協議書に署名がなく、養育費の合意がなかったと判断された事例(東京地裁令和4年11月17日判決)

離婚時に月額40万円の養育費を合意したと主張するも否定される

今回紹介する判例は、離婚した元妻(原告)が、元夫(被告)に対して「月額40万円の養育費支払いの合意があった」と主張し、過去の未払い分と今後の支払いを請求した、東京地裁令和4年11月17日判決(ウエストロー・ジャパン搭載)です。

原告は、離婚協議書が作成されたが、紛失したと主張し、離婚協議書の下書きを証拠として提出をしました。

しかし、裁判所は、離婚協議書に署名・押印がなく、正式な合意があったとは認められないとして、原告の請求を棄却しました。

判決文の主なポイント

「署名押印のない協議書は合意の証拠とはならない」

(東京地裁判決からの引用)

離婚協議書の草稿を保管、提出しておきながら、署名押印した原本のみ紛失したというのは不自然といわざるを得ない。

原告は、署名・押印をした離婚協議書の原本が存在したが、紛失したと主張をしていました。その上で、離婚協議書の下書きを証拠として提出をしていました。

しかし、裁判所は、署名・押印のない協議書は単なる草稿に過ぎず、正式な合意の成立を認めることはできないと判断しました。

また、原告は弁護士に原本の写しを求めたが拒まれたと述べたものの、その説明も一貫せず、信頼性に欠ける供述であるとされました。

「履行実績も合意の証拠とはならない」

(東京地裁判決からの引用)

被告が財産分与として2000万円を支払ったのは令和元年7月25日であり、本件離婚協議書に定められた履行期(平成27年11月末)と大きく離れているから、本件離婚協議書の合意に従って支払ったと評価することはできない。

原告は、離婚協議書に従って、財産分与が行われていたことを主張することで、離婚協議書が存在したことを示そうとしました。

しかし、協議書に記載された財産分与の支払期日と、実際の支払時期が大きく異なることから、裁判所はこの支払いを「協議書に基づくものではない」と判断しました。

生命保険や賃貸契約についても、「離婚協議書に従ったもの」と評価するには不十分であると述べています。

「養育費の請求を6年間していなかった点も重視」

(東京地裁判決からの引用)

原告が、本件離婚協議書のとおり養育費支払の合意が成立したとする平成26年12月から、養育費が支払われていない旨のメッセージを送信した令和2年12月3日、あるいは養育費の支払を求める内容証明郵便を送付した令和3年1月27日までの間、長期にわたって養育費の支払を求めていないことからも…

また、裁判所は、原告が養育費支払を請求するまでに6年近く放置していた点を、「合意があったなら不自然」として、合意の存在自体に疑問を呈しました。

裁判所の判断のまとめ

今回の裁判所の判断は、以下のようにまとめることができます。

  • 原告は、署名押印のある離婚協議書原本が存在していたが紛失したと主張。
  • しかし裁判所は、署名押印された原本が存在しないこと、その説明が不自然で信用できないこと、提出された協議書が草稿にすぎないことを重視。

さらに、

  • 財産分与の支払時期が協議書と大きく異なる(平成27年末→令和元年7月)こと
  • 保険名義変更が協議前のことであり、合意に基づく行動とは言えないこと
  • 養育費に関する請求を長期間行っていなかったこと

これらの理由から、養育費支払に関する合意は認められないと判断しました。

本判決の意義

当事者間の合意の存在を証明するものとして、契約書(合意書、離婚協議書など名称は自由に設定できます。)を作ることが通常です。こうした契約書がなぜ必要なのかというと、裁判になった際に、裁判所がそうした合意が存在したことを認定してもらうためなのです。

本判決は、改めて、養育費や財産分与など、離婚時の金銭的な取り決めについても、署名押印のある正式な文書がなければ、いかに「かわいそう」であったとしても、合意の存在を認めることはできないという、原則的な立場に立ったものと言えます。

改めて、署名押印を経た契約書の作成の必要性を思わせる先例として、本判決は意義のあるものと言えるでしょう。

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