平成29年4月10日横浜家庭裁判所相模原支部判決(財産分与)

この判決(平成29年4月10日横浜家裁相模原支部判決/WLJ搭載)は、離婚を前提とし、財産分与として問題となる論点について様々な判断を行った事案として注目できます。

本事案は、夫である原告が、妻である被告に対して離婚請求をした裁判ですが、本判決は、離婚自体を認めつつ、妻に対して支払うべき財産分与に関して、以下の通り様々な判断を行いました。

1.共有財産から弁護士費用を拠出した場合の扱い

まず、本判決は、夫婦共有財産(夫管理)から、離婚のための弁護士費用を拠出した場合の取り扱いについて次のように述べました。

弁護士費用については,被告との間の紛争(調停等)に関する支出と推測され,夫婦の共同生活や財産の形成維持のための支出とは異なる

その上で、弁護士費用として費消した部分についても、原則として共有財産として扱うべき(減ってしまった部分は元に戻して計算をする)ことを確認しました。
もっとも、本件では相手の方も共有財産から弁護士費用を拠出していたことから、両者公平に扱うべきとし、結果としては弁護士費用として費消した部分はそのまま控除することを認めています。

2.共有財産から別居費用を拠出した場合の扱い

次に、本判決は、夫婦共有財産から、原告(夫)の引っ越し費用(別居費用)を費消した場合の取り扱いについて、次の通り述べました。

原告が被告と別居するに際し,転居等の費用として,50万円程度を要したとしても,特段不合理であるとはいえず,また,上記1認定の事実経過に照らし,別居もやむを得ない状況であったと認められる

その上で、この別居費用額について、共有財産から除外することを認めています。

別居費用は、通常、引っ越しを望む各自のためのものですから、共有財産からの控除を認めることは稀だと思われます。しかし、今回は、別居自体やむを得ない状況であったことを重視し、そのためにかかった費用については共有部分から除外しました。注目されるべき点です。

3.妻居住宅の住居費を負担していた場合の扱い

更に、本判決は、原告(夫)が、妻が居住している自宅の住宅ローンと管理費を負担していたことに加え、妻に対して婚姻費用を支払っていたことについて、次のように判断しました。

原告は,被告と別居後も,同人が居住する本件建物の住宅ローン及び管理費を専ら負担しつつ,自らは賃貸アパートに居住して賃料を負担していたこと,原告がこれとは別に,被告に対し婚姻費用を負担していることが認められるから,かかる事情は,清算的財産分与において考慮すべきものと思料する。

そして、別居後に住宅ローンとして支払った費用と管理費の約3割を、夫が妻に払うべき財産分与額から控除すべきとしました。
婚姻費用を定める際、妻の居住する住宅ローンや管理費用を一部控除することは認められていますが、本件ではそれが行われていなかったと思われます。そこで、財産分与の手続において、上記の点を考慮することにしたと思われます。至極妥当な取り扱いと考えられます。

4.別居時から婚姻費用調停申立前までの未払い婚姻費用の取り扱い

最後に、本判決は、婚姻費用の審判で夫に命じられた以前の未払い婚姻費用についても判断をし、別居後から婚姻費用調停申立前までの部分の未払い婚姻費用についての負担を命じました。

婚姻費用が審判で定まる際、その始期(婚姻費用を遡って払わなければならない時期)は、別居開始時ではなく、婚姻費用調停・審判の申し立て時とされるのが実務の運用です。
そのため、別居後から調停申立前までのグレーゾーン期間をどう取り扱うのかが問題となりますが、裁判で離婚が認められる際は、このように財産分与の範疇で考慮されることが多くあります。本件でも、そのような従前の取り扱いを踏襲したものと言えます。

以上、本判決は、財産分与において、実務上よく問題とされる複数の論点(しかし一般の書籍ではなかなか取り上げられていない点)について正面から判断をしています。したがって、特に弁護士を中心とする調停実務家においては、本判決は先例として大いに利用できる部分が多く、今後も参照される価値が高いものと言えるでしょう。


 

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