今回紹介する判例は、夫が性風俗店のポイントカード等を所持していたとしても、性風俗店を利用していたとは認められないとした、東京地裁令和3年11月29日判決(ウエストロー・ジャパン搭載)です。
1 本判決の内容
まず、前提として、性風俗店の利用は、配偶者に対しては、不貞行為ないしそれに準ずる背信行為となり、離婚時に慰謝料が発生する可能性があります。(とはいえ、性風俗店のサービス内容次第では、慰謝料が発生しないケースもあります。)
今回の事件は、夫婦が離婚した後に、元妻が元夫に対して、離婚に至ったのは元夫の性風俗店の利用などが原因であるとして慰謝料を請求をした事案です。
そして、元夫が性風俗店のポイントカード等を所持していたことをもって、元夫が性風俗店を利用していたかどうかが審理されました。
本判決の内容は以下のとおりです。
(東京地裁令和3年11月29日判決 ウエストロー・ジャパン搭載)
証拠によれば,被告が原告との同居中に,自己の財布の中に,風俗ヘルスのポイントカード,高級ソープランドの会員証,ホテルヘルスのスタンプカード及びピンクサロンの未使用の割引券を所持していたほか,居宅において,別の風俗店のメッセージカードをごみ袋に投棄していたこと,さらに,原告との別居後において,上記ピンクサロンの使用済み割引券を被告が居宅内に所持していたことが原告に発覚したことが認められる。この点,被告は,上記ポイントカード等は夫婦関係について相談した友人から冗談半分に渡されたものであり,被告が風俗店を利用したのは上記ピンクサロンの1回のみである旨を主張する。
上記ポイントカード等を所持していた理由についての被告の主張は,客観的な証拠に裏付けられたものではないが,かといって上記ポイントカード等を所持していたことから直ちに被告がこれらの風俗店を利用していたとまでは認めることができず,被告が自認する上記ピンクサロンの1回の利用を除いて,被告が風俗店を利用していたことを認めるに足りる他の証拠は存しない。
また,被告が利用した上記ピンクサロンが性的なサービスを提供する風俗店であることは被告本人も認めるところであるが(被告本人尋問),被告が実際に同ピンクサロンで性的サービスを受けたかどうか,受けたとしてそのサービスの内容がどのようなものであったかについては,これを認めるに足りる的確な証拠がない。
したがって,被告が風俗店を利用した事実は,上記の限度で認められるものの,これをもって被告に不貞行為があったとは認められず,婚姻を継続し難い重大な事由に当たるとも直ちには認めることができない。
2 本判決の重要な点
東京地裁が判断した重要な点は、以下のとおりです。
①元夫が性風俗店のポイントカード等を所持していたとしても、それだけではその風俗店を利用していたとまでは認められない。
②ピンクサロン店を一回利用したとしても、受けたサービス内容が不明である。
③ピンクサロン店を一回利用したことをもって、不貞行為があったとは認められない。
①については、証拠から事実が認定できるかという、いわゆる「事実認定」の問題です。風俗店のポイントカードや会員証を所持していれば、常識的にはその店舗を利用したと疑われますが、今回は裁判所が事実を認定できるほどの証拠とはみなされませんでした。
ただ、この辺りは裁判官によって判断が異なるものと思われます。風俗店の利用が認められたとしても、決しておかしくない内容です。
②に関しては、ピンクサロン店の利用により、どのようなサービスを受けたか不明だとしました。尋問手続きなどで、具体的なサービス内容について問題にならなかったのかと疑問に思われるところです。一般的には、ピンクサロン店ではオーラルセックスを伴いますので、そうした性的サービスがあったと認められてもおかしくありません。ここも、裁判官によって判断が異なるものと思われます。
最後に、③ピンクサロン店を一回利用したという状況では、不貞行為は認められないとされていますが、②の段階で、オーラルセックスがあったことが認められていれば、異なる判断が下された可能性もあるでしょう。
3 本判決の意義
本判決では、性風俗店のポイントカード等を所持していたとしても、性風俗店の利用があったとは認められないとされました。とはいえ、元夫側の釈明が不自然であることを裁判所も認めていますから、上記のとおり、裁判官によっては異なる判断も十分にあり得たと言えるでしょう。
本判決は、事実の認定に関して、裁判所はあくまでも証拠主義であり、一般的な常識的判断と異なる判断に至る場合もあることを端的に示すものとして、意義があるものと言えるでしょう。