等を検討して定める必要があるというべきである。
(4)よって、原審判は前記(2)の事情を適切に考慮していない点において取消しを免れない上、本件については、特に前記(3)に関して審理を尽くす必要があるので、原審判を取り消して、本件をさいたま家庭裁判所に差し戻すのが相当である。

3 今回の東京高裁決定の意義

今回の東京高裁決定は、面会交流の重要性を、父親と子供の双方の利益に鑑みて強調した上で、直接交流の原則性を改めて述べた点が際立ちます。

実務における審判ないし調停の現場では、昨今、面会交流については、「子の福祉の観点」という言葉を理由に、父子(または母子)の面会交流を制限的に捉える見方が裾野を広げてしまったようにも見受けられます。

しかし、今回の東京高裁決定は、面会交流の意義に立ち戻り、直接交流を原則とし、それを実施できない特別の理由があるかどうかという従前の判断枠組みに今一度立ち戻ったという点で、極めて重要な裁判例と位置付けられるでしょう。今後の面会交流の実務においても、繰り返し振り返られる先例となると思われます。

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