子を認知しても無効主張ができるとした最高裁

この判例(最高裁判所平成26年1月14日判決)は、婚姻関係にない男性が、女性の子を、実の子でないことを知りながら認知をしたというものです。
男性がその後認知無効の確認の訴えを提起しましたが、ここでは、実の子でないことを知りながら認知したにもかかわらず、その後それと矛盾する行動とも思える無効の主張が許されるのかが争われました。

最高裁は、次のように述べて、男性の認知無効の主張が許されると述べました。

血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は無効というべきであるところ,認知者が認知をするに至る事情は様々であり,自らの意思で認知したことを重視して認知者自身による無効の主張を一切許さないと解することは相当でない。また,血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知については,利害関係人による無効の主張が認められる以上(民法786条),認知を受けた子の保護の観点からみても,あえて認知者自身による無効の主張を一律に制限すべき理由に乏しく,具体的な事案に応じてその必要がある場合には,権利濫用の法理などによりこの主張を制限することも可能である。そして,認知者が,当該認知の効力について強い利害関係を有することは明らかであるし,認知者による血縁上の父子関係がないことを理由とする認知の無効の主張が民法785条によって制限されると解することもできない。
そうすると,認知者は,民法786条に規定する利害関係人に当たり,自らした認知の無効を主張することができるというべきである。この理は,認知者が血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした場合においても異なるところはない。

また、一人の裁判官による補足意見も挙げたいと思います。

裁判官木内道祥の補足意見は,次のとおりである。
私は多数意見に賛同するものであるが,以下のとおり,補足して意見を述べる。
認知者は,錯誤の有無を問わず,認知無効の主張をすることができないとの解釈は,文理上,成り立ちえないものではないが,明治の民法立法時における認知の無効・取消については十分な議論がなされていたとはいえず,立法者がこのように解していたか否かは必ずしも明らかではない。
私は,真実に反する認知は無効であり,真実に反する以上,認知者も錯誤の有無を問わず民法786条により認知の無効を主張することができ,真実である限り,詐欺強迫による認知の取消もできないと解する。その理由は以下のとおりである。
実親子関係が公益および子の福祉に深くかかわるものであり,一義的に明確な基準によって一律に決せられるべきであること(最高裁平成18年(許)第47号同19年3月23日第二小法廷決定・民集61巻2号619頁参照)は,認知による父子関係についても同様である。錯誤無効を認める場合,錯誤者に重大な過失があれば無効を主張できず,血縁関係についての錯誤ではない動機の錯誤であっても表示されていれば要素の錯誤となり無効を主張できるという錯誤についての法理が適用されないとする根拠はなく,これが,前記の一義的・一律に親子関係が決せられるべきとの要請に反することは明らかである。これと同様の理由により,詐欺強迫等の意思表示の瑕疵による取消ができるとの解釈にも賛同できない。
認知者が血縁のないことを知りながら認知した場合に認知無効の主張を許さないことは,子から法律上の父を奪わないという意味で子の福祉に資するということはできるが,民法786条は,子以外の利害関係人も認知無効の主張をすることを認めており,この利害関係人には,子の母,認知者の妻,認知によって相続権を害される者なども含まれる。また,同条による認知無効の主張については期間の制限も設けられてはいない。従って,認知者の無効主張を制限したことによる子の父の確保の実効性はわずかなものでしかなく,そのことをもって,被認知者の地位の不安定を除去できるものではない。本件において,被上告人に認知無効の主張が許されなかったとしても,被上告人の訴えが斥けられるにすぎず,被上告人と上告人の間の法律上の父子関係の存在を確定するものではない。現在,認知無効を主張するのが被上告人だけであったとしても,今後,新たに利害関係人が生ずることもありうるのであり,将来,被上告人以外の利害関係人から認知無効の訴えが提起されると,被上告人と上告人の間の法律上の父子関係は否定されざるをえないのである。
法律上の父子関係の成立について,民法は,夫婦の子については同法772条によって嫡出否認の訴えによってしか覆すことができない強力な父子関係の成立の推定をするものとして,血縁関係との乖離の可能性を相当程度認め,婚姻を父子関係を生じさせる器とする制度としているということができるが,婚姻関係にない男女から出生した子については,同法786条が認知無効の主張を利害関係人に広く認め,期間制限も設けていないように血縁関係との乖離を基本的に認めないものとしていると解される。
また,認知無効の訴えは血縁関係の不存在を原因とするものであり,嫡出推定を受けない父子関係について認められている親子関係不存在確認の訴えと法的には同様の機能のものであると解されるが,親子関係不存在確認の訴えについては,父からの提訴も認められているのであり,認知無効についてこれと異なる解釈をすることが均衡を得ているとはいえない。
したがって,血縁関係のないことを知って認知した認知者についても認知無効の主張を許すと解することが相当であり,前記の親子関係が一義的・一律に定められるべきであるという要請を考慮すると,一般的な子の福祉という観点からもそのように解することができる。

いわゆる、推定される嫡出子については、1年以内に嫡出否認の訴えを起こさなければ、夫は自分の子でない主張することができません。本件は、婚姻関係に「ある」男女・親子と、婚姻関係に「ない」男女・親子とが、民法上、区別されて取り扱わされている点を重視したものといえるでしょう。

 

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