今回紹介する裁判例は、調停で月に1回の面会交流の条件が決まったところ、1回だけ面会交流ができなかったことを理由に間接強制が申し立てられたという事案です。秋田家裁は、面会交流ができなかったのは相互の意思疎通の問題によるとして、申立てを認めませんでしたが、仙台高裁秋田支部令和5年6月26日決定は、これを認めました。
1 間接強制の申立てとは?
面会交流の調停または審判において、面会交流の条件が細かく決められている場合は、子供を監護している相手が面会交流の実施に応じなかった場合に間接強制の申立てを家庭裁判所に行うことが可能です。
今回の事案では、以下のような面会交流の取り決めが、以前の調停において行われていました。
ア 毎月1回、第2土曜日の午前11時から翌日午後7時まで、1泊2日とする。ただし、毎年1月及び8月は、2泊3日以上とする。
イ 上記アで定めた曜日に実施できない場合には、第3土曜日及びその翌日に実施する。
ウ 上記イで定めた曜日に実施できない場合には、第4土曜日及びその翌日に実施する。
エ 面会交流開始時の引渡場所は、秋田市内にある債権者の母の自宅とし、債務者が未成年者らを同自宅まで連れて行き、債権者が未成年者らを同自宅まで迎えに行くこととする。面会交流終了後の引渡場所は、債権者の自宅とし、債務者が未成年者らを債権者の自宅まで迎えに行くこととする。
オ 債権者は、債務者に対し、面会交流時に緊急事態が発生した場合には、債務者に電話やラインなどで連絡することを約束する。
上記の取り決めを見ると、①日時が毎月第2土曜日の午前11時から午後7時という形で明確になっていること、②子供の引き渡し場所が、妻(または元妻)の母の自宅という形で明確になっていることが挙げられます。
このように、面会交流調停の取り決めにおいて、義務の内容が明確になっている場合は、その義務違反があった場合に間接強制ができるようになります。
今回の決定でも、その点が述べられています。
(仙台高裁秋田支部令和5年6月26日決定 ウエストロー・ジャパン)
面会交流について債務者の給付の意思が表示された調停調書の記載は、執行力のある債務名義(確定した審判)と同一の効力を有するところ(家事事件手続法268条1項、75条)、本件調停は、別紙の調停条項のとおり、毎月1回、原則として第2土曜日の午前11時から翌日午後7時までの面会交流については、面会交流の頻度、日時、各回の面会交流時間の長さ及び未成年者らの引渡方法等が具体的に定められているから、相手方(債務者)がすべき給付の特定に欠けるところがなく、その給付について、間接強制の方法により履行を強制することができると解される。
具体的な間接強制は、不履行がある度に、相手に一回数万円を支払わせることを裁判所に求める形をとります。本件では、妻(または元妻)が申立人で、夫(または元夫)が相手方となっていました。夫側が子供の監護を行っていたためです。
ただし、間接強制の申立てが、道徳的見地から不合理である場合などは、権利の濫用として認められないことがあります(「過酷執行」と呼ばれ、申立てが却下されます。)。
実は、原審である秋田家裁は、①今回面会交流ができなかったのが、面会交流の条件が決まった翌月の1回のみであること、②その後は毎月面会交流が行われていること、③面会交流ができなかった月に関しても、お互いの意思疎通に問題があり、夫(または元夫)のみに非があるわけではないこと、などを理由として、間接強制の申立てが「過酷執行」にあたるとして、申立てを却下しました。
しかし、仙台高裁秋田支部はこれを覆したのです。
2 仙台高裁秋田支部の判断
仙台高裁秋田支部の判断は以下のとおりです。
(仙台高裁秋田支部令和5年6月26日決定 ウエストロー・ジャパン)
・・・相手方(注:夫(または元夫))は、令和4年12月10日と定められていた面会交流を、自らの意思に基づき支障なく履行することが可能であったにもかかわらず、その次の令和5年1月の面会交流をめぐる抗告人(注:妻(または元妻)との交渉が、自分の思いどおり進展しないことを理由に、実施しなかったものであるから、調停条項の定める義務を相手方が履行しなかったと評価するのが相当であり、また、これに対して抗告人が履行を求めて間接強制の申立てをしたからといって、それが過酷執行や権利濫用に該当するとみることは困難である。なお、相手方は、・・・のとおり、令和5年1月以降は、本件調停で定められた抗告人と未成年者らの面会交流を履行しており、父親として子らの福祉に配慮していることを評価すべきであるが、そのような事情を斟酌したとしても、前記の認定が変わるものではなく、本件の事実関係においては、間接強制決定をすることを妨げる理由は認められない。
仙台高裁秋田支部は以上のように述べ、①面会交流ができなかったのは、やはり義務者である夫(または元夫)の意思によるものであること、②実施できなかったのが一回であり、その後は面会交流を履行している事実があるとしても、間接強制の決定を否定する理由にはならない、としました。
面会交流ができなかった事情に関しては、秋田家裁と仙台高裁秋田支部の間で認識が異なるようですが、このあたりは事実認定の問題と言えるでしょう。
そうすると、今回の仙台高裁の判断で重要なのは、たった一回の不履行であり、その後は誠実に面会交流に応じていたとしても、間接強制の申立ては認められるということだと言えます。
3 一回あたりの間接強制金は2万円
ちなみに、結論として、仙台高裁秋田支部は、夫(または夫)が今後面会交流を実施しなかった場合において支払わなければならない金額(間接強制金と言います。)を、2万円としました。
(続き)
以上を前提に、間接強制金の額について検討すると、相手方は、就労はしていないが、年額330万円の不動産賃貸収入により未成年者らを含む世帯の生計を維持していること、・・・のとおり、令和4年12月の面会交流についての給付義務を怠ったものの、本件間接強制申立て後の令和5年1月以降は、面会交流についての義務を履行しており、相手方代理人も今後の面会交流の円滑な実施に向けて調整を図っていることがうかがわれるなど、現時点では、相手方がその義務を継続的に履行することが相応に期待できることなどの事情に照らすと、本件について履行を確保するに足りる間接強制金の額は、未成年者1人の不履行1回につき2万円と定めるのが相当である。
夫(または元夫)に年額330万円の不動産賃貸収入があることが認められています。経費がどの程度かは明確ではありませんが、相応の収入力を認定しているのでしょう。一方で、結論としての金額が月に2万円というのはかなり少額です。これは、夫(または元夫)が現に面会交流に応じている実績があり、間接的に圧力をかける必要性が乏しいことが反映された結果といえます。
このように、その後面会交流に積極的に応じていることにより、間接強制金の金額が低額化するという点においても、本決定は先例としての重要な価値があると言えるでしょう。