LINEのやり取りでも不貞慰謝料の和解契約が成立する!重要判例解説:東京地裁令和5年1月18日判決

今回紹介する判決は、不貞をした夫の配偶者である妻と、夫の不貞相手女性との間で行われたラインのやり取りが、法律上和解契約にあたるとされ、そこで約束した慰謝料200万円の請求が認められた事案(東京地裁令和5年1月18日判決 ウエストロー・ジャパン搭載)です。

1 示談に形式は決まっていない

まず、原則として、契約(合意や示談のことです。)に形式は要求されません。

契約と聞くと、多くの場合、書面でのやり取りを想像されると思いますが、それは、後から裁判になった場合の証拠化を念頭に置いたものです。したがって、口頭での合意であっても、契約として成立します。

そして、不貞慰謝料に関しても同様で、慰謝料を払ってもらいたい妻と、夫の不貞相手女性との間の合意が、口頭であっても、契約として成立します。その契約内容に基づいて妻は支払いをするように不貞相手女性に請求することが可能になります。

今回の判決では、そうした合意がLINEで行われたという点で特徴がありました。

2 今回問題となったメッセージ

今回の判決で問題とされたLINE上でのメッセージは、不貞相手女性が送信した、以下のものでした。

 今回は傷つけてしまい本当に申し訳ございませんでした。
奥様に対しての慰謝料200万円及び、
○○契約期間
(2021.2.3~2021.9.13)中の代金月額17,743円×8か月 合計141,944円を2021年9月30日迄に支払う事を約束します。
○○の退会画面も添付します。
重ねてお詫びします。

また、上記メッセージを送信する数時間前に、喫茶店で上記の内容について口頭で話し合いをしていたという事実がありました。そして、上記メッセージは妻が不貞相手女性に送るよう求めていたものでもありました。

被告である不貞相手女性は、こうしたメッセージを送ったことは認めたものの、実際には200万円もの金額を支払う余裕はなかったし、メッセージも妻に対して恐怖を感じていたため、その指示にしたがって送ったものであり、確定的に意思を表明したものではないと主張しました。

一般的に、契約というのは、契約当事者の意思表示が合致することで成立します。その際、意思表示と呼べるには、確定的なものであることが必要とされます。不貞相手女性は、LINEでのやり取りが、(書面での合意とは違い)確定的なものではないとして争ったのです。

これに対して東京地裁は以下のように判断しました。

3 東京地裁の判断

東京地裁は以下のように述べて、200万円の慰謝料を支払う契約が成立していると判断しました(下線は筆者が強調のために加えました。)。

ア これに対し被告は、慰謝料を支払う意思を有していたものの、その金額や方法については改めて検討する必要があると考えており、本件協議時における発言をもって確定的な意思を表明するものとはいえないなどと主張して本件和解契約の成立を争い、〈ア〉200万円もの高額の金銭の支払を内容とするにもかかわらず合意書等の書面が作成されていないこと、〈イ〉200万円という額が本件不貞行為に対する慰謝料としては不当に高額であること、〈ウ〉被告には200万円を支払う資力は一切なかったこと、〈エ〉本件和解契約の内容には訴外Aが契約した栄養ドリンクの代金を被告が原告に対して返還する等不合理な内容が含まれていること等の事情を指摘する。

イ しかしながら、本件メッセージの内容を見ると、何ら条件や留保を付すことなく、慰謝料200万円及び栄養ドリンクの代金(14万1944円)を令和3年9月30日までに支払うことを約束する旨記載されている上、被告自身が本件メッセージを作成して原告に送信している以上、被告において本件メッセージに記載されたとおり確定的に意思表示したというほかない

ウ 被告の指摘する各事情についてみても、〈ア〉本件和解契約の内容は被告が原告に対して慰謝料等を支払うという内容であって、特段複雑な内容でもない上、本件メッセージにより意思内容が明確に示されていることを踏まえると、合意書等の書面が作成されなくとも意思表示がされたと認定するに支障はないというべきである。〈イ〉また、本件和解契約において合意された慰謝料額は200万円であるところ、被告において認めた本件不貞行為の内容が1回に留まることを考慮すれば高額であるとはいえるが、被告において原告との間の紛争を解決するために高額の慰謝料の支払を約すること自体が否定されるものではないから、本件和解契約の成立を左右する事情とは認められない。〈ウ〉さらに、被告において約200万円の慰謝料等を支払う具体的な目途を有していなかったとしても、管理職(課長)として定まった勤務先を有する被告において、借入等の方法により同程度の金銭を調達することは十分可能であったというべきである。〈エ〉そして、訴外Aが購入した栄養ドリンクの代金について被告が返還すべき法的義務を負わないとしても、被告の勧誘に基づいて訴外Aが購入している以上、これを不要と考えた原告の求めに応じ、被告が代金相当額を被告に支払う旨約することも特段不合理とは言えない。

今回当事者間で約束された内容は、主には200万円の慰謝料を支払うというものでした。これは、内容としてはとてもシンプルであり、明確です。また、今回は女性側がメッセージを送信していることも重視されています。例えば、妻が提示した条件に対して、「わかりました。」と述べているのではなく、今回は、不貞相手女性自身が、具体的な条件面をLINEで記載をしているのです。

そうした事情から、東京地裁は、書面などにより改まった形式でのやり取りがなくとも、女性自身が確定的に意思表示をしたものとして認めました。つまり、LINEでのやり取りも含めて、和解契約が成立したものと判断したわけです。民法では、意思表示の合致があれば、契約は成立します。今回の判断は、そうした民法の基本的なルールに則った判断と言えるでしょう。

4 本判決の意義

昨今、コミュニケーションのツールとしてLINEを利用するのが一般的となっています。裁判実務を扱っていると、多くのケースでこうしたLINEでのやり取りを証拠提出するようになりました。

LINEは、口頭でのコミュニケーションに近いですが、口頭とは違い、形に残るものです。つまり、証拠として残るということですね。

今回の判断は、口頭でのコミュニケーションツールに準じたLINEでのやり取りであっても、書面での契約に準じて、契約の成立を示すものになることを改めて認識させられるものでした。また、一方で、LINEが口頭と違い、形に残り証拠になりうることを再認識させたものとしても意義があると言えるでしょう。

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