離婚裁判で財産分与額が確定した後、新たな財産が見つかったことを理由として再度の財産分与の申立てはできない! 重要判例解説:東京高裁令和4年3月11日決定

1 事案の概要

今回ご紹介する判例は、離婚判決の際は財産分与の判断の対象とされなかった、元妻の財産(有限会社の出資口数等)について、元夫が改めて財産分与を求める申立てをしたところ、それを棄却した東京高裁令和4年3月11日決定です。

2 東京高裁の判断について

東京高裁令和4年3月11日決定(家庭の法と裁判50号69頁)は、本件について、以下のように述べて、元夫の申し立てを棄却しました。

(東京高裁令和4年3月11日決定)

前件判決(注:離婚判決のこと)は,本件申立て理由とされた財産についても,財産分与の対象財産の有無及び内容において審理し,「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して」財産分与の額及び方法を定めたものであって,たとえ当事者が,前件判決において,本件申立て理由に係る財産が財産分与の対象となる旨の認識を有しておらず,あるいは同財産の存在について何らの主張立証をしていなかったとしても,これらの財産について重ねて財産分与の申立てをすることはできないといわざるを得ない。

3 判断の理由について

この判断の理由として、東京高裁は、下記のように詳細な一般論を述べ、今後の先例となるべき論理を展開しました。

・・・離婚における財産分与の制度は,夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し,かつ,離婚後における一方の当事者の生計の維持を図ることを目的とするものであるところ,上記民法が規定する財産分与請求権は,1個の私権たる性格を有するものではあるが,その範囲及び内容が不確定・不明確なもので,協議あるいは審判等によって具体的内容が形成されるものと解される(最高裁昭和53年(オ)第321号同55年7月11日第二小法廷判決・民集34巻4号628頁参照)。また,離婚の訴えに附帯して財産の分与の申立てをする当事者は,分与を求める額および方法を特定して申立てをすることを要するものではなく,単に抽象的に財産の分与の申立てをすれば足りるものと解される(最高裁昭和39年(オ)第539号同41年7月15日第二小法廷判決・民集20巻6号1197頁参照)。
上記財産分与の申立てに対し,裁判所は,清算的財産分与として,当事者双方がその協力によって得た財産の額を考慮事情として認定し,当事者の財産形成の寄与の程度のほか,その他一切の事情を考慮して(一切の事情として,補充的に慰謝料的財産分与や扶養的財産分与を考慮することもある。),分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めることになる。この裁判手続は,離婚訴訟の附帯処分として審理される場合においても,非訟事件手続として審理されるものであるから,裁判所は,その判断において,当事者の主張に拘束されることはなく,財産分与の申立てをしていない当事者に対して財産の分与をすることもできる。
以上の財産分与に関する民法の規定及び判例法理等に照らすと,財産分与請求権は,当事者双方がその協力によって得た一切の財産の清算を含む1個の抽象的請求権として発生するもので,清算的財産分与の対象となる個々の財産について認められる権利ではないのであるから,裁判所が,その協議に代わる処分の請求に基づいて,財産分与の額及び方法を定める内容の判決等が確定したときは,その効力として,当事者双方がその協力によって得た財産全部の清算をするものとして具体的内容が形成されるものである。したがって,上記判決等が有効に確定したものである限り,当事者は,上記判決等において考慮されていない財産があることを理由に,当該財産について,重ねて清算的財産分与を求めることはできないものと解するのが相当である。

つまり、裁判所は当事者の具体的な主張に拘束されることなく、財産分与について判断することができる以上、裁判所が財産分与の額等を確定した時点で、当事者の全ての財産については清算されたものと考えることができる、ということです。

4 本決定の意義

本決定において、抗告人が主張する財産は、そもそも離婚判決の確定後に新たに明らかになった財産ではないと判断されています。しかし、本決定は、判決確定後に明らかになった財産であっても、判決により財産分与額が確定した後では再度の財産分与の申立ては認められないと判断した点で意義があるといえます。

したがって、離婚裁判の当事者は、判決確定後に再度の財産分与の申立てはできないという認識を持ち、判決確定までにしっかりと全ての財産について調査して主張しておくべきでしょう。

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