【面会交流】3ヶ月に1回の頻度で写真と手紙を送付するとされた事案!令和5年7月17日東京高裁決定

今回紹介する裁判例は、父親から申し立てられた面会交流事件です。申立人である父親(夫)と子供の関係は問題なかったものの、父親による子供の連れ去り行為があり、その後、子供は母親の元に戻ったものの、子供と母親(妻)の精神状態に負の影響が認められるという事案です。結論として、裁判所は、直接交流やオンラインでの間接交流を認めず、3ヶ月の1回の頻度で母からの写真送付と父からの手紙送付のみを認めました。

まずは、具体的な事実関係から見ていきましょう。

1 父親の連れ去りによる、子供と母親への悪影響

(1)連れ去り別居

本事件は、別居時に、子供の主たる監護者ではなかった父親が、子供を連れ去り別居したことで、関係性が大きく傷ついたことが背景にあります。

別居時の状況として、原審が認めたのは以下の通りです。

(さいたま家裁熊谷支部令和5年3月29日決定 ウエストロー・ジャパン)

申立人(注:夫ないし父のこと)は,父方祖父母と相談の上,令和2年2月12日頃,未成年者を広島市内の申立人の肩書住所地にある申立人の実家に連れて行くことを計画した。
申立人は,同月19日,相手方が迎えに行く前に保育園に未成年者を迎えに行き,埼玉の自宅に戻るつもりはなかったにもかかわらず,あえて「祖母の三回忌につき広島に帰ります。…23日戻り予定」との手紙を自宅に残し,父方祖父母とともに未成年者を連れて申立人の実家に行き,相手方と別居するに至った(以下,申立人が別居の際に未成年者を連れていったことを「本件連れ去り」という。)。
相手方は,本件連れ去りの当日,未成年者が申立人に連れ去られたことに気付き,申立人の携帯電話に電話をかけたところ,電話にでた父方祖父は,未成年者を返してくれないかと問う相手方に対し,「おお,返さんけえ,警察と弁護士に言え言うんよ。」,「このクソアマが。」,「馬鹿野郎,ほんまぶっ殺すぞ。」などと述べた。

このように、父親による本件連れ去りが極めて不穏当な形で行われたことが認定されています。

この後、母親である妻側は、監護者指定事件やその保全処分を申し立て、いずれも母親側に監護権が認められました。しかし、父親である夫側は、任意で子供を返さなかったようです。強制執行も成功しなかったことから、最終的には人身保護請求手続において、母親は子供を受け取る形になりました。

別居が令和2年2月19日で、母親が子供を受け取ったのが令和2年11月19日とのことですので、9ヶ月間にわたり、子供が父親と母親の激しい抗争に巻き込まれる形になったようです。

(2)子供の様子

母親が子供を受け取った後の子供の様子について、原審は以下のように叙述しています。

(続き)

・・・相手方は,未成年者の引渡しを受けた令和2年11月19日以降,埼玉の自宅で未成年者と同居し,近隣に住む母方祖父の補助を受けながら未成年者を監護養育している。未成年者は,相手方との同居後しばらくの間は,相手方から離れたがらず,相手方がトイレに行ったり,2階に洗濯物を干しに行ったりするだけで不安がり,相手方についていくなど,不安な様子が見られたほか,令和3年の秋頃までは外出時に「またこの家に戻ってこられるよね。」と確認することもあった。相手方の監護状況に特に問題はない。
未成年者の健康状態に問題はなく,その発育状況は良好である。未成年者は,令和3年1月から保育園に通園しており,入園後約2週間は登園時に泣くこともあったが,すぐに保育園における生活に適応し,保育士や補助の職員に懐いており,他の児童とのかかわりにも問題は見られず,恐怖症性不安障害と思われる症状も見られない。

このように、母親が子供を引き受けた直後は、子供の健康状態や発育状態は良好であったことが認められています。とはいえ、母親がトイレに行ったり、洗濯物を干しにいく間、子供は、母親の元から離れることに対して不安を感じていた様子が見受けられます。

また、家庭裁判所の調査においては、父親に対する抵抗感が認められたようです。

(続き)

家庭裁判所調査官は令和4年3月11日,未成年者(当時4歳11か月)と当庁で面接した。面接時,未成年者は,申立人や広島での生活に関する質問に対しては,覚えていないと回答したり,質問とかみ合わない返答をしたりすることもあり,実際に記憶が曖昧であることに加え,話をすること自体に抵抗がある様子がうかがえた。面会交流に関し,調査官から「広島のパパ(申立人のこと)が,Bくんとお話したいなって言ったらどうかな。」と尋ねられた際には,未成年者は,小声で「広島に持って帰るからやだ。」と答え,テレビ電話等での通話を話題にしても「(父が)来ちゃうから。」と述べ,直後にままごとセットを手に持って「なすは一番きらーい。ハンバーグは好き。」と言って話題を変えるなどした

このように、家庭裁判所の調査官調査では、子供が父親に対して、父親の実家に連れて行かれることの不安を持ち、父親に関する話題に対しての抵抗感が認められました。

(3)母親の精神症状

さらに、母親である妻自身は、精神面の異常を訴え、クリニックにかかったことが認定されています。

(続き)

相手方は,令和3年10月29日,つつじメンタルホスピタルを受診し,適応障害との診断を受け,抗不安薬の処方を受けたが,継続的な通院はしていない。同医院のD医師作成の診断書には適応障害「にて当院通院中。外来にて治療を行っている。」との記載がある。
相手方は,令和4年10月20日,池沢神経科病院を受診し,適応障害との診断を受けたが,継続的な通院はしていない。同病院のE医師作成の同日付け診断書兼意見書には「本日(令和4年10月20日)当院初診…離婚に関わる聞き取りにおいて,過呼吸,動悸,手の震えを認め心理的負担が大きい。今後の見通しは難しいが,現在の精神状態では面談,面会,電話連絡など,夫を想起させる離婚調停の話し合いが困難であると考えられる」との記載がある。同医師は,相手方から「より具体的な場面の記載希望」を受け,改めて相手方から状況を確認し,同年11月24日付け診断書兼意見書を作成した。同診断書には「令和4年10月20日当院初診…離婚に関する聞き取りにおいて,夫の話になると,過呼吸,動悸,手の震えを認め,心理的負担が大きい。現在の精神状態では,夫を想起させる場面(面談,面会,電話連絡,インターネットを通じた面会)への対応は困難であると考えられる。具体的には,夫と子の交流場面に立ち会うことや,夫と子の交流の場に子を送迎する場面などがあげられる。」との記載がある。

こうした、子供と母親がいずれも精神的に不安定な状況下で、①父親と子供との直接交流が認められるか、②間接交流に留まるべき場合、どのような内容であれば認められるか、裁判所が判断をすることになりました。

(4)原審(さいたま家裁熊谷支部)の結論

原審である、さいたま家裁熊谷支部は、父親と子との直接交流は認めず、母親が父親に対して3ヶ月に1回、子供の写真を送付すること、そして父親は子供に対して手紙を送付できること(間接交流)を認めました。東京高裁も、結論として、さいたま家裁熊谷支部の判断を踏襲しました。

(続き)

相手方は,年2回の写真の送付以外の面会交流を一切拒否しているものの,同居時の申立人の未成年者に対する関わり合いに問題は認められず,長期的な視点でみれば,未成年者が父である申立人の愛情も感じながら成長し,物心両面で必要な時に必要な支援が受けられることは未成年者の利益に適うことであって,今後は,親権者である相手方による未成年者の安定した監護の継続を維持しながら,オンラインの通信手段を利用した間接交流,ひいては直接交流が行える状態になるようにするための準備を,段階的に実施していくことが必要かつ相当であり,具体的には,・・・相手方において,3か月に1回の頻度で申立人に対して未成年者の写真を送付するほか,申立人と未成年者との間で手紙等のやりとりを行うという間接的な面会交流を実施することが,現段階における当面の面会交流の方法としては有効かつ相当である。

2 東京高裁の判断

東京高裁は、原審であるさいたま家裁熊谷支部と同様、直接交流や、オンラインでの間接交流は認めませんでした。特に、連れ去り騒動により子供に与えた影響を強く懸念したようです

(東京高裁令和5年7月27日決定 ウエストロー・ジャパン搭載)

未成年者は、本件連れ去りを契機とした一連の騒動の中で、継続的に強い不安感や心理的な負担感を感じてきたものと認められ、現時点においても、原審申立人と会うことにより広島に連れ戻されることに関して不安を感じ、原審申立人との面会交流に関して漠然とした不安感を持っているものと認められる。そうすると、本件連れ去りを契機とした一連の騒動が未成年者に及ぼした影響を軽視することは相当ではなく、現時点において、一定期間、手紙や写真等による交流を先行させて行わないまま、原審申立人と未成年者とが直接の面会交流やオンラインの通信手段や電話等を利用した間接交流を実施した場合には、未成年者の上記のような不安感を強め、未成年者の心情の安定を害するおそれが相当程度あるというべきである。

このように、東京高裁は、直接交流はできないとし、さらに間接交流を行うとしても、オンラインの通信手段を用いた間接交流すら相当でないと判断しました。

一方で、母親である妻側に、父親への写真の送付や手紙の受領程度のことは受忍するよう求めました。

(続き)

同居時の原審申立人の未成年者に対する関わり合いに問題は認められず、長期的な視点でみれば、未成年者が父である原審申立人の愛情も感じながら成長し、物心両面で必要な時に必要な支援が受けられることは未成年者の利益に適うことであって、今後は、原審相手方による未成年者の安定した監護の継続を維持しながら、オンラインの通信手段を利用した間接交流、ひいては直接交流が行える状態になるようにするための準備を、段階的に実施していくことが必要かつ相当であるというべきであるから、まずは原審申立人に対して未成年者の写真を送付したり、原審申立人が未成年者に対して送付する手紙等を仲介したりするといった限度で、未成年者の父である原審申立人と未成年者の関係を遮断することなく、未成年者の心情等に配慮しつつ、面会交流の充実に向けた準備を進めていく必要があるというべきである。

このように、東京高裁は、同居時の父親と子供の関係性に問題がなかったことから、長期的な視点で、いずれは直接交流を行えるように準備することが必要と述べました。そして、その準備を段階的に実施していくために、まずは写真と手紙のやり取りを行うよう、当事者に求めるに至りました。

3 今回の判例の意義

今回の東京高裁決定から、面会交流を行うに際しては、子供の心情に配慮することが何よりも優先されることが分かります。一方で、東京高裁は、同居時の関係性に問題がなかった父親と子供の関係性を健全な形で維持することの重要性も否定していません。むしろ、いずれは直接交流を行うべきことを宣言していることは重要な視点と言えるでしょう。

つまり、面会交流の条件を決める際には、①直接交流を行い、非監護親との健全な関係性を維持する必要があることと、②無理やり会わせることにより子供の心情に悪影響を及ぼさないよう配慮する必要があること、の双方を踏まえなければなりません。そうした、①と②両方の必要性をうまく調整しながら条件を取り決めていくことになります。

本決定は、そうした難しい調整の舵取りの過程を丁寧に追うことができる先例として、意義があるものと言えるでしょう。

>弁護士法人プロキオン法律事務所

弁護士法人プロキオン法律事務所

弁護士法人プロキオン法律事務所(横浜・東京)は、離婚・男女問題に特化した専門事務所です。初回相談は60分無料で、平日夜間・土日も対応可で、最短で即日相談も可能です。あなたの、離婚に関するお悩みはプロキオン法律事務所(横浜・東京)にお任せください!