別居中の私立学校学費は折半と認めた裁判!

この決定(平成26年8月27日大阪高等裁判所決定)は、別居期間中、子供の私立学校の学費を、夫婦がどのように負担し合うべきかについて論じた高裁決定です。
今後、実務において、大いに引用される可能性があり、非常に注目です。

まず、裁判所は、双方が離婚訴訟を提起している場合であっても、それだけでは夫の妻への扶養義務はなくならない、したがって婚姻費用額を減額できないと述べました。これ自体も重要な判断といえるでしょう(これが正当な考え方かどうかは大いに議論がありうるかとは思いますが)。

 夫婦は別居状態にあっても婚姻関係に基づき婚姻費用分担義務を負っているから,その一方に別居の原因につき専ら又は主として責任があり,婚姻費用の分担を求めることが信義則上許されないような特段の事情がない限り,他方はその分担義務を免れないところ,相手方(妻)に上記特段の事情は認められないから,抗告人(夫)は相手方(妻)に対し婚姻費用分担義務を負う。
抗告人(夫)は,双方が離婚訴訟を提起しており,婚姻関係が既に破綻していることは明らかであるから,抗告人(夫)の婚姻費用分担額を減額すべきである旨主張するが,婚姻期間約20年のうち別居期間は約5年にとどまること,法律上の婚姻関係が存続する限りは夫婦間の協力扶助義務を免れないことを考慮すると,抗告人(夫)が主張する事情を婚姻費用分担額の減額事由として考慮することは相当でない

そして、子供の私立学校の負担についてですが、これまでの家庭学習の指導内容にやや立ち入って、学費も婚姻費用として考慮すべき旨述べています。

長男の●●中学部入学は,抗告人(夫)と相手方(妻)が別居した後であるところ,抗告人(夫)は長男の●●高等部への進学はもちろん,中学部への入学も了承していない旨述べるが,本件記録によれば,抗告人(夫)は同居中に私立中学受験を前提にして長男の家庭学習を指導していたと認められるほか,別居後も,長男が●●中学部に在籍していることを前提に,婚姻費用を支払ってきたことが認められる。また,●●は中高一貫教育の学校であるから,中学部に在籍している生徒は,特段の問題がなければ,そのまま高等部に進学する例が多いと考えられる。したがって,中学及び高校を通じて,●●の学費等を考慮するのが相当である

実務上も、私立中学への入学を了承していないという夫の主張がよく見られますが、同居期間中の家庭内指導状況や、別居後に現に学費を負担してきたかどうかが重視される(されてしまう)ところは注目すべきでしょう。

そして、子供の私立学校の学費をどこまで負担すべきかについての判断が、以下のとおりです。

標準的算定方式においては,15歳以上の子の生活費指数を算出するに当たり,学校教育費として,統計資料に基づき,公立高校生の子がいる世帯の年間平均収入864万4154円に対する公立高校の学校教育費相当額33万3844円を要することを前提としている。そして,抗告人(夫)と相手方(妻)の収入合計額は,上記年間平均収入の2倍弱に上るから,上記のとおり標準的算定方式によって試算された婚姻費用分担額が抗告人(夫)から相手方(妻)へ支払われるものとすれば,結果として,上記学校教育費相当額よりも多い額が既に考慮されていることになる。
そこで,既に考慮されている学校教育費を50万円とし,長男の●●高等部の学費及び諸費の合計約90万円からこの50万円を差し引くと40万円となるところ,この超過額40万円は,抗告人(夫)及び相手方(妻)がその生活費の中から捻出すべきものである。そして,標準的算定方式による婚姻費用分担額が支払われる場合には双方が生活費の原資となし得る金額が同額になることに照らして,上記超過額を抗告人(夫)と相手方(妻)が2分の1ずつ負担するのが相当である。したがって,抗告人は,上記超過額40万円の2分の1に当たる20万円(月額1万6000円程度)を負担すべきこととなり,これを,上記のとおり標準的算定方式の算定表への当てはめによって得られた婚姻費用分担額に加算すべきである。

標準的算定方式というのは、いわゆる養育費・婚姻費用算定表の計算根拠となっているものです。
調停実務上、公立高校の学校教育費相当額33万円を引いただけで、それを超える学費については収入比で按分することが多かったと思います。しかし、この金額は、あくまでも平均年収の方を想定しているもので、平均年収以上の場合は、この金額を上回る金額が、標準的算定方式に組み込まれているわけです。
そして、婚姻費用を払うことで夫婦の生活水準は同等になるのであるから、プラスの学費部分は、収入比の按分ではなく、等分であるべきという点も相当に説得的です。
この裁判例の基準からすると、これまでの調停における実務運用は夫に過度の学費負担を強いていたものなのかもしれません。婚姻費用の分担に関わる際は、本裁判例は非常に重要な指針になるでしょう。

 

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