別居中の妻や夫が自宅に住んでいる場合、離婚前後で自宅を明渡ししてもらえる方法

(2023年11月21日更新)

結婚して、念願のマイホームを購入したは言いものの、妻に自宅を追い出されて絶賛別居中。。。自宅ローンの支払いと、別居中の生活費で、財布が悲鳴を上げています。

というご相談者の方はかなり多くいらっしゃいます。

「妻(夫)が自宅に居座り続けてるから追い出してほしい!」という相談をされる相談者は多いのですが、これがなかなか難しいのです。
特に、相談者が妻(夫)の居住する自宅の住宅ローンの負担に加え、自分自身の自宅の賃料、妻(夫)への婚姻費用の負担もしている場合、月々のキャッシュフローがマイナスになっているケースも少なくありません。
そのような場合、キャッシュフローを改善するためには、自宅を売却するか、妻(夫)に自宅を明け渡してもらって自分自身が居住して、賃貸住宅の賃料の支払いをやめるという方法があります。
ただし、妻(夫)が自宅に居住を続けている場合、離婚成立前に妻(夫)に自宅を明け渡しを求めることは可能なのでしょうか?
また離婚時の財産分与に伴って、妻(夫)に対して自宅の明渡を求めることは可能なのでしょうか?

それでは、離婚に伴う財産分与などで、妻に自宅を明け渡してもらうための方法について、離婚に特化した弁護士である私の経験や関係する裁判例を踏まえて、解説いたします。

<この記事の著者について>

弁護士 荒木 雄平 (東京弁護士会所属)
弁護士法人プロキオン法律事務所 代表弁護士
離婚に特化した法律事務所を2015年に立ち上げ、離婚に関する法律相談は合計500件以上、解決件数100件以上。趣味はキャンプとワインです。

1.別居中に自宅の建物明渡請求が認められるかどうか

夫婦仲が悪化して、ソファーでくつろぎながらも夫とは異なる方向を向く妻

(1)離婚前は別居中の配偶者への建物明渡請求は困難

まず、離婚するまでは、妻を自宅から無理やり退去させることは困難です。
なぜなら、離婚するまでは、別居中でも扶養義務があるので、裁判所に訴えたとしても、明け渡しが認められることは通常ありません。

東京地方裁判所昭和58年10月28日判決(判タ517号131頁)は以下のように判示しています。
<以下、引用>

「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担しなければならないものであるから、夫婦の一方の所有に属する財産について、婚姻を維持するに必要な限度において、相手方は当然にこれを使用することができるものと解すべきであり、その所有者である配偶者は、正当な理由がないのに、他の配偶者の使用を拒むことはできず、このことは、婚姻が事実上破綻し、別居生活をしている場合でも、同様に解するのが相当である。」

以上のように、東京地裁は昭和58年の判決ですが、夫婦関係が事実上破綻して別居生活をしている場合でも、他の配偶者の使用を拒むことはできないとの理由で、夫から別居中の妻への自宅の明渡請求を拒絶しました。
ちなみにこちらの裁判例の事案では、夫の親族(前妻の子)が、夫から贈与を受けたとのことで所有権者として妻に対して建物明渡請求をしていますが、権利濫用であるとの理由で建物明渡請求を棄却しています。
これは約40年前の判決ですが、本記事執筆時点(2023年11月)でも基本的に裁判所の考え方は同様です。

ただし、あなたがローンを支払っていることによって、妻や子どもが住居費なしで自宅に住み続けているのであれば、別居期間中の生活費(婚姻費用)の支払いから、住居費相当額として一部を差し引かくことはできます。

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(2)離婚後は建物明渡請求は基本可能

他方で、離婚が成立した後も、100%夫名義の自宅に元妻が居住している場合は、夫から元妻に対して、原則として、所有権に基づく自宅の建物明渡請求をすることが可能です。

なぜなら、離婚が成立した後は、夫は元妻に対して扶養義務を負わないため、元妻は単なる無権利者として自宅を使用していることになるからです。

近時の裁判例ですが、東京地裁令和3年1月28日判決(令和元年(ワ)13016号)は、裁判離婚の確定後も、元妻が夫名義の自宅に子と共に居住を継続している事案で、夫から元妻に対する自宅の建物明渡請求を認容しました。

なお、元妻は、財産分与の合意が形成されるまでは自宅の潜在的持分があるから自宅を開け渡す必要はないと反論しましたが、これは裁判所に否定されました。

<以下、引用>

「 被告は,財産分与の合意成立あるいは審判確定までは,被告にも潜在的持分があるので,本件建物について占有権原があると主張する。
しかしながら,財産分与請求権は,当事者の協議又は審判によって具体的内容が形成されるまでは,その範囲及び内容は不確定なものであり,分与対象財産の占有権原たり得ない。また,本件全証拠によっても,被告が財産分与の対象となる本件建物を離婚後も使用することについて,原告と被告の間で使用貸借契約等の何等かの合意がなされた事実を認定することはできない」

ただし、東京地裁平成27年3月10日判決(平成25年(ワ)25585号)は、離婚の協議の際に、夫が妻に対して、「妻が就職し落ち着くまでは自宅マンションに住んでもらって構わない」と供述していた事案で、元妻が就職するまでの間の使用貸借の成立を認めています。

<以下、引用>

「原告は,本件離婚の際,本件マンションを被告に譲渡したとする認識はないところ,本件離婚後も被告及び長女が本件マンションに居住することは許容していること,原告自身も,被告が就職し生活が落ち着くまでは本件マンションに住んでもらってかまわないと考えていた旨供述していることからすれば,本件離婚当時,離婚後の本件マンションの使用について黙示の使用貸借の合意が成立していたと解することが相当である。
そして,本件離婚当時,原告及び被告は,お互いの再婚の可能性も認識していたこと,本件マンションの管理費及びローンは毎月20万円から30万円と多額であり,被告の収入は離婚当時,手取り月100万円程度ではあったものの,養育費を加えると再婚後の生活を維持していく上で決して負担は軽くないこと,被告の潜在的な能力が高く就職することも困難ではないと考えていたこと,原告は,当時被告が不貞行為をしたと考えていたこと,養育費の額(当時20万円)等の事情からすれば,本件マンションの使用目的は,被告が就職するなどして生活の目途がたつなど,転居を検討できるような落ち着いた状態となるまでの使用を目的としたものであるとすることが相当である」

以上のように離婚後であっても、離婚後も継続して居住することを許容、容認するような言動があった場合には、例外的に使用貸借の合意が認められてしまい、自宅建物の明渡が認められない事例もあるのでご注意ください。

2.基本的には任意での退去を交渉していく

妻に対して手を合わせて必死にお願いをする夫

(1)任意の建物の明渡の交渉について

特に離婚前では、別居中の妻や夫を自宅から無理やり退去させることはできません。

また、離婚後に建物の明渡しの訴訟を提起する場合でも、建物明渡請求訴訟のための弁護士費用がかかり、尚且つ期間も1年以上かかるケースもあります。

そのため、基本的には、(元)妻や夫に対して任意に自宅を明け渡してもらえるよう交渉していくこととなります。

(2)明渡のための金銭(立退料)を支払うことも

この場合、無事(元)妻や夫から明け渡しをしてもらうとしても、「転居費用や賃貸の初期費用がほしい!」ということで、お金を要求されることが多いです。

上記の通り離婚前には法的には建物明渡請求の請求は認められません。

その間の住宅ローンや自分自身の賃料支払いなどで継続的に大きな金額を支払い継続することを考えれば、(元)妻や夫の転居費用や賃貸の初期費用を支払った方が得なケースは多いです。

他方で、離婚後に建物明渡請求訴訟を提起する場合でも弁護士費用だけで100万円程度かかるケースもあります。

そのため、このようなお金の要求については、基本的には、財産分与や慰謝料など離婚の条件面で考慮することとなります。

3.どうしても明け渡ししてくれない場合はどうする?

それでも、(元)妻や夫がお子様が公立の学校に通っている場合など生活環境を変えたくないということで、明け渡しに応じてくれない場合も多いです。

そういったケースのときは、離婚成立前であれば、離婚の話し合いの中で、離婚後も一定期間(たとえば、子どもが成人するまで。)妻に自宅の無償使用(法律的には使用貸借)を認めるといった内容で合意することもあります。

その場合、あなたがローンを支払い続けることになるので、ローンの支払い分は養育費から一部差し引く(つまり養育費を減額する)といったことが多いです。

他方で、離婚成立後であれば、建物明渡請求訴訟を提起すれば建物明渡が原則として認められるので、その成否について弁護士に相談することをお勧めいたします。

弁護士のホンネ

別居中で、妻が夫の持ち家に住んでいるというケースは非常に多いです。

お客様が自宅の明け渡しを望んでいる場合には、もちろん自宅退去の交渉を妻側お行うことになるのですが、交渉が難航することが多いです。

特に、お子様がいらっしゃる場合には、転居すると、生活環境がガラリと変わりますし、お子様の福祉に影響もあるので、なかなかすんなりと明け渡しには至るわけではありません。

そういう場合には、明け渡しを諦めて養育費や財産分与などで妻に譲歩を求めるなどの善後策を検討します。弁護士の腕の見せ所ですね。

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