マッチングアプリでの性行為トラブル!東京地裁令和5年9月25日判決

今回ご紹介する判例は、マッチングアプリで出会った男女間の交際トラブルが法廷に持ち込まれた、東京地裁令和5年9月25日判決(ウエストロー・ジャパン搭載)です。

東京地裁は、女性が男性に対し求めた損害賠償請求をすべて棄却する判決を下しました。まずは概要からご紹介します。

事案の概要:原告女性の主張

原告である30代女性は、マッチングアプリで知り合った被告男性(既婚者)に対し、以下の3つの行為が不法行為にあたると主張しました。

  1. 貞操権侵害:被告が既婚者であるにもかかわらず、独身で結婚願望があると偽り、「結婚を前提とした交際」を申し込んだため、これを信じて性交渉に応じた。真実を知っていれば性交渉には応じなかったとして、貞操権の侵害を訴えました。
  2. 避妊具不使用の性行為強行:2度目の性交渉時、避妊具の装着を求めたにもかかわらず、被告がこれを拒否し、性行為を強行した。
  3. 中絶への非協力:性交渉の結果妊娠が発覚した際、中絶費用や同意書への署名を求めたが、被告はこれに応じず、連絡を絶った。

これらの不法行為により、精神的苦痛を被ったとして、慰謝料150万円、性病検査・中絶手術費用約15万円、弁護士費用33万円、合計約198万円の支払いを求めました。

裁判所の判断:詳細な事実認定

裁判所は、原告と被告双方の主張および証拠を精査し、それぞれの争点について以下のように判断しました。

1.貞操権侵害の成否

原告は、被告が「結婚を前提とする交際」を申し込んだと主張しました。しかし、裁判所は、以下の点を挙げてこの主張を退けました。

  • メッセージのやり取り:2人が交わしたLINEのやり取りには、結婚や将来の家庭生活に関する内容が一切見当たらなかった
  • アプリの利用目的:2人が出会ったマッチングアプリは、交際相手との出会いを目的とするものであり、必ずしも結婚を前提とするものに限定されない。
  • 配偶者の有無:原告は、被告に配偶者の有無を尋ねたと主張しましたが、これを裏付ける証拠はなく、裁判所は、被告が独身であると虚偽の事実を述べたり、独身であるかのように装ったりした事実は認められない。

これらの事実から、裁判所は、被告が「結婚を前提とする交際」を申し込んだとは認められず、原告の貞操権が侵害されたという前提自体が欠けていると結論付けました。

※なお、仮に被告男性が既婚者であるのに独身者であると偽っていたとしても、婚約など、結婚を前提としていない限り、貞操権侵害にはならないとするのが現在の裁判例の趨勢です

2.避妊具不使用の性行為強行の成否

原告は、2度目の性交渉時に、眠っているところを突然性行為をされ、避妊具の装着を求めても無視されたと主張しました。しかし、裁判所は、性行為直後の原告の言動に注目し、以下のように判断しました。

  • 性行為直後のメッセージ:原告は、性行為があった日の朝、被告に対し「会えて嬉しかったよ~」「お土産もご馳走様!!」「また会えるの楽しみにしてるよ~」**といったメッセージを送っていました。
  • その後の親密なやり取り:その後も原告は、被告に対し「いつもスイッと車で現れるYくんかっこいい」「好き」「会うといつも好きだよって言ってくれて嬉しい」「今日も私の彼氏はイケメンかな?」「一緒だと、Yくんに襲われすぎて、お互い眠った記憶がないよ(笑)」といった、強い好意を示す親密なメッセージを多数送っていました。
  • 被害者らしからぬ言動:裁判所は、これらのメッセージが、原告が主張するような、強引で「これまで経験したことのない恐怖と痛みを感じた」性行為を経験した者の言動としては、「理解し難い不合理なもの」であると指摘しました。

原告は、将来の結婚を考えて、性行為の強行については荒立てず、冷静に対応したと説明しましたが、裁判所はこれを納得できる説明とは言えないとし、原告の供述は採用できないと判断。この主張も認めませんでした。

3.中絶への非協力の成否

原告は、妊娠発覚後、被告がラインをブロックするなど、中絶に非協力的であったと主張しました。しかし、この点についても、裁判所は原告の言動に「かなり強い不信感を抱かせる」ものがあったと指摘し、被告の対応は理不尽とは言えないと判断しました。

  • 「探り」行為:原告は、知人の協力を得て、別の第三者を装い被告に接触。妻や交際相手の有無、アプリの利用目的といった情報を聞き出していました。
  • 「脅し」と受け取れるメッセージ:この事実を踏まえ、原告は被告に対し「先輩の旦那さんにより身元が割れたので、婦人科の病理検査結果と生理が来るまで連絡がつくようにしておいてね。学歴職歴なんでもわかって素晴らしい」というメッセージを送っていました。また、妊娠を告げた際にも、「こちらでのやり取りが難しい場合は、先輩の旦那さんが御社本家で働かれているので、そちらから連絡させて頂こうと思います」と、職場の上位者を通じて圧力をかけることを示唆するようなメッセージを送っていました。
  • 被告の対応:被告は、妊娠の事実を告げられた翌日には連絡を取り、「費用については一方的なことではないので終わった後に金額次第で調整させてください」と、費用負担の意向を示していました。その後、上記のような原告の言動を受けて連絡を絶ちましたが、中絶手術後には改めて「中絶したことの証明が問題ない内容であれば以前に伝えた通り費用は平等に負担します」とメッセージを送っていました。

裁判所は、原告の一連の言動が、被告に強い不信感を抱かせたことは明らかであり、その後に連絡を絶った(ラインのブロック)被告の対応を不法行為とは認めませんでした。

本判決の意義

以上の判断から、裁判所は、原告の主張する不法行為はいずれも成立しないと結論付け、すべての請求を棄却しました。

この判決は、男女間の交際トラブルにおいて、当事者間の具体的な言動やその背景にある状況が、裁判所の判断に決定的な影響を与えることを示しています。特に、今回のケースでは、メッセージのやり取りが重要な証拠として機能し、原告の主張の信憑性が疑われることになりました。

マッチングアプリが普及する現代において、出会いの形は多様化しています。それゆえに、交際における意思表示やコミュニケーションのあり方が、予期せぬトラブルに発展します。本判決は、そうした現代社会特有の問題について、証拠に基づいて丁寧に判断を試みた例として、意義があると言えるでしょう。

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