写真送付と手紙のやり取りという面会交流が望ましいとした東京高裁令和5年7月27日決定

今回ご紹介する判例は、3ヶ月に1回の頻度で子供の写真を送付するほか、父親と子供の間で手紙のやり取りを行うことが有効であるとした東京高裁令和5年7月27日決定(ウエストロー・ジャパン搭載)です。また、本件は別居時に父親による子供の連れ去りがあり、それが子供の気持ちに影響を及ぼしているという事情があります。

時系列

  • 父親が別居時に子供の連れ去り別居を断行。のちに法的手続により母の元に引き渡された。
  • その後、夫婦は別居状態にあり、子ども(未成年者A)は母(Y)が監護していた。
  • 父(X)が家庭裁判所に面会交流の実施を求めて申立て
  • 原審(さいたま家裁熊谷支部)は、父と子の間に間接的な面会交流を認める審判を出した
  • 父母双方がこの審判に不服として即時抗告
  • 東京高裁は、原審の判断を是認し、抗告をいずれも棄却

原審と東京高裁の判断概要

本件は、別居中の父(X)が、同居親である母(Y)との間の未成年の子(A)について面会交流の実施を求めたものです。さいたま家庭裁判所熊谷支部は、一定の条件を設けた上で、原審申立人Xと子どもとの間で手紙や写真などを通じた間接的な面会交流を認める審判を出しました。

原審は、面会交流の在り方について次のように判断しています。

(さいたま家裁熊谷支部 令和5年3月29日決定)

相手方において,3か月に1回の頻度で申立人に対して未成年者の写真を送付するほか,申立人と未成年者との間で手紙等のやりとりを行うという間接的な面会交流を実施することが,現段階における当面の面会交流の方法としては有効かつ相当である

この判断に対し、父母の双方がそれぞれ不服を申し立てましたが、東京高等裁判所は、両者の抗告をいずれも棄却し、原審の判断を維持しました。

父の主張と裁判所の判断

原審申立人である父Xは、面会交流の必要性について次のような主張を行いました。

  • 面会交流の可否を判断する上では、非監護親である自身と子どもとの関係性が最も重要であり、その実態把握には実際の面会場面の観察が不可欠である。
  • 面会交流は、親族間の葛藤に関わらず、子の健全な育成のために行われるべきであり、葛藤を理由に制限すべきではない。
  • 母親Yの精神的影響を懸念する意見は根拠に乏しく、Xによる交流が子や母に重大な悪影響を与えるとするには証拠が不十分である。

ところが、本件では、別居の際に父親による連れ去りがあった事例でした。これに関して裁判所は大いに問題視したようです。

(東京高裁令和5年7月27日決定)

未成年者は、本件連れ去りを契機とした一連の騒動の中で、継続的に強い不安感や心理的な負担感を感じてきたものと認められ、現時点においても、原審申立人と会うことにより広島に連れ戻されることに関して不安を感じ、原審申立人との面会交流に関して漠然とした不安感を持っているものと認められる。そうすると、本件連れ去りを契機とした一連の騒動が未成年者に及ぼした影響を軽視することは相当ではなく、現時点において、一定期間、手紙や写真等による交流を先行させて行わないまま、原審申立人と未成年者とが直接の面会交流やオンラインの通信手段や電話等を利用した間接交流を実施した場合には、未成年者の上記のような不安感を強め、未成年者の心情の安定を害するおそれが相当程度あるというべきである。

こうした事情をもとに、東京高裁は、以下の点を重視しました。

  • 本件では、Xによる子の連れ去りが発生しており、子の精神状態に一定の影響を与えた可能性がある。
  • 子どもは面会交流の話題になると強い不安感を示しており、家庭裁判所調査官との面接時には拒否反応を見せていた。
  • 面会交流場面の観察が未実施である現状では、子の福祉の観点からも、慎重な準備段階が必要である。

こうした点から、父Xの抗告は退けられました。

母の主張と裁判所の判断

一方、母Yは次のような点を述べ、写真送付や手紙のやり取りすら認められるべきではない旨を主張しました。

  • 父Xは婚姻費用の支払いを怠っており、子の福祉に配慮する姿勢が見られない。
  • 子どもは父やその親族に対し不安感や恐怖心を抱いており、精神的な安定を保つには直接・間接の面会交流を制限する必要がある。
  • 自身は医師により適応障害と診断されており、Xとの関わりにより心身の不調をきたすため、子の監護にも支障が生じるおそれがある。

これについて、東京高裁は、Yの心情や医療診断についても一定の理解を示しましたが、原審の面会交流方法(写真・手紙等を通じた間接交流)が過度の負担になるとは言えず、以下のように述べました。

(続き)

同居時の原審申立人の未成年者に対する関わり合いに問題は認められず、長期的な視点でみれば、未成年者が父である原審申立人の愛情も感じながら成長し、物心両面で必要な時に必要な支援が受けられることは未成年者の利益に適うことであって、今後は、原審相手方による未成年者の安定した監護の継続を維持しながら、オンラインの通信手段を利用した間接交流、ひいては直接交流が行える状態になるようにするための準備を、段階的に実施していくことが必要かつ相当であるというべきであるから、まずは原審申立人に対して未成年者の写真を送付したり、原審申立人が未成年者に対して送付する手紙等を仲介したりするといった限度で、未成年者の父である原審申立人と未成年者の関係を遮断することなく、未成年者の心情等に配慮しつつ、面会交流の充実に向けた準備を進めていく必要があるというべきである。

その際、原審申立人が、未成年者との継続した面会交流を望んでいることに鑑みれば、原審相手方の上記主張を考慮し、一件記録を精査しても、原審申立人が、今後、未成年者に宛てて送付する手紙の中で、子の福祉の観点から配慮に欠ける内容を記載したり、直接又は間接的に未成年者に原審相手方に対する悪印象を持たせるような内容を記載したりするおそれが具体的にあると認めることはできない。また、原審申立人が未成年者に宛てた手紙等を送付する先については、原審相手方が指定することができるのであり、原審相手方代理人弁護士の事務所に限らず、例えば第三者機関等の第三者の協力を得ることも考えられるのであるから、その送付先の指定が著しく困難であるということもできない。さらに、本件実施要領記載の面会交流の限度であれば、客観的にみてこれに応じる負担感は必ずしも大きいものとはいえず、長期的な視点からの面会交流の重要性に鑑みれば、そのような負担を原審相手方に甘受させるのもやむを得ないというべきであって、原審相手方が感じる心理的な負担感やストレスの程度によっては、医療機関の継続的な受診や投薬治療を含めた医師による適切なサポートを受けることも検討されるべきである。

すなわち、東京高裁は、

・長期的には、父親と子供の交流は子供の利益に適う。

・手紙の送付において、父親が配慮にかける内容を送付する恐れがあるとは言えない。

・3ヶ月に一回の写真送付等において母親が負担を感じるとしても、面会交流の重要性に鑑みれば、母親はそれを甘受すべきである。

と述べ、間接交流の実施の重要性を強調し、それにより負担が生じるとしても、母親はそれを忍ぶべきである旨を述べました。

そのため、母Yの抗告も棄却されました。

本決定の意義

今回の決定は、面会交流において「子の福祉」を最優先に据えたうえで、無理なく関係性を構築していくべきという実務上の指針を改めて示すものです。家庭内の対立や過去の経緯があっても、子どもにとっての安定的な環境と親子関係の維持の双方を目指すべきであることが、裁判所の姿勢からはうかがえます。

また、親双方の心情に配慮しつつも、調整可能な範囲で交流手段を模索していくという判断は、他の同種事案においても重要な先例となるでしょう。

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