不貞が原因で離婚に至った場合、不貞相手にその分高額な慰謝料を支払ってもらいたいと考えるのが人情です。
これまでの地裁や高裁の判断も、夫婦が離婚に至っているのであれば、不貞相手に対して、離婚しない場合よりも高額な慰謝料を認めていました。
しかし、この点について、今後の傾向が変わるかもしれないという判決が最近出され話題になりました。
それが今回ご紹介する平成31年2月19日に最高裁判所第三小法廷で出された判決です。
事案の概要
この事案の概要は以下のようなものです。
夫は他の女性と平成21年6月頃から不貞関係になり、平成22年5月頃、二人の関係は妻に発覚しました。
その後、夫は相手女性との不貞を解消し、妻と同居を続けましたが、結局、妻と夫は平成26年4月頃に別居し、平成27年2月に離婚しました。
妻は、不貞行為を原因として離婚に至ったものであるとして、夫の不貞相手に対して不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料の請求を行いました。
これに対して、相手女性は、不貞行為そのものに対する慰謝料と離婚を余儀なくされたことに対する慰謝料の2つがあるところ、前者は既に時効であり、後者は不貞相手には請求することができないと主張しました。
1審2審ともにXの請求を認めましたが、最高裁判所は以下のように述べてXの請求を棄却したのです。
夫婦の一方は、他方に対し、その有責行為により離婚をやむなくされた精神的苦痛を被ったことを理由としてその損害の倍書を求めることができるところ、本件は、夫婦間ではなく、夫婦の一方が、他方と不貞関係にあった第三者に対して、離婚に伴う慰謝料を請求するものである。
夫婦が離婚するに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが,協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても,離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄である。
したがって,夫婦の一方と不貞行為に及んだ第三者は,これにより当該夫婦の婚姻関係が破綻して離婚するに至ったとしても,当該夫婦の他方に対し,不貞行為を理由とする不法行為責任を負うべき場合があることはともかくとして,直ちに,当該夫婦を離婚させたことを理由とする不法行為責任を負うことはないと解される。第三者がそのことを理由とする不法行為責任を負うのは,当該第三者が,単に夫婦の一方との間で不貞行為に及ぶにとどまらず,当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦を離婚のやむなきに至らしめたものと評価すべき特段の事情があるときに限られるというべきである。
以上によれば,夫婦の一方は,他方と不貞行為に及んだ第三者に対して,上記特段の事情がない限り,離婚に伴う慰謝料を請求することはできないものと解するのが相当である。
解説
不貞行為によって離婚に至った場合、不貞相手に対する慰謝料としては、次の2通りの主張が考えられます。
- 不貞行為そのものを慰謝料請求事由として慰謝料を請求する。離婚に至ったことは増額事由にあたる。
- 離婚したこと自体を慰謝料請求事由として慰謝料を請求する。
最高裁は、②については特段の事情がない限り請求はできないと判断しました。
したがって、今後、離婚したこと自体を慰謝料請求事由とすることはできません。
問題は①です。
不貞行為そのものを慰謝料請求事由とした場合に、離婚に至ったことは増額事由として今後も考慮されるのでしょうか。
今回の最高裁判例は、直接には②について判断したものであり(今回の事案では①は時効で請求できないことは明らかでした。)、最高裁は①についてはっきりとした判断は示していません。
しかし、今回の判断で示された「離婚による婚姻の解消は,本来,当該夫婦の間で決められるべき事柄であ」り、その責任を直ちに第三者に転嫁することはできないという理由付けは、①の場合にも共通して当てはまるものです。
また、離婚自体に対する慰謝料の請求は認められないとしながら、①で請求した場合には離婚に至ったことを増額事由として考慮し、離婚自体の慰謝料と同程度の請求ができるというのでは不合理です。
一方で、離婚に至ったということは、それだけ不貞行為そのものの悪質性や精神的損害が大きかったと評価することもできますので、全く増額事由とならないという結論にはならないと考えられます。
したがって、①の請求の場合、離婚に至ったことが全く増額事由として考慮されないわけではありませんが、その増額の程度は、離婚自体に対する慰謝料と近い額が認められることもあった従来よりもかなり低くなっていくことが予想されます。
このように、今回の最高裁の判断を分析すると、離婚に至った場合の不貞慰謝料の裁判相場が今後下がっていくことが予想されます。
しかし、実際に裁判所がどう判断していくかはまだはっきりしないため、今後の判例の集積が待たれます。
今回の記事では、わかりやすさを重視して、事案の紹介や解説部分で省略している部分も多数あります。
興味をお持ちの方は是非裁判所のHPで判決自体を確認するなどしてみてください。
弁護士のホンネ
今後の慰謝料相場の動向については判例の集積を待つしかない、という玉虫色の結論になってしまい申し訳ありません。
しかし、実務上では既に、今回の最高裁判例を引いて慰謝料が低額にとどまる旨述べる裁判官が複数出ており、私としては離婚した場合の不貞慰謝料の相場は下がっていくことは確実であると考えています。
不貞慰謝料を請求する側であれされる側であれ、最新の動向には常に注意が必要です。