
1 はじめに
別居後、あなたが配偶者から突然、仕事を辞めたということや、休職中で収入がないということなどを伝えられた場合、収入がなくなったなら婚姻費用は支払われなくなるのかと不安を感じる方も少なくないでしょう。
ただ、婚姻費用は、単純に相手の現在の給与額だけで決まるわけではありません。
実際には、相手側の事情を踏まえて総合的に判断されることになります。
また、実際に相手の収入がなくなっていたとしても、突然支払われなくなった場合には、実行できる手続きもあります。
今回は、配偶者が突然仕事を辞めたり、休職した場合に、婚姻費用がどのように判断されることになるのかということや、実際に支払われなくなった場合に取るべき手続きを解説します。
2 相手が仕事を辞めたり休職したら相手方の収入は0円として算定される?
まず、婚姻費用の算定のためには、双方の収入を認定する必要がありますが、相手が仕事を辞めたり休職した場合、相手の収入は0円として算定されることになるのでしょうか。
実際には、裁判所は単に現在の収入だけを見るのではなく、
・退職や休職の理由
・本当に働けない状態か
・傷病手当金などの収入状況
・将来的な就労可能性
などの事情を踏まえて、相手方の収入を判断することになります。
3 潜在的稼動能力があるかを判断する
まず、裁判所の判断で重要になるのは、潜在的稼働能力という考え方です。
簡単にいうと、本来であれば、どの程度働いて収入を得られる能力があるのかという見方です。
たとえば、健康状態に問題がなく、これまで安定した仕事に就いていた人が、自らの意思で退職した場合、裁判所は、現在は無収入でも、本来は一定の収入を得られるはずという判断や、すぐに同じ収入の職業に再就職できるという判断がされます。
そして、この場合はこれまでの収入と同程度の収入で認定されることになります。
そのため、相手は本当に働けない状態で将来的な就労可能性もないということを立証することが大事になってきます。
ここで、本当に病気などで働こうと思っても働けないことが立証された場合は、収入が0円として認定されることもあり得ます。
4 病気で休職している場合は?傷病手当金との関係は?
病気やメンタル不調などによって休職しているケースでは、傷病手当金を受給しているかも重要になります。
傷病手当金とは、病気やケガによって働けず、会社から十分な給与を受けられない場合に、健康保険から支給される制度です。
一般的には、休職前給与のおおむね3分の2程度が支給されます。
この傷病手当金についても、婚姻費用の計算上、収入として考慮されることが一般的です。
そのため、相手方が傷病手当を受け取っている場合は、その金額を収入として主張することが大切です。
もっとも、通常の給与より金額が下がることが多いため、結果として婚姻費用が減額されることにはなります。
5 調停調書や公正証書で婚姻費用の金額が決まっている場合は?
相手方が、収入がなくなったといって、いきなり合意していた婚姻費用を支払わなくなるケースもあります。
このとき、当事者間の合意のみで金額を決めているか、調停調書や公正証書で金額が決まっている場合かで取るべき方法は異なります。
まず、当事者間の合意のみで金額を決めている場合、強制的に相手方に支払わせる方法はないため、まず婚姻費用分担調停の申し立てもしくは訴訟提起を行うべきでしょう。
一方で、調停調書や公正証書で金額が決まっている場合は、いくら相手の収入が実際に0円になったからといって、自動的に調停調書や公正証書で決まっている金額が変わるわけではありません。
相手方には、そのまま、調停調書や公正証書で決まっている金額についての支払い義務が残ることになります。
もし、相手方が収入を0円として婚姻費用を計算してほしい場合は、改めて婚姻費用減額調停を申立て、それが認められる必要があります。
そのため、相手から収入がなくなったという理由でいきなり婚姻費用を下げられた場合、相手方の財産を差し押さえる強制執行の手続きを行い、相手の財産から減額された分を回収する手段をとることが可能です。
この場合、将来分についても給与を差し押さえて終期まで回収する方法をとることもできます。
婚姻費用減額調停については、以下もご覧下さい。
プロキオン法律事務所(https://rikon-procyon.com/)(横浜で離婚に特化した法律事務所として東京と横浜に事務所を構えています。)の代表弁護士の青木です。離婚や男女問題に特化した弁護士として、年間200回以上[…]
まとめ
・配偶者が突然退職・休職しても、相手方の収入が直ちに0円と認定されるわけではありません。
・裁判所は、退職理由や健康状態、再就職可能性、傷病手当金の有無などを踏まえて判断します。
・自己都合退職では、潜在的稼働能力が考慮され、従前収入を基準にされることもあります。
・調停調書や公正証書がある場合、勝手な減額は認められず、未払い分や将来分を強制執行で回収できる可能性があります。
弁護士のホンネ

法律事務所
婚姻費用の相談で、相手方が仕事を辞めたという理由や、収入が下がったなどの理由で一方的に婚姻費用を下げられたというケースは多くあります。
ただ、その理由がどのようなものかについて、しっかりと相手方に説明や立証を求めることが重要です。
相手の言い分をそのまま信じてしまい、不利な条件で合意してしまう前に、一度専門家へ相談することが大切でしょう。
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