嫡出の推定を受けない子供について、父子関係の存否を審理しないで扶養義務を認めることは許されない!重要判例解説:最高裁令和5年5月17日決定

今回ご紹介する判例は、別居中の夫婦間の婚姻費用審判事件で、戸籍上、夫と妻の子であるとされている子であっても、嫡出推定を受けない子については、父子関係の存否を審理しなければ、扶養義務を認めることは許されないとした最高裁決定です(最高裁第二小法廷令和5年5月17日決定 判タ1513号87頁)。

1 嫡出推定を受けない場合は父子関係を争える

前提知識として、まず、嫡出推定について説明します。

妻が夫以外の男性との間で子供を設けた場合でも、出生届を提出することで、子供は夫の戸籍に入ることになります。現在の民法では、婚姻中にできた子供は、夫の子供であることを前提とする規定があるからです。

(嫡出の推定)

民法第七百七十二条 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

子供を妊娠した時期が婚姻前の場合は、この嫡出推定を受けません。

とはいえ、役所も、出生届については夫の子供としての届出のものしか受理をしてくれません。他の男性との間にできた子供かどうか、役所の方で調査することができないためです。

その結果、夫の子でない場合であっても、出生届が受理されれば、夫の子として戸籍上は記載されることになります。その場合、関係者(通常は夫)は、親子関係不存在確認の訴えなどを通して、父子関係の存在を争うことができます。

※嫡出推定されるケースで、父子関係の存在を争う場合は、嫡出否認の訴えによって(申立権者と期間が決められています。)で対応することになります。

今回の事件は、子供の妊娠が婚姻前であり(つまり、嫡出推定されないケース)、実際にその後のDNA鑑定で、父子関係がないとされたケースでした。

そうした中で、妻から婚姻費用の請求を申し立てられたところ、夫が子供を扶養する義務があることを前提として判断しても良いのかが問題となりました。生物学上、父子関係がない可能性が濃厚である一方で、親子関係不存在確認の訴えは確定していませんでした。そうした状況下で、婚姻費用の申立てを受けた裁判所が親子関係の存在を審理すべきかどうかが問題となったのです。

2 大阪高等裁判所の判断

大阪家裁岸和田支部は、妻の申立てが権利の濫用にあたるとして却下しましたが、大阪高等裁判所は、以下の通り判断をし、親子関係不存在の確認訴訟によって父子関係の不存在が確定するまでは、父は子の扶養義務を免れないとしました。

(大阪高裁令和4年7月14日決定)

抗告人が本件子の生物学上の父であることはDNA鑑定によって否定されているものの、本件父子関係はこのことから直ちに否定されるものではなく、その存否は、訴訟においてその他の諸事情も考慮して最終的に判断されるべきものである。したがって、本件父子関係の不存在を確認する旨の判決が確定するまでは、抗告人は本件子に対する本件父子関係に基づく扶養義務を免れないから、本件子の養育費相当額(月額4万円)は、抗告人の分担すべき婚姻費用に当たる。

これに対して、夫側が上級審である最高裁に判断を求めたところ、最高裁は、大阪高裁の判断を覆しました。

3 最高裁判所の判断

最高裁は以下のように判断し、婚姻費用の申立てを受けた裁判所が、父子関係の存在を審理すべき旨を明言しました

(最高裁令和5年5月17日決定)

夫は、婚姻後に妻が出産し戸籍上夫婦の嫡出子とされている子であって民法772条による嫡出の推定を受けないもの(以下「推定を受けない嫡出子」という。)との間の父子関係について、嫡出否認の訴えによることなく、その存否を争うことができる。そして、訴訟において、財産上の紛争に関する先決問題として、上記父子関係の存否を確定することを要する場合、裁判所がこれを審理判断することは妨げられない(最高裁昭和50年(オ)第167号同年9月30日第三小法廷判決・裁判集民事116号115頁参照)。このことは、婚姻費用分担審判の手続において、夫婦が分担すべき婚姻費用に推定を受けない嫡出子の監護に要する費用が含まれるか否かを判断する前提として、推定を受けない嫡出子に対する夫の上記父子関係に基づく扶養義務の存否を確定することを要する場合であっても異なるものではなく、この場合に、裁判所が上記父子関係の存否を審理判断することは妨げられないと解される(最高裁昭和39年(ク)第114号同41年3月2日大法廷決定・民集20巻3号360頁参照)。

本件子は、戸籍上抗告人と相手方の嫡出子とされているが、相手方が抗告人との婚姻の成立の日から200日以内に出産した子であり、民法772条による嫡出の推定を受けない。そうすると、本件において、抗告人の本件子に対する本件父子関係に基づく扶養義務の存否を確定することを要する場合に、裁判所が本件父子関係の存否を審理判断することは妨げられない。

ところが、原審は、本件父子関係の存否は訴訟において最終的に判断されるべきものであることを理由に、本件父子関係の不存在を確認する旨の判決が確定するまで抗告人は扶養義務を免れないとして、本件父子関係の存否を審理判断することなく、抗告人の本件子に対する本件父子関係に基づく扶養義務を認めたものであり、この原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。

4 本決定の意義

今回、最高裁は、嫡出推定されない子の扶養義務が問題となる場合、婚姻費用審判事件を受理した裁判所が、親子関係の存在を審理しなければならないと判断しました。父子関係の存在に疑義があるケースは実務においても確かに存在します。今回の最高裁判断は、昨今頻繁に申立てがなされている婚姻費用請求事件の実務において、少なからぬ影響が及ぶものと思われます。

>弁護士法人プロキオン法律事務所

弁護士法人プロキオン法律事務所

弁護士法人プロキオン法律事務所(横浜・東京)は、離婚・男女問題に特化した専門事務所です。初回相談は60分無料で、平日夜間・土日も対応可で、最短で即日相談も可能です。あなたの、離婚に関するお悩みはプロキオン法律事務所(横浜・東京)にお任せください!