
離婚する際、多くの夫婦を悩ませるのが「マイホームと住宅ローン」の問題です。特に、共働き世帯でペアローンを組んでいたり、夫のローンの「連帯保証人」や「連帯債務者」に妻がなっている場合、離婚後も借金の連鎖が続くリスクがあります。
「離婚したら自動的に連帯保証人から外れる」というのは大きな誤解です。 放置したまま離婚すると、元配偶者の不払いによって何千万円もの一括返済を突然迫られる事態に陥りかねません。
本記事では、離婚にあたって相手の連帯保証・連帯債務から外れるための現実的な4つの解決策と、同居中に集めておくべき重要情報について、離婚問題の専門弁護士が実務の実態に基づいて分かりやすく解説します。
離婚しても「連帯保証人」は自動的には外れないという厳しい現実
離婚調停や協議の場で、「これからは自分が責任を持ってローンを返済する」と相手が約束し、それを離婚協議書に明記することは多々あります。しかし、これはあくまで夫婦間だけの約束に過ぎません。
夫婦の約束と、銀行との契約は「完全に別次元」の話
あなたが連帯保証人(または連帯債務者)として署名した契約書は、あなたと金融機関(銀行)との間の法的合意です。夫婦が離婚したからといって、第三者である銀行にその約束は一切対抗できません。そのため、離婚後何年経っていようが、元配偶者のローン返済が滞れば、銀行は連帯保証人であるあなたへ一括返済を堂々と請求してきます。このとき、「もう離婚して赤の他人です」「協議書で夫が払うと決めました」という言い訳は一切通用しません。
「離婚するから外して」と銀行に頼んでも100%断られる理由
銀行の窓口に事情を話し、「離婚が決まったので連帯保証人から外してください」とお願いしても、例外なく100%断られます。銀行の視点からすれば、回収の担保となっている保証人を1人減らすことは、債権が回収できなくなるリスクを高める行為でしかなく、何のメリットもないためです。保証人を外す、あるいは連帯債務を解消するためには、銀行に「債権回収の安全性が保たれるような、納得のいく代替案」を提示する必要があります。
連帯保証人・ペアローンを解消する「現実的な4つの解決策」
それでは、離婚時に連帯保証人や連帯債務から抜け出すためにはどうすればいいのでしょうか。
実務で使われる現実的な手段は、以下の4つのルートに限られます。
| 解決策 | 実務難易度 | メリット | デメリット・リスク |
| ① 自宅の売却・完済 (アンダーローン) | ★★☆☆☆ (低~中) | ・離婚後にお金や名義のトラブルが残らない ・売却益(財産分与)を現金で山分けできる ・最もスッキリ解決する推奨ルート | ・マイホームを手放さなければならない ・市場価格での買い手が見つかるまで時間がかかることがある |
| ② 単独ローンへの借り換え (住み続ける側が単独契約) | ★★★★☆ (高い) | ・一方が自宅に住み続けられる ・現在の保証・連帯債務関係を綺麗に解消可能 | ・住み続ける側に十分な「単独での収入・信用」が必須(パート等では困難) ・借り換え時に数十万円の事務手数料が発生 |
| ③ 代替保証人・担保の提供 (銀行との交渉) | ★★★☆☆ (中~高) | ・現行のローン金利などの条件を引き継げる ・新たなローン契約の審査を受け直す手間がない | ・身内(親など)に保証人を引き受けてもらう必要があるが、承諾を得るのが困難 ・銀行側の審査基準もかなり厳しい |
| ④ 公正証書で求償権担保 (暫定的な手段) | ★☆☆☆☆ (低い) | ・銀行の承諾や事前交渉が一切不要 ・夫婦間で合意できればすぐに作成・手配できる | ・「保証人を外れた」わけではない(根本解決ではない) ・元配偶者がローン不払い+破産すると完全に無力化する |
※もっとも推奨される解決策は、上記の表における「①売却・完済」です。離婚後に法的関係を100%遮断できる唯一の方法だからです。
解決策① 自宅を売却してローンを完済する
自宅を完全に売却し、その代金で住宅ローンを完済(アンダーローン)できれば、連帯保証契約は自動的に消滅します。残った利益は「財産分与」の対象として半分ずつ分けることができます。
万が一、売却額よりローンの残債が多い「オーバーローン」状態であっても、「任意売却」という手続きを取り、銀行と協議して一定の条件で抵当権を抹消してもらい、家を売却した上で残債務を無理のない範囲で分割返済していく手法もあります。
解決策② ローンを「借り換え」て相手の単独名義にする
「離婚後も子どもを転校させたくないので今の家に住み続けたい」という場合に利用されます。自宅に残りローンを払っていく側が、別の金融機関で自分1人の名義で新ローン(借り換えローン)を組み、現在のペアローンや連帯保証付きの旧ローンを一括返済します。
この手続きが成功すれば、旧ローンは完済されるため、出ていく側の連帯保証義務は確実に解消されます。しかし、住み続ける側に「単独で借り換えの審査に通るだけの高い収入と社会的信用」がなければ、銀行の審査で却下されてしまいます。共働きを前提としてペアローンを組んでいた場合、単独名義への借り換えは極めてハードルが高くなります。
解決策③ 代わりの「保証人」や「担保」を銀行に提供する
現在のローン契約のまま、連帯保証人である配偶者を外し、代わりに十分な資力を持つ「親や兄弟」を新たな連帯保証人として銀行に差し出す方法です。また、親の所有する別の不動産などを追加の担保として提供することもあります。
銀行が「この新しい保証人・担保なら、回収リスクは変わらない(むしろ上がる)」と判断すれば、名義変更を認めてくれます。ただし、実務的には、離婚というデリケートな問題に両親などを巻き込む必要があり、親の承諾を得ること自体のハードルが非常に高いのが現実です。
解決策④ 【最終手段】公正証書で「求償権(きゅうしょうけん)」を取り決める
上記①〜③のいずれも実行できず、どうしても連帯保証人から抜け出せない場合の「最後の防衛策」です。銀行との契約は変更できないため、保証人の身分は残ります。その代わり、夫婦間で以下のような厳しいルールを合意で取り決めます。
- 主債務者(元夫)がローン返済を1回でも遅延させた場合、直ちに妻へ連絡し、状況を報告する義務。
- 万一、元夫の不払いで妻が銀行から請求を受けて代位弁済(肩代わり)した場合、元夫は妻に対して肩代わりした全額を直ちに一括返済すること(求償権)。
- 元夫がこの義務(求償金の支払い)を怠った場合、裁判をすることなく、直ちに元夫の「給料」や「預貯金」を差し押さえることができる(執行認諾文言)。
※注意点として、これは「夫婦間の争いを有利にするための盾」に過ぎず、銀行からの差し押さえ請求を拒否できる権利ではありません。元夫が破産してしまうと、この公正証書があっても求償権の回収は不可能になります。あくまで応急処置であるとご理解ください。
別居や離婚を相手に切り出す前に!「同居中」に集めておくべき3大情報
住宅ローンが絡む離婚を進める際、別居した後に情報を集めようとしても、相手が書類を隠したり非協力的になったりして、実態把握が非常に困難になります。以下の3つの情報は、必ず「同居しているうち」に確保してください。
住宅ローンの契約書(金銭消費貸借契約書)と返済予定表
・金利や残りの返済期間(何年ローンか)
・ペアローン、連帯債務、連帯保証のどれに該当する契約形態か
これらが記載された返済予定表や契約書のコピー(またはスマホでの写真撮影)をとっておきます。ネットバンキングの場合は、ログイン画面のスクリーンショットでも有効です。
不動産の最新の査定額(査定書)
家がいくらで売れるかを把握しない限り、財産分与の交渉も、任意売却の計画も立てられません。ネットの「一括簡易査定サービス」などを利用し、相手に知られないように自宅の査定書を取得しておきます。これにより、「アンダーローン(売却益が出る)」か「オーバーローン(債務超過)」かの正確なシミュレーションが可能になります。
相手の直近の収入証明書(源泉徴収票・確定申告書)
借り換えを検討する上で相手の返済能力を判定するための必須資料です。同時に、離婚調停や協議における「養育費」や、別居期間中の生活費である「婚姻費用」を正しく算出するためにも不可欠な証拠となります。引き出しや書斎を整理する際などに、必ず確保しておきましょう。同居中の配偶者であれば、相手の課税証明書を取得できます。
弁護士のホンネ

法律事務所
住宅ローンが残ったマイホームの離婚交渉は、判断を一つ誤るだけで、離婚後何十年にもわたって数千万円の債務リスクや名義トラブルを引きずる危険があります。
「相手の連帯保証人から何としても抜けたい」「損をしないマイホームの財産分与方法を知りたい」とお悩みの方は、お一人で悩んで別居や離婚を切り出す前に、専門家の力も借りてください。
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