1 事案の概要
本件は、原告の夫が、3年間の米国(NY州)赴任中、その不貞相手と不貞行為を開始したもので、不貞相手は、これらの事情を知りながら原告の夫との間に子をもうけて同居し、不貞行為を米国内で終了させず、切れ目なく日本国内でも3年半不貞行為を継続した事案です。
この場合、NY州の法律が適用されるのか(NY州では不貞は不法行為に該当しません。)、日本の法律が適用されるのか(日本では不貞は不法行為にあたります。)が問題となりました。
一審(横浜地裁平成30年10月30日判決)は、婚姻関係破綻の時期はNY州滞在中であり、原告の妻としての権利侵害、婚姻共同生活平和維持の法的利益の侵害という結果発生地はNY州であるから、NY州法が適用されると判断しました。
これに対して、控訴審(東京高裁令和元年9月25日判決)は、一審と反対の判断を下し、日本の法律が適用されると判断しました。
(東京高裁令和元年9月25日判決 判タ1470号75頁)
不法行為の準拠法は,加害行為の結果発生地である(通則法17条)。
・・・
本件においては,最も重大な結果が発生した地として結果発生地となるのは,NY州ではなく,日本と解するのが相当である。
前記認定事実によれば,・・・第1審被告Y2(注意:不貞相手のこと)が第1審被告Y1(注:夫のこと)の不貞行為の相手方となる行為は,第1審被告Y1のNY州滞在中に終了せず,切れ目なく日本においても継続して行われた。・・・NY州における結果発生期間は約2年3箇月間であってこれ以上増えることはないのに対し,日本における結果発生期間は約3年6箇月間であって今後も時の経過とともに増加していくという関係にある。
以上の点を総合すると,日本において発生した結果は,NY州において発生した結果よりも,明らかに重大である。よって,準拠法は日本法である。
つまり、控訴審は、NY州と日本において行われた一連の一個の不法行為により、複数の結果発生地が生じていると判断し、その上で、複数の結果発生地がある場合における不法行為の準拠法は、最も重要な結果が発生した地の法であるから、本件においては日本の法律が適用されると判断しました。
2 準拠法について
法の適用に関する通則法17条は、以下のように定めています。
(法の適用に関する通則法17条)
不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法による。
したがって、加害行為と結果発生が異なる国で発生した場合では、結果が発生した国の法律が適用されることになります。
そのため、本件においても、結果が発生した国がどこであるかという点や、結果が複数発生している場合は、どの国の法律を適用するべきかが問題となりました。
3 東京高裁の判断について
東京高裁は、まず当該不法行為は、日本における不法行為とNY州における不法行為を分割して2個の不法行為があったと解するべきではなく、NY州及び日本において行われた1個の一連の不法行為と判断しました。
そして、加害行為の結果の発生については、NY州における結果発生期間は約2年3箇月間であってこれ以上増えることはないのに対し、日本における結果発生期間は約3年6箇月間であって今後も時の経過とともに増加していくという関係にあるという点などから、最も重大な結果が発生した国は日本であると判断しました。
そして、最も重大な結果が発生した国が日本である以上、その準拠法は日本法と解するのが相当であると判断しました。
4 本決定の意義
不貞行為が民事上の賠償請求の原因にならないという国内法制を採用する国や地域が多いため(基本的に、不貞行為は不法行為に該当しないとするのが世界的なスタンダードであり、日本とは反対です。)、不貞行為が複数の国を跨いで継続的に行われていた場合、どこの国の法律が適用されるかで結果が大きく変わることになります。
不貞行為は継続して行われるものであり、このような国を跨いだ不貞行為も十分起こり得るため、その際の判断を示したという意味で本件は意義があるといえます。