GPSを用いた調査はプライバシーの侵害にあたる!旭川地裁令和6年3月22日判決

事件の概要

今回紹介する判例は、探偵業を営む被告が、原告の妻Bの依頼を受け、夫らに無断でGPS機器を取り付け、位置情報を取得し、ホテル敷地内で写真撮影を行ったことがプライバシーの侵害にあたるかが争われた事件です(ウエストロー・ジャパン搭載)。

原告らは、これらの行為がプライバシー権を違法に侵害したとして、被告に対し、民法709条(不法行為)に基づく損害賠償240万円を請求しました。

一方、被告は、

・GPSで取得できるのは車両の位置情報のみであり、個人の特定にはならない

・調査目的が正当であり、調査方法としても合理的である

・ホテル敷地内は不特定多数が出入りできるため、撮影行為に違法性はない

と主張しました。

これに関して、旭川地裁は判断をしました。

時系列

今回の事件の流れは以下のとおりです。

令和4年3月12日

  • 夫の妻Bが被告(探偵業者)に調査を依頼。
  • 調査内容:夫の行動確認、不貞関係の有無、関係者の特定など。
  • 被告がGPS機器をレンタルし、夫および特定の異性関係者の車両に取り付けることを決定。

令和4年3月14日

  • 被告が原告X1(夫)の車と原告X2(不貞相手?)の車にGPS機器を無断で取り付ける
  • 以降、同年4月5日までGPS機器が取り付けられていた。

令和4年3月14日~3月20日頃

  • 被告がGPS機器を利用して夫の車・X2の車の位置情報を取得し、行動確認調査を実施。
  • 調査結果を報告書にまとめる。

令和4年3月15日

  • 被告がGPS情報を基に北海道滝川市のaホテルでX2の車を特定。
  • ホテル敷地内でX2の車の駐車の様子や夫らの外貌を撮影。

令和4年4月5日

GPS機器の取り付けが終了

旭川地裁令和6年3月22日判決の判断

旭川地裁は、以下の論点について、それぞれ判断を下しました。

① GPSを利用した位置情報の取得はプライバシー侵害にあたるか?

裁判所は、GPSを用いた位置情報の取得について、

自己の位置情報や移動履歴は、他者にみだりに開示されたくない個人情報といえるからプライバシーにかかわる情報といえる

と述べ、位置情報の取得自体がプライバシーの侵害となることを認めました。さらに、

被告は、本件機器によって原告らの使用車両の位置情報や移動履歴を把握することにより、原告らの位置情報や移動履歴の相当程度を把握する意思を有していたと認められ、・・・を総合すれば、実際にこれを把握していたと認められる

と指摘し、実際に探偵業者が位置情報を取得し、プライバシーの侵害行為を行なっていたと判断しました。

また、夫の妻Bが依頼者であることを踏まえても、

原告X1(注:夫のこと)がB(注:妻のこと)に対して原告X1車の位置情報及び移動履歴を把握することを了承していたと認めるに足りない

とし、たとえ配偶者であっても、GPSを用いた位置情報の取得には本人の承諾が必要であるとの見解を示しました。

② 探偵業務としての正当性について

一方、被告は、浮気調査の目的が正当であり、GPSの使用も調査の範囲内であると主張しましたが、裁判所は、

調査目的は正当なものと評価できるものの、本件機器を原告らの使用車両に設置して、これにより位置情報及び移動履歴を取得するなどという本件各行為は、その調査方法として相当性を欠くものであったと評価せざるを得ず、被告の主張を採用することはできない

と述べ、目的が正当であっても手段が相当性を欠く場合は違法になるとの判断を示しました。

③ 損害額について

原告は240万円の損害賠償を請求しましたが、裁判所は以下の点を考慮し、プライバシー侵害の程度は比較的低いと判断しました。

本件機器が設置されたのは原告らの各使用車両であり、直接的に得られる情報は同車両の位置情報及び移動履歴であって、その情報の大部分は公道上等からも確認し得るものであること

原告らの所持品等にGPS機器を設置して原告らの所在等を直接把握する方法に比較すれば、その侵襲性が高いとはいえないこと

本件機器の設置期間は令和4年3月14日から同年4月5日までの23日間であり、長期にわたるとまではいえないこと

そのため、夫が請求する慰謝料については、20万円を限度として認めました。

まとめ

本件では、GPSを用いた行動追跡がプライバシーの侵害にあたるかが争点となりましたが、裁判所は、

・位置情報は個人情報であり、無断取得はプライバシー侵害

・配偶者の承諾があっても、本人の了承がなければ違法

・探偵業務の目的が正当であっても、手段が不適切ならば許されない

と判断しました。

一方で、

・位置情報の取得が公道上で確認できる程度であった

・長期間ではなく、侵襲性も比較的低い

という点を考慮し、慰謝料の金額は請求額よりも大幅に減額されました。

この判決は、GPSを用いた調査が違法となる可能性を示唆しており、今後の探偵業務の在り方にも影響を与える重要な判断といえるでしょう

また、不貞の証拠収集のためにGPSを配偶者のカバンや車両にひそめて追跡するというあり方は実際に多く行われていますが、配偶者が実施する場合でも、それが違法になりうる可能性を示すものとも言えます。特に、旭川地裁は、例えば配偶者の所持品にGPSを忍ばせる場合は、違法性の度合いが大きいことを述べていますので、実際によく行われているそうした方法が、配偶者への権利侵害となる可能性が高いことについて、注意が必要と言えるでしょう。

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