合意した養育費は地方裁判所で請求できる!

この裁判例(平成26年5月29日東京地方裁判所判決)は、離婚時に夫婦間で合意した養育費の金額を、前夫に支払うよう命じたものです。通常、養育費の支払いを裁判所で決めようとするなら、養育費の金額を家庭裁判所で決めるとともに、子供が成人に達するまでという将来の分まで支払い義務があることを家庭裁判所で確定させます。
しかし、本件は、既に養育費の金額について夫婦間で合意をしていたケースでした。そこで、前妻は、通常の契約に基づく金銭請求と同じように、この養育費の請求を地方裁判所に訴えて出たのです。

裁判所は、既に養育費の金額が合意により決まっている場合について、通常の金銭請求と異なって取り扱わなければならない理由はないとして、次の通り認めました。

 原告(前妻)は,本件請求により,長女Aの養育費の請求を行うものであるが,かかる請求については,民法上の扶養請求権に基づくものであるから,その程度又は方法については,まず当事者間で協議をして定め,当事者間の協議が調わないとき,又は協議をすることができないときは,扶養権利者の需要,扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して,家庭裁判所がこれを定めることになるのが原則である(民法879条,家事事件手続法4条)。
 他方で,扶養権利者である長女Aの親権者として同人を養育する立場にある原告(前妻)が被告(前夫)との間で,長女Aを養育するために要する費用の給付について合意したときは,その合意は,私法上の合意として有効であり,これに基づいて,民事訴訟により,その給付を請求することができることは否定する理由はない

 この点,被告は,家庭裁判所において,養育費については後見的に扶養に関する処分として定めるべきものであって,後に事情変更もある事案については,特に地方裁判所において,強制執行力のある債務名義を作成することはできない旨を主張する。しかし,私法上の合意についての債務名義であっても,その内容が,養育費に関する限りは,当該の内容は,家事審判事項であるから,事情の変更があったときは,原告又は被告の申立てにより,家庭裁判所において,その取消,変更をすることができると解されるから(民法880条),被告の主張には理由がない。

さらに、ここでは、将来の養育費に関する請求ができるのかについても争いとなりました。
というのは、民事訴訟上は、将来の請求権については、「あらかじめその請求をする必要がある場合」(民事訴訟法135条)であることが必要とされます。既に払わないといけないものは、当然に裁判で請求を求めることができますが、払わなければならない事情がまだ現に生じていない将来の請求については、こうしたハードルがあるのです。

しかし、この点についても、裁判所は以下のとおり述べて、「あらかじめその請求をする必要がある場合」に該当するものであるとして、将来の養育費についての請求も認容しました。

被告は,本件合意書の効力を否定し,本件合意書に基づいて養育費を支払う意思がないことを表明していること,本件訴訟手続においても,養育費の支払について具体的な提案をしていないこと,原告に十分養育できる資力があり,他方で,自らの収入が十分でないとの事情変更を理由に,履行を拒否しているものの,家庭裁判所に対する養育費の減額申立てについては取り下げるなどしていることからすると,被告が今後,任意に本件合意書に基づく養育費の支払いについて,その履行することが期待できず,したがって,弁済期未到来のものについても,あらかじめその請求をする必要があるというべきである。

養育費については、その金額について一度合意をすれば、訴訟法上は通常の金銭債権と同じように扱われるものである。本判決は、実務上、その取扱が一見分かりづらい養育費について、このような考えを適用させたものであり、実務に携わる者にも大いに参考となる先例といえるでしょう。

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